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ツキシキ
2025-12-09 19:16:03
7063文字
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【グノーシア】軍人、凡人、ただの人【ゲーム版】
二次創作。主セツ。ネタバレ(格納庫イベント・やってしまいました)。
1
2
前提
・主セツ
・主人公の性別は設定なし
・主人公視点とセツ視点が交互
_________
頑として格納庫の調査を阻むジョナスを前に、セツは耳打ちをしてきた。
(
……
全く話が通じそうにないね。どうする?)
そう言うセツが本当に、心底困った顔をしていたものだから、私は思わず笑ってしまったのだった。
なんて、真面目な人!
私たちのループを終わらせるために、この格納庫の調査は必須だ。逆に言えば、ククルシカの謎を解かずにループが終わることはない。ゆえに、問題など何一つないのだ。
────どうせやり直せる。
論理的なセツが気づいていないはずはない。なのにこれほど困った顔をしてしまうのは、きっと彼の中に道徳とか義務とかが根付いているからだと思う。軍人として根付いた、人命保護の第一優先。
(私を頼ってくれていいのに)
セツに微笑み返す。こちらを見つめる赤い瞳に疑問が浮かんでいる。私は、きっと同じ赤色をしているであろう瞳で見返した。
「殺そう」
セツの凛々しい目が限界まで見開かれる。その素直さがますますおかしくて、私はとうとう声を出して笑ってしまう。
ジョナスが片眉を上げた。私の不穏な一言を聞き取ったのだろう。それでよかった。だって何も影響はない。
今も、やろうと思えばもしかして、できるのかも?
「ちょっと待って!」
ぐいとセツに腕を引かれて、格納庫の外へと連れ出されてしまった。まあ、問題ない。次の空間転移までそう長くはないのだから。
立ち去る私たちの背中を押すようにジョナスの声が響く。
「ひとときの休息はどうやら永遠の安寧への約束だったようだ。さすれば静かに、泡沫で胡蝶の夢を見るとしよう
……
」
ほら、何も問題はない。どうやらジョナスは、あれを辞世の句にするようだ。
◆◆◆
「殺そう」
慈愛のこもった柔らかい声だった。抱きしめてあげる、と、言って聞かすような声音だった。内容の凄惨さに反して。
微笑む相手と裏腹に、私の心が強くブレーキを踏むのを、感じた。
────わかっている。
私は乗員で、隣にいるのはグノーシア。バグはいない、純粋な敵対陣営だ。そのうえで銀の鍵の謎を解明するために、役割を抜きにして協力しようとも同意を得た。その協力の範囲が、もう少し穏当なものだと仮定しまっていただけで。
でも、民間人の、ましてや本来穏やかな口で「殺そう」なんて言葉が出てくるなんて。
……
私の覚悟が足りていなかった、とも言えた。
曖昧な答えで踏み出し切れずにいる私をよそに、もう、事態は動き出そうとしていた。ジョナスの喉笛を狙って、腕が持ち上げられている。
「あっ、ちょっと待って!」
伸ばされた腕を、慌てて私が横から奪い取る。そのまま格納庫の外へと足を動かした。
「はあ
……
」
なんとか息を落ち着ける時間をもらって、ようやく私は息をついた。
──ジョナスを、殺す。
私の中のロジックは、何も問題ないと囁いてくる。過去のループでも敵対する相手を何度も消してきた。そのくせ心の中枢の何かが、駄目だ、と強く動きを軋ませる。
隣で静かに佇んでいた相手が、ふと、声を上げた。
「ああ、」
グノーシアの兆候である赤い瞳を携えて、こてん、と首をかしげる。
「今のセツは、まだ、ループが少ないセツ?」
銀の鍵の所持者同士、ループの回数は合う方が珍しいくらいだ。記憶している回数を告げれば、相手の方が二回りは多かった。それで、だろうか。どこか悠然とした雰囲気さえ感じるのは。
大きな瞳をうっとりと細めて、唇が開く。
「じゃあ。まだやっちゃってないんだ」
「ジョナスを? 過去にそういうループがあったのかな」
「違う違う」
忍ぶように笑う。慈しみのこもった視線が向けられる。なんだかそれが、出来の悪い子を見守るようなものに感じられて、つい居住まいを正す。
けれども、違うと否定をされるだけで、 正しい答えは返ってこなかった。
「終わったら教えるよ」
その顔を見て、私はなんだか妙に腑に落ちてしまう。確かに、目の前の相手はずいぶんとループを重ねているらしい。そう感じさせるだけの昏さを、赤い瞳の奥に見た。
「
……
生き延びられたら良いね、お互いに」
呟いてしまったのは、たぶん、祈りだったのだと思う。
だって生き延びるも何も、私たちの役割は袂を分かっている。
「なんて、おかしなことを言っているか
……
」
気まずさに俯けば、傍らから、ふふ、と笑い声が漏れた。流れ落ちた私の横髪を掬い取るようにして、私の耳元に指先が、触れる。
「『私を守って』──って、言ってくれればいいのに」
びくっと身体が跳ねた。くすぐったさからだけではなかった。致命的なすれ違いを感じた。守るのは、私側の職務だ。
思わず顔を上げれば、変わらずとろけるような笑みがある。
「『生き延びられたら』じゃなくて。『生き延びたい』で、いいんだよ」
「いや、そんなのは」
卑怯だ、と言いたい。けれども言えなかった。その隙を縫うように、
「グノーシアになったSQと残ったことはある?」
意外な質問が飛んでくる。
「え
……
」
ぶわりと蘇る。嘘の得意なSQの満面の笑み、本心からの嗜虐、鎖の金属質な音、首に巻かれた枷。息を努めて止めたのは、軍人として心情を顔に出さない訓練を無意識になぞっていたのかもしれない。
けれど、無を装う方が親しい相手には見透かされてしまうのだろう。全てを見通すようなまなざしが、私を貫いていた。
「あるんだ」
「
……
そう、だね。汚染されたSQを相手にするのは
……
厳しかった」
あえて嘘を言い張る必要はない。素直に認めれば、慰めるように距離を詰められる。
「大丈夫だよ。私がセツを守って
……
最後に一番楽に終わらせるから」
また、すれ違っている。私は後ずさって逆に距離を取る。
「いいのかな? そちらの仲間にはSQがいると、自白したようなものだけれど」
「私を信じてくれるのなら、そうかもね」
じゃれつく小動物を愛でるような声色だった。じっと見つめて真贋を図るも、微笑はひたとも動かない。赤に侵された瞳の奥には闇が広がるばかりだ。
……
読めない。
「
………………
ジョナスを排除する」
声に出して宣言したのは、自らへ決意を強いるためでもあった。同時に、責任を己の身に収めて誰も引き込まないためでもあった。けれども、その線引きはやすやすと超えられてしまう。
「じゃあこの後すぐ殺すね!」
どうしてそんなに、嬉しそうなんだ。
ぽーん、と定刻を知らせる音が鳴る。いよいよ空間転移の時間が近い。
「ジョナスが
グノーシア
なかま
じゃなくて良かった!」
笑みはますます華やいでいく。それと反比例するように私の足元は揺らいでいく。
私よりずっと周回を重ねているのなら、人だって消し慣れているだろう。そして、私もきっとこれから、そうなっていくのだろう。習慣づけと反復は軍事訓練にも似ている。大義名分のために人を殺すことは、宇宙では、悲しいかな、珍しくはない。
でもそれは軍人の領分だ。
君では、ない。
だが。
気づけば拳を握りしめていた。
「
……
いいん、だろうか」
──君にもう人を消してほしくない。
なんて。
一人でやり切れもしないのに言えるわけがない!
「良いんだよ」
与えられた許しに顔を背ける。それでも、柔らかなまなざしを肌で感じる。あたたかいと呼ぶには蠱惑的なものが、私の周りを膜のように覆っていく。
握りしめていた私の拳に、そっと控えめな仕草で、掌が乗せられた。体温が私の拳を撫でて、ゆるやかに、その強張りをほどこうとしてくる。
だめだ。突き放せない。
────葛藤で揺らぐのは、折れてしまいたくなるほど、疲れる。
「セツを困らせる人は、全部消しちゃおうよ」
必死に踏み留まっていた崖から、優しく私は突き落とされた。
◆◆◆
ジョナスを消してメインコンソール室に集合する。横目でセツを伺うと怜悧な表情がそこにはあった。
「
――
提案。ドクター権限を持つ者は、恐れず名乗り出てほしい」
色々な宣言が飛び交う中、私も手を上げる。セツの潔白を訴えれば、初めに同意したのは情に厚いジナだった。
「同感。セツを疑う必要はないと思う」
「そうね
……
。セツには、今しばし頑張って貰いましょうか」
意外だったのは夕里子だ。嬉しい誤算とも言えた。彼女が付いてくれるならセツの立場は盤石だろう。
セツは場の観察に努めるらしく、静かに各々の表情を観察している。目が合った時に微笑んでみたけれど、視線はすいと逸らされた。少しあからさまだったか。あるいは自慢気になってしまっていたかもしれない。反省。
まあ、何にせよこれで私のお仕事は終了だ。
(セツ、ほめてくれないかなあ。くれないだろうなあ)
我ながら苦笑する。ジョナスを恣意的に消すことへの抵抗と言い、このセツはまだ、“やってしまった”ことのないセツらしい。
(もっと自由でいいのに
……
)
内心で呟けば、グノースからの贈り物が沸き立つのを感じる。正しいことを正しく為すのは、とても、とても気持ちが良い。
昂ぶりを抑えるように息をついた拍子、コメットがこちらを凝視しているのに気が付いた。
「僕、君のことメチャ疑ってるから。覚えといてくれよな」
刃にも似た鋭さだった。
ああコメットはそうだよねえ、と、視線を斜め下へと逃がす。小さく哀しみをこぼせば、周りが丁寧に拾っていってくれた。
「こいつ、誤解されやすい奴なんだよ」
「
……
うん。僕も、そう思います」
哀しみは嘘ではない。だって、セツと生き残れないのは寂しい。
コメットは眉を寄せて唇を突き出す。疑いは晴れないようだ。それでも、決め手に欠ける、ということにはなったらしい。
疑われたという事実を内心の打算にすり替えれば、投票を逃れるのは楽だった。
「セツ!」
セツは格納庫の扉に背を預けていた。私が駆け寄ると、凛々しい眉が緩む。嫌われてはいないのかな、と、少しほっとする。
「行こうか」
ジョナスのいない格納庫は、不思議とひんやりした雰囲気を感じた。物が置かれているだけの空間というのは、どうにもうら寂しい。
セツがLeViと交渉を始める。管理権限のやり取りとなると一般人でしかない私は蚊帳の外だ。それでも会話の端っこくらいにはしがみつこうと頑張っていたが、結局詳細はわからなかった。
きっと今の私は頭からぷすぷす煙を出していることだろう。
「グノーシア反応が無くならない限り、権限はもらえないみたいだ」
セツがやりとりを要約してくれる。今回のループでの調査は諦めるしかないようだ。
「残念だけど、また今度か
……
」
宝箱が目の前にあって、なお開けられないというのはもどかしい。
(せっかく楽に消せたのにな)
第一目標はとん挫したが、このループでやること自体は変わらない。セツと二人で生き延びて、最後に私がセツを消す。誰に味方してもらえばいいか
……
と考えていると、
「すまない」
ふいに沈んだセツの声がした。
「君の手を汚させたのに、無駄になってしまった」
その心底苦々しい顔はもはや憐れみすら感じるほどだった。
なんて、真面目な人
……
。
「もうグノーシア汚染されてるのに、気にするの?」
努めて茶化すように言うと、思いのほか真っ直ぐな視線が返ってくる。
「そう
……
なんだけどね。うん、私の気持ちの問題なのかもしれないな」
セツは心のありかを確かめるように、胸元で拳を作っていた。
……
セツの真面目さは、透明な水晶にも似た美しさがあって、とても好きだ。でも、だからこそ、早くひび割れてしまえばいいのにとも思う。だって、綺麗なものを綺麗なままで保つのは、ひどく
……
ひどく、途方もない努力がいる。
「私のことは私に任せて」
出た声は自分でも意外なほどに軽やかだった。セツに重石を強いたくない気持ちがそのまま声になったかのようだった。
もともと私たちはルゥアンの事件でセツに助けられてここに乗船した身だ。だからきっと、ううんそうでなくても、私たちを保護しようという責任感がセツを強く縛っているんだろう。
────早く解放したい。
「私は好きにするよ。好きにできるやり方も、だいぶわかってきたんだ。だから、大丈夫」
二言三言喋っただけで、氷の視線と槍の言葉が降ってきたあの頃とはもう違う。みんなが好む話し方なら、もう十分わかってきた。
────私だって、セツを守れる。
高揚が自分の体を駆け巡るのを感じた。グノースの意思が全能感となって私の意思を後押しする。
セツを守りたい。セツ自身にも、セツを守ってほしい。
自らが擦り減っていくことを、どうか肯定しないでほしい。
「お互い、やりたいように全力でやろう?」
唱えるように、祈るように、誘いをかける。
「やりたいように
……
」
ぽーん、と定刻を告げる音が響いて
……
……
暗転。
◆◆◆
そうしてまた、1日目がやってくる。
寝台から身を起こす。横髪をヘアピンで整えて、船員情報を確認する。「沙明」という文字列に、少しばかり顔を顰めてしまう。強く拳を握りしめて、気合を入れる。
(今回の権限表示はなし
……
私は乗員か。まず奴を引きずり出して、議論を始めて
……
)
自分の取るべき行動が脳内を流れていく。何度もやった流れだ。まずは沙明を議論の場に引きずり出すところから始まる。
だが。
「あれ」
今日は妙に、つまずいた。足が重い。早く説得に向かわないといけないのに。沙明は異様に口が回るし粘り強いから、そのぶん時間を取られるし、何より身体的な接触が多いから
……
。
「
…………
」
爪先が、思ったところに着かない。
ついに、足が止まってしまう。
共用通路には誰もいない。でも、そこに私は過去の記憶を見る。あの人の顔。大輪の花にも似たすがすがしい笑顔。
────セツを困らせる人は、全部消しちゃおうよ。
脳内で再生される声は泣きたくなるほどに鮮やかだ。
「
……
いいのかなあ」
あまりに小さな呟きだったから、反響すらもしなかった。零れ落ちるように指先が解ける。ため息とともに肩肘の力が抜けて、床にへばりついていた足の裏が、軽やかに離れる。
(なんて、気が楽なんだろう
……
)
沙明を部屋から出すのは簡単だった。一度だけ、嘘をつけばいい。受け入れるという嘘を。
ハッチを開ければ、銀河が無限に煌めいていた。広大な宇宙の中で、私はほんとうに、ただの人間なのだと思い知らされる。乗員だとか、軍人だとか、銀の鍵の所持者だとか、そういった付属情報を抜きにして。まず、ただ、私はどうしようもなく人間だ。
「やってしまった
……
」
沙明と二人で入った部屋から、私は一人で出て行った。
◆◆◆
乗船したはずの沙明がいなくて、私は首を傾げる。話し合いの始まる前から人が欠けているなんて、初めて経験する展開だ。LeViの報告によれば生体反応が消失したらしい。
一人だけ船外に出たということだろうか?
あの、沙明が?
順番にみんなの顔を眺め見て、最後にセツと目が合う。挟んで一拍。視線が逸らされる。
「つい
……
やってしまいました」
そう言うセツが本当に、心底気まずそうな顔をしていたものだから、私は思わず笑ってしまったのだった。
なんて、正直な人!
~END~
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