すだ
2025-12-24 00:30:00
12148文字
Public 主スバカグ
 

聖夜祭狂想曲

舞手スバルと嫁カグヤ。交際前。コタロウのためにサンタクロースになって里の子全員にプレゼントを配るクラマのお話で、スバカグもあるよ。1ページ目はクラマさん大活躍、2ページ目はスバカグプレゼント交換、3ページ目はおまけです。#スバカグ



「スバル、お疲れ様でした」
 少し休憩しようと里外れの椅子に座っていると、椀をふたつ手にしたカグヤに声をかけられた。
「ずいぶん冷え込んできました。一杯いかがですか?」
「ありがとう、いただくよ」
 椀を受け取ると中身は豚汁だった。体が温まりそうだ。
 冬月の秋の里は冬の里ほどではないものの、夜間はかなり冷え込む。今日はほとんど屋外での活動だからといつもより着込んではいるが、寒いものは寒い。
 隣に座り汁に口をつけるカグヤも、寒いのか厚手のひざ掛けを肩に羽織っている。
 温かいものを食べているからだろう、少し鼻が赤いと横目で見ながら椀を傾けた。
「はー……あったまる……
「はい……体に沁み渡ります……
 豚汁を食べ終わり、ふたり同時に息を吐いた。タイミングが同時だったことに思わず笑い合う。
「コタロウくん、良かったですね」
「うん。どうなることかと思ったけど、クラマさんがうまく収めてくれて良かった」
 こういうとき、矢張りクラマには敵わないと思う。スバルもコタロウを何とか元気づけようとしたのだが、うまくいかなかった。
「コタロウくんが駆け出したとき、真っ先に追いかけたのはスバルでした。あなたの言葉も届いていたと思いますよ」
 カグヤの言葉に目を瞬かせる。
「そうかな」
「はい。小さい頃私が泣いていたときも、いつもスバルが一番に駆けつけて慰めてくれました。迷いなくコタロウくんのもとへ向かうあなたを見て、優しいところは変わらないな、と懐かしく思いました」
 そんなこともあっただろうか。記憶は曖昧だ。だが、大人になった今でも困っている人を放っておけないのは、幼い頃の泣いているカグヤが思い起こされるからなのかもしれない。
「あなたのような優しい人が幼馴染で、誇りに思います」
「褒めすぎじゃない……?」
「そんなことありません」
 こちらを笑顔で見つめていたカグヤが怪訝な顔をした。何かおかしいところでもあるだろうか、と考えた矢先、カグヤが動いた。
「スバル、こっちへ」
「んん!?」
 羽織っていたひざ掛けを広げる姿に思考が止まる。
「顔が赤くなっています。寒いんですよね。くっつけばもっと温かくなりますから」
「ええ……?」
「ほら早く!」
「はい」
 褒められて照れ臭かったんだ、と言えないまま必死な様子に押し切られ、つい身を寄せてしまった。カグヤが肩にひざ掛けをかけてくれる。予想通りふたりで羽織るには小さいひざ掛けを密着した状態で使う羽目になった。
 横は絶対向けない。向いたら最後、顔の近さに悶絶する。甘い香りが鼻腔をくすぐる。触れ合う腕が柔らかい。最早寒いんだか暖かいんだか分からない。
「少しはましになりましたか?」
「ソウダネ」
「どうしました? 様子が変ですが……もしやまだ寒いのでは? もっとくっついてくれていいんですよ!?」
「大丈夫! 大丈夫だから!」
 これ以上は身がもたないので構わないで欲しい。
 一刻も早く話題を変えよう。スバルは切り出した。
「それより、クラマさんじゃないけど、オレもカグヤにぷれぜんとを選んでみたんだ」
「え?」
 驚いた声色に、さすがにやりすぎたかと焦るが、
「私にも、ぷれぜんとをいただけるのですか?」
 続いて弾んだ声が返ってきたので、どうやら取り越し苦労だったようだ。
「ちょっと待ってね、ここに……
「いつもより大きい荷物はそのためですか」
 無くさないように肌身離さず身につけていた鞄から、桜色の包みを取り出す。
「はい。気に入ってもらえるといいんだけど」
 なるべく顔を見ないように差し出したプレゼントを、恭しい仕草でカグヤは受け取った。
「ありがとうございます。ここで開けてもいいですか?」
「もちろん」
 心臓に悪いが、できるなら包みを開けたときの顔が見たい。快く了承すると、白いほっそりとした指が丁寧に包みを解き始めた。
「わあ……!」
 カグヤが感嘆の声を上げる。紅藤色の瞳が今夜の星のように輝いた。
「カグヤは動物が好きだから、こういう仕掛けのある絵本はどうかな、と思って」
「すごく素敵です! 頁をめくると動物が飛び出してくるなんて……! あ、ほら見て下さい。クマさんの親子です。ふふ、切り絵は絵とはまた違う趣があっていいですね。私も今度挑戦してみようかな……
 まるで子供のように無邪気な笑顔でこちらを見上げてくる想い人に、喜んでもらえて良かった、と安心する。距離が近いことには意識を向けないようにしながら、カグヤの話に耳を傾けた。
 ひと通り絵本を堪能した後、幼馴染は本を閉じ抱きしめる。
「ありがとうございます、スバル。最高の贈りものです。大切にしますね」
「うん、喜んでもらえて良かった」
 絵本を脇に置いた後、膝の上で拳を握り締めるカグヤの様子を見て、寒いのかもしれないと慌ててひざ掛けを返そうとしたら「寒いわけではありません」と断られた。
「あの……実は、私もぷれぜんとを用意していまして……
「えっ」
 これは夢か? いや、スバルが考えつくことをカグヤが考えつかないはずがないのだが、彼女にとって幼馴染でしかない自分のために何かを用意してくれるとは思わなかったのだ。正直言って嬉しい。今、非常に浮かれている。
「他の方にはお菓子を用意したんです。皆さんとても喜んで下さって」
「あ、ああそうだよね! うん……分かってた!」
 それはそうだ。誰にでも分け隔てなく接する彼女のこと、スバルに用意したなら他の皆にも用意するに決まっている。少し落ち込んでいると、隣のカグヤがこちらを見上げ赤い小さな包みを差し出した。
「どうぞ、気に入ってもらえるといいのですが……
「お菓子……には見えないような?」
 素直な疑問が口から出ると、幼馴染の頬が朱に染まった。
「いつも里長として頑張っているあなたには、特別、です」
 とくべつ。他とは違って、大切な様子。
 驚きで半開きになった口のまま受け取る。
 包みを開けると臙脂の巾着が入っていた。重さを感じるので中には更に何か入っているようだ。
 まじまじと巾着を見ると、縫い目が均一でないことに気がついた。
……これ、手作り?」
「あ、あんまり見ないで下さい! 縫い目もガタガタで……
「カグヤが作ってくれたの?」
 針に糸を通すことが壊滅的に苦手な幼馴染が、スバルのためにわざわざ苦手なことに挑戦してくれたという事実に頭がついていかない。
「裁縫が苦手なのにオレのために作ってくれたんだ。すごく嬉しい……
 巾着に入ったものの中身を確認する。
……石?」
 手のひら大の石だった。手にすると熱を感じる。
「マツリさんに教わって、石の中に熱を封じ込めてみたんです。寒がりのあなたが少しでも寒さを感じなければいいと思って」
 カグヤがぽつぽつと語り出す。
「持ち運びしやすい大きさにしたので、防寒にはあまり役に立たないかもしれません。ごめんなさい」
 悄然と肩を落とす姿に慌てて声をかけた。
「そんなことないって。いくら防寒していても指先は冷えるから、すごく助かる」
「良かった……。あ、あと、定期的に力をこめないといけないので、効果が切れたら私のところに持ってきて下さいね」
「うん……
 カグヤに会う口実までできてしまった。ありがとう聖夜祭。
 それにしても滑らかな手触りの石だ。ひっくり返したりくるくる回したりして感触を楽しむ。
「これ、どうやって見つけたの?」
「河原で手頃な石がないか探しました」
「ひとりで?」
「はい。結構楽しかったですよ」
 嬉しそうにカグヤが答える。幼馴染は、ときどき子供っぽいことをする。例えば今回のように河原でひとり手頃な石を探したり。それがたまらなく可愛いらしいのだけど。
「さすがにそこまで滑らかな石はなかったので、最後はザザさんに教わりながら研ぎました」
「だからこんなにスベスベなんだ」
 スバルのためにここまでやってくれたなんて、嬉しくてにやけそうになってしまう。すっかり冷えてしまった頬に当てると、「あっ」と慌てたような声がした。
「どうかした?」
「い、いえ。何でもないです……
 何故か頬を赤らめながらもじもじするカグヤ。
「その……気に入っていただけましたか?」
「うん、とっても。あったかいね……
「低温やけどをするといけないので、ちゃんと袋に入れて使ってくださいね」
「分かった」
 落とさないよう、そっと袋に戻す。巾着に入れても変わらず石は温かかった。これならいつもは胸元に忍ばせておいて、手先が冷えたときにでも使えそうだ。
「ありがとう、大切にする」
……はい」
 どんな花も霞んでしまう、美しい笑顔を目に焼き付けた。


 竜神社で寝支度を済ませ、改めてカグヤからもらった石を取り出した。温かさは持続している。大体どのくらい保つのだろう。
 なるべく早く効果が切れるといい。そうすればカグヤに会いに行ける。カグヤが力をこめる間、一緒にいられる。
 仄かな灯りに照らされた白く滑らかな石を飽きることなく眺め続けた。
 薄暗い寝室に淡く浮かび上がる白が、まるでカグヤのようで——気がつけば、そっと口付けていた。
 我に返り慌てて周囲をうかがう。幸いモコロンはすでに夢の中だ。ほっとひと息吐いて、ひとり頭を抱えた。