ジルク
2025-12-01 20:04:57
2233文字
Public 白鳥自カプ
 

テーマ「花」

CoC「白鳥の歌を謡うとき」ネタバレ
特にいつ頃の話とかないけど書いたのは生体解剖より後。

「なあ、これ、何かわかる?」
手元で弄んでいた一輪の白いバラを彼の目前に差し出す。彼は瞬きをして、バラだな、と答えた。
「そう。久し振りに『ロミオとジュリエット』を読み返してさ、それで買った」
彼は口元で小さく笑んだまま、僅かに困惑した表情を浮かべる。別に分からなくていい。こちらが話したくて話しているだけだから。
「バラをバラと呼ぶことに何の意味があるだろう。例えばお前が赤いバラを想像して『バラが欲しい』と言ったとして、渡されたのがこれだったらどう思う?」
言葉を探す彼を待たずに続ける。
「どうしたら特定のバラを示すことができると思う? 『赤色のバラ』って言ってみる? 品種名で呼ぶ? どこで誰に育てられたかで区別する? 開花具合を説明してみる? 固有名詞でも付けてみようか? それで相手に伝わるかな」
彼は口を噤んでただこちらの話を聞いている。眉の下がり方や視線の揺れ方で、“理解していないのに届いている”と分かる。
「これやるよ」
白いバラを彼に渡す。彼は花を見つめ、香るように顔へ近付け、戸惑った声色で言葉を漏らす。
「そう、造花。何と呼んでも甘い香りはしないけど、お前はそれをバラと呼んだし、今それはお前の『特定のバラ』になった」
彼がその人工の花を花瓶に挿し、毎日愛でる姿は容易に想像がつく。
生きていない代わりに死なない花を。毎日水を与える代わりに埃を払い、愛でることを。彼はきっと偽物とは見なさないだろう。そこまでされた花は、一体生花のバラと何が違うだろうか?
造花を見つめる彼の曖昧な表情は、尊く魅力的に見えた。