真九龍
2025-12-11 18:25:20
4768文字
Public 小説
 

柿色ノ味

干し柿を一緒に食べる&食事についてのお話。
【大正】の鳴海×ライドウと【昭倭】のナルミ×雷堂、二つのお話が有ります。
物語の展開と内容は一緒ですが、ニュアンスが少し異なります。
注:ライドウremaster版をプレイ及びクリア済み。


【柿色ノ味 ─Narumi×Raidou Ver.─】


大正二十年、冬の季節。
帝都に雪が舞い降り、一面を白に染める。
積雪は一寸半そこそこ(約五センチ)といったところか、と、鳴海探偵社の窓から眺めているのは、御存じ鳴海。煙草を吸いながら、愛しき想い人ことライドウの帰りを待つ。帝都の守護者は、季節天候気温時間帯関係無く、与えられた任務を遂行し、全うせねばならない。未だ十七歳の少年には荷が重過ぎると感じるが、ライドウ自らが其の道を選んだ以上、どうこう言う筋合いは無い。けど、無茶と無理はしてほしくないし、自分の身体を大事にしてほしいと、常に願う。

「只今戻りました」
!お帰り、ライドウ」

ライドウ、任務より無事帰宅。鳴海は彼の許に駆け寄り、帽子や肩に積もった雪を払う。ゴウトも身体をブルブルと振るわせ、毛に纏わりついた雪を落とす。

すみません、払ってくるのを忘れてました
「いいのいいの、拭いときゃ問題ないさ」

ライドウの頬が、羞恥で紅く染まる。鳴海に早く会いたくて、雪も払わず駆け足で階段を上ってきた、と、言える訳が無い。
ライドウとゴウトから落ちた雪は、執務兼応接室の暖に因って、じわじわと溶けていく。放置しておくと誰かが踏んで滑る危険性が有り、フローリングも痛む。ライドウが布巾を取りに行こうとすると、鳴海が「俺が拭くから座って休んでいろ」と制止し、執務兼応接室から退室する。
残されたライドウは、一先ず応接テーブルに紙袋を置く。手袋を脱ぎ、外套はハンガーに掛け、帽子は専用のポールに引っ掛け、装備のホルスターも一式全て取り外した。そして、紙袋を抱え、所長の執務テーブル近くに設置してあるソファーに腰掛ける。ゴウトもソファーに飛び乗り、欠伸をしながら身体を丸める。
早く戻って来ないだろうか、と、ライドウはそわそわしていた。昔は特に何も思わなかったことが、此処まで心が浮き立つとは。

「お?ちゃんと座ってるな。ちゃちゃっと拭いて、俺も隣に座っちゃおうかな~?」
「はい、待っています」

噂をすれば、布巾とバケツを抱えた鳴海が戻って来た。鳴海は弾むような口調で問いながら、濡れたフローリングをてきぱきと拭く。ライドウの答えは、勿論一択だけ。拒否する訳が無い、寧ろ、今か今かと待ち焦がれている程だ。

「よし、終~わりっと。片付けは後回しだな」

鳴海はバケツに布巾を掛け、うきうき気分でライドウの隣に腰掛けた。

「ところで其の紙袋、何が入ってるんだ?」
「滑って足を挫いてしまったお爺さんを、家まで運んだ御礼として貰ったものです」

此れを一緒に食べたくて、ライドウは鳴海を待っていた。紙袋の入口を開くと、中に入っていたのは、冬の風物詩。

!干し柿じゃないか」

 干し柿。
 実りの秋で収穫した柿の皮を向き、外で吊るし、乾燥させた保存食だ。干すことで甘味が凝縮され、糖度が増し、且つ栄養価も有る冬の間の定番おやつにもなっている。ライドウは紙袋の中から干し柿を二個取り出し、其のうちの一つを鳴海に渡す。

「じゃあ、食べるとするか」
「はい。では、頂きます」

二人は干し柿に齧り付き、ねっとりとした果肉の歯応えと甘さを楽しむ。

「干し柿こんなに美味しい食べ物だったんですね」

ライドウが微笑みながらぽつりと呟いた発言に、鳴海は「どんだけ厳しいところなんだよ」と心の中でぼやき突っ込む。ライドウの出身である葛葉の里は、外界から隔離されたような領域で、デビルサマナーの育成に心血を注いでいる。隣の少年は厳しい修行と鍛練に耐え、十四代目葛葉ライドウを襲名した。のだが、唯強くなることだけを求められた結果、甘味や玩具といった年相応の娯楽は与えられず、其の殆どを知らぬまま此の帝都に赴任してきたのである。
今食べている干し柿もまた、甘味の一つに入る。

干し柿を食べるのは、初めてなのか?」
!いえ、里でも冬の時期になると食べていましたただ
「(あ食べたことはあるのかまあ、保存食には打って付けだしな)ただ?」
己が強くなる為だけに食べろと言われていて─味が、よく分からなかったんです
(成程、そういうことね)

食べたことはあっても、強くなる為だけに食事をする。如何にも、葛葉の里が取りそうな方針である。ライドウが食べ物を味わう感覚─ 味覚 ─が養われなかったのは、其の所為か。

「出された食事をずっと独りで食べてきたので、尚更分からなかったんだと思いますでも、鳴海さんと一緒に食べたことで、食事は美味しいものだと初めて知ったんです」

葛葉の里から外界へ出、帝都に赴任してきたライドウは、質素な食事しか食べてこなかった反動か、ハイカラな見た目と香りに驚きを隠せなかった。最初は躊躇っていたが、ちょっと辛いけど中々美味い、とか、苦味がクセになる、とか、サラダと酸っぱいマヨネーズは良く合う、とか、最近の甘いものは進化しているぞ、と、鳴海が教えてくれたことで、味覚を初めて理解したのだ。

「食べ物は美味しいこと、食事は楽しいことだ思えるようになったのは鳴海さんの、お陰なんです」
………俺も食べるのが楽しいと思ったのは、お前のお陰だよ
?何か言いましたか?」
いや、何も。さ、干し柿を食べちまおうか」

男が小さな声で呟いた本音は、少年の耳に届くことはなかった。