保科
2025-12-10 08:55:26
1689文字
Public スタレ
 

お代につきましては

外側 ちょっとだけアグサフェ
https://x.com/i/status/1998423192017510554
↑前提の話

「では、お代をいただかなくてはなりませんね」
「おだい……!?」
補修した服を手渡してもらった矢先。
金織の店主の厳かな言葉に、子どもは思わず身をすくませた。――この店が、『とてもとてもたかくてすごい店』ということは、親から一度は聞かされる話だ。えらいひとのすごいおみせ。サフェルは大丈夫、お金はいらないよ、と言っていたのに、話が違う。どうすることもできず目を泳がせる子どもに、店主は小さくほほ笑んだ。
「そう、身構えなくてもよろしい。
……ただ、私に一つ、話をしてもらいたいのです。――貴女の知る、サフェルという人は、どのような人ですか?」
「サフェルさまのこと……?」
ぽかんとした子どもに、店主は口元に手を当て、頷いた。何せあの猫は秘密主義で、普段の暮らしについてはさっぱり教えてくれないものだから。
「ええ、例えばそうですね。……私のもとに向かうように、と、彼女は貴女に伝えたのですよね。
どのようにその話をしたのでしょう」
「え。えっと。えっとね。
わたしがね、木のえだにボタンをひっかけちゃったの。鬼ごっこでね、あ!あのね、鬼ごっこは、サフェルさまが、鬼でね、セリエヌスが声をかけたんだよ。仕方ないな〜って来てくれて、それで――
意図が分からないなりに、なんとか伝えようとする拙い説明に、そうですか、それで、と、店主の穏やかな相槌が挟まっていく。
――そしたらね、『大丈夫、あたしの名前を出せば、まほうみたいに治してくれるよ!』って、サフェルさまが言うの。だから、ほんとかなって、思ったけど。まっすぐいって、左に進むとおみせがあるよって……
これでいいのかな、と、不安げに子どもが言葉を切る。件の言葉を得意げに言い放つ情景がありありと思い浮かんで、店主は思わず苦笑した。
……全く。これで私が不在だったらどうするのでしょうね、あの子は……
ふふ、ありがとうございます、十分ですよ」
……あの、ほんとうに、これでいいの?」
「ええ、代価としては勿体ない位には。……ですので、これで支払いは完了です。
さあ、お行きなさい――次は取れないよう、気をつけるように」
……
「どうかしましたか?」
追い立てたにも関わらず、まじまじとこちらを見つめる子どもの視線に、店主が首を傾げる。子どもは暫く黙り込んだ後、意を決したように口を開いた。
……、アグライアさまは、サフェルさまのこと、好きなの?」
――そう、ですね」
予期せぬ問いに、店主が少しぎこちなく同意すれば。ぱあ、と子どもの顔が華やいだ。
「そうなんだ!いっしょだね!」
「ええ。……ええ、私も、貴女と同じように、彼女のことを――
「わたしもだけどね、あのね、サフェルさまともいっしょ!」
―――
ぱち、と、理解が追いつかず瞬く店主に、子供は楽しそうに笑いかけた。
「アグライアさまのお話するサフェルさまと、サフェルさまのお話聞いてくれるアグライアさま、おんなじ顔!」
「同じ、」
――今、自分の顔を確認する手段を、店主は持ち得ない。頬に触れながらなぞった輪郭から、そこに浮かぶ感情を想像するのは困難だ。けれど、もしこの心にあるのと同じものを彼女が抱いてくれていたのなら。もしかしたら、同じような顔になるのかもしれないと、ふと思って。口元を綻ばせる。
そうであったなら、それはきっと喜ばしいことだ――きっとあの子は、呆れた顔で否定するだろうけれど。可能性で弾んだ気持ちは、誰でもないアグライアの口を軽くする。
……ええ。
私も、彼女のことが好きです。愛しています――貴女達に、負けない程には」
微笑むアグライアに、わあ、と子どもが歓声をあげる。愛していますなんて、両親からしか聞かないすてきな言葉だ。
「じゃあ、わたしとどっちがサフェルさまのこと好きか、しょうぶだね!」
「ふふ。そうですね……負けませんよ、お嬢さん」
――アグライアさまとライバルになったの!という報告は、さて、他の子供たちの相手をしながら吉報を待っていたサフェルの度肝を抜くことになる。……いや、何やってんの裁縫女?