MN*B
2025-12-01 07:28:51
7471文字
Public 宗おに:二次創作
 
1826986

【宗おに】カレンフェルトで踊る/En Dans på Karrenfeld|オリジナルキャラあり

ゲーム主人公:居る。名前変換できるけど、脇役程度。
一人称:変更できるけど、ゲーム主人公のものではない。
1ページ目:おにいさん視点 2ページ目:教主様視点
この間書いた小説を経て、教主様とのカプもアリだなってなったんですけど、教主様とくっつくゲーム主人公を出力できなかったので、オリジナル信徒ちゃんでお送りします。
でも、教主様が求めたくなる人物像を考えていたらこんなのになっちゃいました。求めるって、たぶん意味違うなぁ。しかも最近また教主様への解釈に自分の中で変更があったんですが、勿体ないので投稿します。
これが自分なりに甘めな小説です。恋、愛……?というより、執着でしかないと思います。残念ながらこういうのしか書けないんですねー。

伊鶴伊鶴伊鶴伊鶴伊鶴伊鶴その人を語るには、あまりにも捉えどころがなかった。
俺が蛙之蜜に入る前からすでに居て、どう見ても俺より年下で若い子だった。でも、どの人に尋ねても皆、口を揃えて言った。「自分が入る前から居た」のだと。

そのヒトは教団員の理想のようでいて、少し違った。
部分的に教義に忠実で、きっと理想形に最も近くて。変わらず、教育という成長もなく、純粋な、教義に書かれた通りの、在るべきヒトの姿をしていた。
だから、我儘が許されていたのかもしれない。その我儘すら純粋さの証のようなものだったから。
快不快がはっきりとしていて、時に不安で誰かの注意を引き、不満でむくれる程度の癇癪を起こす。手のかかる子供そのままで、まだ未成年らしい見た目の通り……というには幼さが目立ったけど。
お菓子を食べて「あまーい!」と喜ぶような、純粋な子供のままの人。そんな彼女の興味や関心を満たしてあげることで、誰もが満たされていた。

しかし、今となっては少しの畏怖すら俺は感じている。……一度は教団を去った人も、この人の手を引いて帰ってきたことは一度や二度ではない。
その彼女が、俺の目の前に居た。

伊鶴さんと出掛けた先で、まるで偶然かのように、彼女は俺達の前に現れたのだ。
俺は咄嗟に伊鶴さんを背後に隠して、彼女と対峙する。
そんな俺の腕には伊鶴さんの手が添えられていて、それだけなのに不思議と心が落ち着いた。

そのは俺が蛙之蜜にいた時と何もカワらず、幼い印象の笑みを浮かべて俺のことを見上げてくる。
彼女の教団員で揃いの質素な服にシンプルな作りの靴、個性を削られた装いは街中では浮いていた。

「俺のことを連れ戻しに来たんですか」
「違うよー。逸のこと見に来たんだ。……あ! あとね、教主様からの伝言があるよ」

そちらが本題じゃないかと、思わず顔が強張った。
彼女はそんな俺に気がつかないまま、顎に指を添えて、思い出しながら滔々と〝伝言〟を述べていく。……待っている、戻りたくなったらいつでも帰っていい。責めはしない。そういった言葉と、そして最後に。

「『挨拶もなしだなんて寂しいけれどね』……だって!」

彼女は言い切れたと嬉しそうにする。それとは正反対に、俺の心は冷え切っていた。
挨拶だって? そんなことをしようとして、『教主様あのヒト』に会ってしまえば、取り返しがつかなくなる。きっとカエってしまう――
彼女から視線を外して、俺ははっきりと告げる。

「俺は……もうあそこには戻りません」
「うん」
……貴方も何か俺に言いたいことがあるんじゃないんですか」
「ううん、ないよ」

あっさりと否定された。
じゃあなんで俺に会いに来たんだろう。やはり連れ戻しになんだろうか。
恐る恐る、視線を彼女に戻す。彼女は変わらず、穏やかな目をして、俺のことを見つめている。

「俺のこと、責めたりとか」
「なんで?」
「俺は、貴方からすれば裏切者です」
……? よく分かんないよ、逸」

困った顔をして、彼女は首を傾げた。
本気で、本心から分からないのだろう。それが逆に俺の胸を苦しくさせた。
彼女は本当に俺に会いに来ただけで、そこに別の意図を含まされてしまったのだ。現に俺はそう受け取ってしまった。

「逸、怖いの? 悪いことしてないのに。心配いらないよ、大丈夫だよ」

俺の反応を見て、彼女はそう思ったのだろう。きっと何も分かっていないのに。
彼女は俺より小さくて幼いから妹のようで、でも彼女は俺より先に居たからとお姉さんぶったりもする。それが今も〝変わらない〟。

「逸のこと、誰も怒ったりしないよ。来る者拒まず、去る者追わず。だって。教主様が言ってたもん」

だから大丈夫だと。安心させようと、気遣ってくる。
教団を抜けることが『悪』だとは教わっていないが故に、『救い拒む哀れなヒト』になってしまうだけで、怒りや裏切りの対象にならないのだ。
それは、あまりにも――ああ、きっと受け取るヒトによっては、残酷な宣告だった。
どうしてこの手を掴み直した人がいたのか、否応なしに分かってしまった。
もし、頼れる相手が結局いなくて、世間の広さの只中に一人で出てしまっていたら、――俺にとっての伊鶴さんのような人がいなかったら、この小さな手を引いて閉じた世界に戻りたくなっていただろう。彼女はその世界でしか生きられず、連れ出すには己が無力であることを突きつけられるのだから。

「逸、どうしたの? 嫌なことあった? 悲しいの?」

俺が黙ったままで、そして表情を歪めてしまったのを見て、彼女は心配そうにする。
彼女は俺と出会った頃と変わらず、小さな背丈をしていた。その頭を撫でそうになり、寸でのところで手を引っ込める。俺は手を握りしめて、言葉を絞り出す。

「貴方のことが心配です……
「みんな、いっつも、そう言うよ。変なの」

この純粋さが利用されているようにしか思えなくなってしまった。
彼女は都合の良い舞台装置や使い勝手の良い道具のように作り上げられた、従順な信徒なのだろう。まさしく理想の。

「貴方も来ませんか。俺のところ、は嫌かもしれないけど」
「なんで?」

何も分からないと言ったふうに、彼女は朗らかに笑ってまた首を傾げた。俺も蛙之蜜あそこにいた時は、こんな感じだったのだろうか。

……そう、ですよね」

彼女は俺の言葉を聞いても心が動いた様子はなく、首を傾げるのをやめると「もう行くね」と、現れた時と同じように唐突に言った。

「じゃあね、逸!」

彼女はいつも通りの笑顔で手を振った。何かで満たされているみたいな、満ち足りた表情で。
そして、俺に背を向けて人混みの中に消えていった。なんの心残りもなく、後ろ髪を引かれることもなさそうに。
……寂しかった。未練がましく、そう思った。少なからず親しくしていたつもりだったから尚更だ。
でも、俺の腕に添えられた温もりがそれを宥めて、傍に居てくれるから。だから俺は大丈夫だった。

伊鶴さんが俺の横に来て、行き交う人波を見つめていた。

「浮いてる風船みたいな子だったね」
「確かにあの人は捉えどころがないですけど……軽くてどこにでも行っちゃいそうってことですか?」
「それも合ってるんだけど。まあ印象の話ね」

印象か。ふわふわと風を受け揺れていて、指に絡めていたはずの紐がするりと抜けていく。……ちょっと分かるような気がする。
どこか不安に感じるのは、その中身のなさにかもしれない。

「あのも空っぽなのかな……
「え? 違う、違う」

俺の呟きを拾った伊鶴さんは、俺の隣で「逆だよ」と言う。

「風船って、中身が詰まってるから膨らんでるんだ」