保科
2025-12-19 19:42:38
2441文字
Public スタレ
 

カードキー

記憶あり現パロ アグサフェ アグライアさんの住む部屋ってカードキーなんですか?という話 

多分ライアさん2回位締め出されてるしサフェもこの後3回くらいやらかして近所のコンビニで呆然とする かわいい オタクはホテルの部屋から閉め出された みっともない

「セファリア、こちらが私の住む――これから貴女も住むことになる部屋の鍵です。どうか大切に」
「だーかーら、『ことになる』かは未定だからね何度も言ってるけど。
仕方ないにゃー、受け取ってあげますよーっと。……?」
あたしがアグライアの家に住むか住まないか。
喫茶店の隅の席で散々問答しあっても尚結論は出ず。ひとまず鍵だけでも預かってください、という彼女の懇願に根負けの末。諦め半分でアグライアから受け取ったソレから、金属の手触りがしないことにあたしは思わず瞬いた。というか薄くてのっぺりして大きい――板?
……ねえライア」
「はい?」
「これ、鍵じゃなくて板じゃない?」
間違いじゃないのか。確かめるようにその薄く印刷の入った板を見せれば、ええ、とアグライアは気の抜けた声で相槌を打つ。
「そう……ですね、カードキーですので。
私の棲むマンションは、管理人の方の意向でオートロックとなっていますから……
「おーとろ……?」
「ふふ、いえ、寿司のネタではなく、オートロック、ですよ。………
……ふーん……
いまいちピンとこないあたしが、爪でぱち、とカードを2度ほど弾いたあたりで、アグライアは何かに気づいたように口を開く。
――セファリア、今日はここで解散、と思っていましたが。
得心が行かないようであれば、一度そちらを試してからにしますか?」
「ん?」


――え!?マジでこれで開くんじゃん、個人宅の鍵をこの板切れで管理してるってこと!?
何それ、……いや、鍵穴は!?」
「ですから、そういったものはないのです。
そしてこのように、――鍵は自動で閉まります。今施錠音がしましたね。セファリア、取っ手を引いてみてください」
「ええええ、……マジだ。マジじゃん。
こんなん泥棒の商売上がったりだよ……
「そこが狙い目ですから。
ふふ、元本職からその言葉をいただければ、きっと施工主も喜ぶことでしょう」
「伝えてもいいけど絶対あたしが言ったってことは言わないでよ……!?」

とんでもなく高いマンションの最上階。全てが電子駆動する錠前の仕掛けに、都度仰天するあたしの反応がおかしいのか、妙に上機嫌のアグライアから一通りの説明を受けた後。
想像している以上に、アグライアが受けている現代テクノロジーの恩恵がとんでもないことを知って、彼女の部屋のソファーで思わず脱力する。
この世界に生を受けてから、世間ってやつのことはそこそこ知り尽くしたつもりだったけれど、知らないこともまだまだ多いらしい。
……こーんな板切れでねぇ……
ともすれば光も透けそうなプラスチックの板に家財の一切を全部を預けるという感覚が、あたし的には不安定極まりないものに思えて仕方ないけれど――こういうのも慣れなんだろうか。
まあ、今にして思えば、一部を除いてひん曲げた心許ない針金で管理してたオンパロスと比べれば随分マシかも。あれハートヌスたちがどう頑張ろうとあたしの手にかかれば複製し放題だったし。
なら、この世界で詭術は果たしてどれほどの力を振るえるのだろうか?……なんて、そんな事を考えながらぼんやり天井を見上げていれば、アグライアが静かにあたしの隣に腰かける。
……もし、貴女が気に入らないようでしたら、今からでも鍵を取り替えますか?」
……。錠前ってそんなノリで変えられるの?」
目を向けると、アグライアは口元に手を当て、そうですね、と呟いた。
「おそらく、半年ほどいただければ」
――いやガチ工事じゃん。大袈裟すぎるって。要らない要らない」
未知に生活を託す不安はあれど、それはこれまでにも幾度となく経験したものだ。手間を掛けてまで回避したいわけじゃない(てか、住むって決めたわけでもないし!)。手を振るものの、気遣わしげな視線が収まらないのに、あたしは大丈夫、と繰り返す。
「あのさ、単にびっくりしただけだからそんな気にしないで欲しいんだけど……
あー、……じゃあさ、あんたがこれ使ってて、防犯上困ることとか、あるの?」
「いえ、それは――むしろ、金糸を失った事を差し引きましても、強固すぎる位で……
「だよね。そうじゃなきゃあんな楽しげに勧めないだろうしさ……うん、大丈夫。
そりゃ、不安じゃないって言ったら嘘だけど。ライアが信じるなら、あたしも信じられるから」
―――
ぱち、ぱち、と再度板を爪で弾く。最初はおもちゃみたい、と何処か懐疑的だった気持ちも、説明を経てみれば多少は理解も進むというものだ。とはいえやっぱり作りはおもちゃっぽい。
どういう仕掛けか、というのはちょっと気になるけれど、あたしのような一介の学生でも調べることは――
………ライア?」
「ああ、……すみません、つい」
背もたれに預けたあたしの頭に、突然アグライアの手が添えられて、思考が中断される。そのまま髪を梳くように撫でられるのを、のけようとは思わないけれど。真意を問うように向けた視線に、アグライアの瞳が緩く細められる。
「貴女が、愛しく思えて仕方なくて」
……―――
は、という疑問の声は喉奥で掠れて出なかった。
頭の奥、詭術の半神の記憶が、忘れていたのかとニヤニヤ笑いかけてくる。
――この女は、こうだったろう?
「いけませんね、……再会してからというもの。
貴女からの何気ない信頼を感じる度に、胸が高鳴って仕方ないのです。
ごめんなさい、セファリア。この世界では、まだ出会って間もない身の上と分かっているのですが。
……、貴女を戸惑わせてばかりの私を、どうか許してくれますか?」
くれますか、と懇願しながらも、その指先が甘えるように頬を撫でてくる相手の対処法を、あたしは知らない。――今さらながらに思い出す。
ここは、アグライアの家だ。
―――
真っ赤になった指先から取り落としたカードキーを、あら、とアグライアが拾い上げるまで、多分あたしは呼吸の仕方を忘れていた。