すだ
2025-12-27 12:07:26
7559文字
Public 主スバカグ
 

二人羽織

注意:嫁カグヤさんとクラリスさんが仲良くしています。苦手な方はご注意ください。
舞手スバルと嫁カグヤ。スバルのためにピリカに袢纏を作ってもらったカグヤがスバルと二人羽織をするお話。
ピリカさんとクラリスさんが出てきます。前半がピリカさん、クラリスさんのページ、後半がスバカグページになりますので飛ばして読んでいただいても。昔書いたお話の供養です。頑張っていちゃいちゃさせたので良ければ見て下さい……。



 ――へぷちっ
 間抜けなくしゃみが出て、カグヤは思わず口を押さえた。
「寒いか?」
 ピリカに尋ねられ、体を抱きしめながら答える。
「少し」
「お前は寒村育ちだというが、寒さには不慣れだな」
「そうなんです、自分でも不思議です」
 今日はいつもより冷え込み、防寒着を着ていても寒い。屋内で過ごすときのことを想像し、カグヤは憂鬱になる。
「防寒着を着たまま室内で過ごしてもいいでしょうか……
「お前が気にしないのならいいと思うが、動きづらいだろう? ……そうだな」
 呆れたように言ったピリカが少し考え込む。着いてきてくれ、と手招きされピリカの家の中で待つこと数分、奥から彼女が何かを持ってきた。一見すると座布団のように見える。
「これは?」
「半纏と言って、中に綿がつまった羽織のようなものだ。部屋着として使えるし、この方が動きやすいだろう。私のものだから、カグヤには小さいかもしれないが」
 防寒着を脱ぎ袖を通すと、少し手は出てしまうものの問題なさそうだ。何より温かい。
「ありがとうございます、ピリカさん」
「しばらく貸しておく。その間にカグヤの分を作るとするか」
「え? ピリカさんが作ったんですか?」
 裁縫が大の苦手なカグヤは、ついピリカに羨望の眼差しを送ってしまう。そんな大層なものじゃない、と顔を赤くするピリカだが、満更でもなさそうだ。
「でも、流石に申し訳ないです」
 カグヤが固辞すると、ピリカが反論した。
「冬の里に来るたび遭難しそうな顔をされてみろ。悲しくなるだろう。少しでも過ごしやすくなればお前も笑顔で滞在できると思ってな」
 まさかそんな風に見られていたとは。恥ずかしいことこの上ない。この里を愛しているピリカにも随分と失礼な振る舞いだ。
「ごめんなさい、ピリカさん。冬の里の皆さんは大好きです。この寒さが苦手なだけで、滞在が嫌なわけでは」
「分かっているよ。これは私のお節介だ。お前が気にすることじゃない。申し訳ないと言うなら素材を集めてきてくれ。この間クラリスもそうしていたぞ」
「クラリスさんも?」
「ああ。私とお揃いの半纏が欲しいと言うから、素材を集めてもらって作った」
 なるほど、それならカグヤにもできそうだ。
「やります。必要な素材を教えてください」
「助かる。くれぐれも動きやすい寒くない格好で行くんだぞ」
 なかなか無理な注文だが、カグヤは素直に頷いた。不器用な言葉はピリカなりの優しさなのだ。


「それなら私もお供します。私は寒冷地での野営をしたことがありますし、どうすれば寒さをしのげるか知識もあります」
 案内役は、事情を聞いたクラリスが買って出てくれた。冬の原野に未だ不慣れなカグヤにとってありがたい申し出だ。
「ありがとうございます、クラリスさん」
「頼んだぞクラリス。本当は私も着いて行きたいが」
「駄目ですよピリカさん。それではあなたに全部お任せしてしまうのと変わりありません」
 カグヤに言われ、ピリカは少し不満げだったが最後には頷いた。
「カグヤは真面目だな。だが分かった、それがお前の望みなら私はここで待っているよ」


「では、参りましょうか」
 クラリスに促され里の出口へと向かう。
 共に行動してくれるクラリスとは、時間をかけ打ち解けることができた。
 かつて彼女がターゲスアンブルフとして暗躍していたとき、カグヤの命を奪ったのは皇女に付き従うハウンドだった。
 そのことをずっと気にしていたクラリスは、戦いが終わりアズマに平穏が訪れた後、改めてカグヤに謝罪をするため春の里へやってきた。
『数々の無礼と無体、本当に申し訳ありませんでした。許されるとは思っていません……。あなたは私を罰する権利がある。お好きになさってください』
 込み入った話をするのなら、とうららかに言われるまま入った春の社でふたり向き合った途端、謝罪の言葉と共に額を床に擦り付けるクラリスを困惑しながら見つめたのを覚えている。
 カグヤは命を奪われた瞬間をあまりはっきり覚えていなかった。よく覚えているのは、目が覚めたとき瞳に涙を溜めたスバルの顔。琥珀色が涙に濡れ、どうして泣いているのか、ああでも何て美しいのだろうと思った。
 こんなことを考えていると知られれば方々に怒られそうなので黙っているが、己の犯した罪は命を落としても仕方がない程重いものだった。ルーンを奪い続けた代償としてこの身に何かあったとしても、受け入れるしかないのだ。
 ――当時は、そう思っていた。
 使命を果たす。その意味は人によって異なるだろう。黒竜の乗り手として行ったことは神から与えられたのだから使命である、という人もいるかもしれない。だが、カグヤにとっての使命は、アズマを、生きとし生けるものを守ること。奪うことではなかった。その信念を裏切ってしまった自分を許すことは、今でもできない。最終的にアズマを救うことになるのなら、と受け入れてしまった行為を正当化するつもりは全く無かった。自分の意志で行ったことは間違いないのだから。
 改めてクラリスを見る。先程から微動だにせず深々と頭を下げた細い体。体が小刻みに震えているのは悔恨のためか。犯した罪は違えど、彼女もまた罪の重さに押し潰されそうなのは一緒なのだと感じた。
『顔を上げてください』
 何度か促すと、ようやく顔が上げられた。銀鼠色の瞳が惑うように揺らめいている。
『あなたの言い分は分かりました。その上で、ひとつお願いがあります』
『何なりと』
『これからは私と、もっとお話してくれませんか?』
…………え?』
 それからは、まあ色々あった。逃げるクラリス、追うカグヤ。「私なんかに構わないでください」とクラリスに懇願されれば、「あなたのことを良く知らないのに、どうやって罰を与えればいいのですか? まずはあなたのことを知らないと」と応酬するカグヤ。果ては剣を交えることで互いの思いに触れ、ようやく決着した。
 元々動物好きで自然の中に身を置くことを好むふたりが仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。今では一緒に魔物退治へ出かけたり、牧場で動物たちのお世話をしたりしている。この地に災禍が二度と起こらぬよう奮闘すること。ふたりの間に交わされた誓いである。
 命を絶つことはしないものの、どこか自罰的で命を軽んじていた節のあったカグヤ。
 今は、死ぬのが怖い。生活していくうち四季里で多くの人たちと交流を深め、大切な人が増えた。見知らぬ地でひっそり命を終わらせるより、命を賭してこの人たちを助けたいと願ってしまった。
 咎人の自分が未来を望むなど、と悩んだときもあった。だがスバルがそれは違うと言った。生きて罪を償うのも贖罪なのだ、生きていて欲しいと。カグヤが抱く苦悩、後ろめたさ、彼の隣を歩くにはふさわしくないと拒絶する心。その全てをスバルは受け入れ包み込んでくれた。カグヤを構成する全てを愛してくれた。スバルを避ける理由がなくなれば、自分の心と向き合うだけになる。カグヤはこれからどうしたいのか、スバルとどうなりたいのかじっくりと考えた。
 熟考の末、彼を慕っているのだと結論が出た日。空はびっくりするくらいの快晴だった。まるで心のもやが晴れたようで、清々しい気持ちだったことは忘れられない。
 想いに気付いてしまえばスバルから逃れられる筈もなく、あっという間に交際が始まり今日に至る。


 クラリスと共に原野を巡る。途中、新雪に足跡を残してはしゃいだり、優雅に水面を渡る白鳥に見惚れたり、雪の結晶の違いを観察したりと寄り道はあったが、無事に全ての素材を揃えることができた。
 よほど楽しそうに見えたのだろうか。帰って来たふたりを見たピリカの眼差しがまるで母親のようだった。
 そうして出来上がった半纏はカグヤにぴったりで、思わず彼女はニコニコしてしまう。カグヤを見るクラリスも拍手をしながらニコニコしている。
「温かいです……。幸せです」
「そうか? それなら良かった」
 ピリカが顔を赤らめながら横を向く。
 おかげで冬の里に来るのが楽しみになった。半纏は私の家で預かるから、いつでも声をかけてくれとピリカが言ってくれたので厚意に甘えることにする。
 ふと、彼女よりもっと寒さに弱い恋人のことが頭に浮かんだ。
 スバルも半纏を作って貰えば、もう少し冬の里での生活が楽になるだろうか?
 思わずカグヤはピリカに声をかけていた。
「ピリカさん、もし良ければなのですが……