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河童の皿箱
2025-12-18 08:43:58
36559文字
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遊戯王:長め
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“Killer Tune”と…
とあるジュークジョイントがアルバイトを雇って起きたちょっとした話
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グランプリへの準備は順調に進んだ。モデルもつつがなく納品され、機材の貸し出しを行っているイベントの提携店舗に行ってのテストプレイも問題なし。リハーサルだって何度も何度も重ねて来ては、アドリブの展開もお互いが理解できてきた。あとは、持ち込むレコードのリストを作るばかり。ミクスとクリップが寄り添って眠りについた後も、レコは店主と共に、リストの検討を繰り返していた。
毎日のプレイは楽しい。お客はよく盛り上がってくれるし、近くの連中はノリよく踊ってくれる。それでも、あくびのひとつやふたつはでてきて。手元には、これまで大量に焼いてきたレコード。レコのお気に入りがあれば、ミクスのお気に入りがあり、クリップのお気に入りがある。そのお気に入り全てが一致しているわけではない。
ミクスは比較的、明るい曲が好きだ。所謂、ハッピーとか、ファンコットとか、楽し気で踊りたくなっちゃうような、そういう奴。割とポップスも取り入れるかな。一方でクリップはもっとハードで激しいのが好きだ。誰もついてこれないようなスピードコアや、おどろおどろしいデスメタル。静かなのを挟むときは、それでもドラムンベースとか。
…
曲のジャンルも、全く持って好みが合わない。けど、好みを曲げさせることも、したくない。好きな曲をプレイしているふたりは、いつだって
…
。
仕分けを済ませれば、店主が気紛れにいくつかのレコードを取っていく。セットし、針を落としては、再生を開始する。音の調整をして、たった1人の客に聞かせてくれる。かける機会の少ないチルアウト。リバーブの浮遊感が、体をふっと脱力させる。舞台上に座り込めば、ブースから離れた店主が笑った。「ドウだ? 曲、決まったカ?」、と。少女は沈黙しては、けれど正直に答える。「実は、まだ迷ってて」、と。
「全員の好みをしっかり取り入れたいんだけど、ほら
…
かなり異色で、統一感がなくてさ。多くの人の前でやるんなら、ワガママも言ってらんないじゃん?
……
でも、そうすると今度はアタシららしさがなくなっちゃう。
…
アタシららしさってのも、わかんないんだけど」。ぽつぽつと。小さな背中をポンと叩いては、店主もまた、隣に座った。「オレは、オマエらが好き勝手してンのが好きダカラさ。ドーコー口出しスル気はネェ。タダちっと、オレのワガママも聞いてくんネェか?」。少女は首を傾げた。「アンタの?」、と。
店主のワガママ、というのは
……
少女は考え込んだが、それよりも先に、店主はひとつのレコードを取り出した。ずいぶん昔に製造された、真っ赤な真っ赤なレコード。何かの記念に作られたのだろうそれを、店主は再び立ち上がっては、チルアウトから徐々に盛り上げ始めた。低音帯を誇張して、ドツドツとフェードインするその旋律は
……
。
少女は目を見張った。「
…
懐かしい」。その一言に、店主はにっこり笑う。「これ、アンタが初めて聞かせてくれた曲だよね」。その記憶に、店主は頷いた。それからふたりは何を言うでもなく、流れ続けるEDMに耳を傾ける。踊るわけでもなく、歌うわけでもなく。
そこから何かに繋げはせずに。ダイヤの針が内周に到達しては、一気に静まり返った。ブースを止めて、店主が赤盤を取り出せば、「この曲、入れてくんネ?」、と。少女は口を閉じたまま。沈黙に気まずくなったのか、後頭部を掻くようなしぐさを見せれば、「アー
…
オレは今回、ソッチいけネーだろ? リストも、大体は新しい曲ダ。だからお気にの1曲だけでもッテ
…
」。そんな弁明の姿に、少女は溜息をついた。「
…
それ、ずっと探してたんだよ。でも、どこ見ても、どうしても見つからなくてさ」。
その言葉に、店主は目を丸くした。「コレを?」、と尋ねれば、少女はまた頷いた。「アタシらがDJやるきっかけの曲だよ? そりゃ使いたいに決まってんじゃん。でもまあ使い込まれてるのは覚えてたし、それに
…
赤盤だし。アレ以降は出さなかったじゃん」。「ウ
…
だって、秘蔵の
…
だシ
…
」。店主は少女の責めるような口調に、わずかに怯んでは、赤盤を隠そうとした。けれど。
「
…
でも、今日は持ってきてくれた。アタシたちにとっての特別な曲は、アンタにとっても大事な曲なんだって知れた。何より
…
」。口にすればするほど、少女は口ごもった。店主の顔を見ていられなくなって、目を伏せた。けれど、合成音声の笑い声はご機嫌で。レコードをジャケットに入れ直しては、少女に差し出した。
「クレグレも、大事に扱ってくれヨ? コピーはできても、オリジナルはコレだけなンだからヨ」。少女はしっかりと、両手で受け取っては、じっと眺める。このボロクラブに良く似合う、ボロいジャケットだ。かすかに見えるアーティストも、それが誰だったのかを知る由はない。けれど、彼はこの曲が好きだ。アタシも好きだ。ミクスも、クリップも。
ふ、と。少女の脳裏に浮かんだのは、それで十分、と。そんな言葉だった。あぁ、そうだ。アタシたちは全部が違う。好きなものも、趣味も、全部。それでも、ずっと一緒に居る。アタシたちを繋ぐのは、音割れの酷いスピーカーと、古臭いモニター。絡むコードと、回るレコード。
…
そう、これだけでいいんだ。
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