河童の皿箱
2025-12-18 08:43:58
36559文字
Public 遊戯王:長め
 

“Killer Tune”と…

とあるジュークジョイントがアルバイトを雇って起きたちょっとした話



 がらりと開いた引き戸。被っていたフードを外せば、「おかえり」と笑う能楽師たち。淡い緑に、提灯のような灯を載せては、3人揃ってお出迎え。「楽しかった?」。上の子がそう尋ねれば、「ただいま。楽しかったぞ。長い間留守にして悪かったのう。ほら、お土産じゃ」。そうしていくつかの紙袋を渡せば、子らは揃って目を輝かせた。「生菓子じゃから、早めに食えよ」と、パタパタ走る背中を見送り、男もまた、靴を脱いだ。

 次にひょっこり、顔を出したのは黒衣であった。「蓄音機、部屋に出してあるよ」と。「ありがとう。あぁ、パーツも送ってくれて助かった! なかなか、あの地域も難儀じゃのう」、と。ジャンクの山や廃棄物から取り出してきた昔の技術の本を渡せば、黒衣は頷いた。「でも、お宝もある。そうでしょう?」。その言葉に、男は笑った。「違いないな」、と。

 そうして分かれて、自分の部屋に滑り込めば、荷ほどきを始める。鞄の奥に丁寧にしまったレコードセットを取り出して、その中でもひときわ目立つジャケットを手に取った。金網越しの少女。握りつぶさんとばかりにかけられた指。瞳に灯った、青き炎。静かに燃える不屈の闘志を、男は酷く好ましく思って。すっとレコードを取り出せば、赤色のラベルが貼られていて目を丸くしていればなにか、紙がひとつ、はらりと零れ落ちた。

 男は拾い上げる。どうやら、手紙の様だ。読もうと開こうとするが、部屋に浮世絵師が顔を覗かせた。「おかえりおっ、それが件の?」。絵師が尋ねれば、男はにんまり笑って見せた。「ただいま。おう、ええじゃろ。初回限定版どころか、赤盤じゃ」。「マジか、そんな良いもの貰ったのかよ」。「羨ましいじゃろう? 頑張って働いた甲斐があったのう」。「あぁ、そうだ。お前に良い話がある。お楽しみの前に、ちょっとだけ時間貰えるか?」。

 男は頷く。レコードはとりあえず蓄音機へ、手紙はその脇へ。すると絵師は部屋に入り、タブレットを手渡した。「あの地域の調査、あんがとな。レポート助かった。薬物汚染の広まり方と、流通ルートは割り出せた。んで、その対処に金が流れて、配給が止まっちまって、貧困の深刻さが日増しになってるってのもな。そこで支援団体がチャリティーイベントを計画してな。支援金募って、あそこも含めたいくつかの地域の支援を増やそうって話だ。集まった額で支援が決まる。俺らも参加しようと考えてるんだ。後はお前の確認だけだぜ」。男はタブレットの情報を追う。第1段階では食料を、第2段階では医療を、第3段階では住居を。もちろん、それには数多くの支持と膨大な額が必要だ。けれど、男は躊躇なく頷いた。「っし、決まり。帰ってきたばっかで疲れてるだろ? 今日は俺が飯作るよ。できたら呼ぶぜ」。

 

 ふうと、男はようやく一息つく。この部屋には、途中途中で時折戻っては来ていた。けれど、やることをすべて終えてのんびりできるのは久しぶりだった。荷ほどきを再開する。エレクトリックに改造した箏の琴。ピカリと光る笛鼓。琵琶やれ、笙やれ、数多くの楽器たちを、ケースから解放してやった。洗濯ものを出してスーツケースを空にすれば、背伸びをひとつ。時計を見れば、飯の時間にはまだ早い。男はいよいよと胸を高鳴らせながら、再び蓄音機の前に座った。

 帰りがけに購入したダイヤの針を交換しては、レコードの上に落とす。ジリジリと痺れる様なノイズが、心臓を掴むようなビートに乗せて、盛り上がっていく。

 

 あぁ、あの音だ。彼女たちの音だ。男は笑んだ。リズムに乗って、膝を叩いてみたり。ずっと我慢を続けてきた、踊る身体を抑えずに。と、そうだ。手紙をと、男は手に取り、開いた。

 

『“匿名”およびバイト君 違うね

 P.U.N.K.のワゴンへ

 

 アタシらは アンタのホンキまで上がれなかった

 アンタはわざわざこっちのリングに下りてきて あれだけのプレイをして見せた

 悔しいよ 本当に悔しい トラブルに勝負をけなされたのも マジでむかつく

 だから 追いついてみせる いや 追い抜いてやる

 バカみたいに高いビルの上で 首洗って待ってろ

 

 キラーチューン

 

 追記 アタシらはアンタらの音で変わる気はない

 

    気づかいとかイラつくんだよ 胡散クセェ面しやがって

    変装すんな 真正面から来い

 

    あそびに くるなら おみやげ ほしいな~

 

    実は、まだひとり紹介できてないんだ。

    こいつらもお前も待ってる。時々遊びに来てくれよ。』

 

 男は細い目を、さらに細めた。目を閉じ、耳から骨を殴るような暴力を、心に染みわたらせる。

 

 「ははは、バレておったか」。男は雅楽師ワゴンは、頭を掻いては苦笑をこぼした。けれど。「そうこなくちゃな」。口の悪い手紙をなくさぬよう、真新しいジャケットに挟み込んだ。