保科
2025-11-27 00:56:02
3215文字
Public スタレ
 

学パロ

学パロアグサフェ 学パロには学パロってタイトルつけるんですか!?

――であるから――
教師の教科書を読み上げる声をぼんやりと聴きながら、アグライアはノートにペンを走らせる。それは学んでいる単元を分かりやすくまとめるというありふれた行いだが、開いている教科書のページは、今のカリキュラムよりもずっと先だ。既に現状の項目については修めたアグライアにとって、授業は復習の機会に過ぎなかった。
まるで経でも読むかのような、教師の抑揚のない声に、穏やかに気を削がれた矢先――窓の外、聞き覚えのある声が遠く、耳朶を打った。
―――
辿るように耳を澄まし、眼下の校庭に視線を向ければ、丁度隣のクラスが体育の授業をしていたようだった。そう目を凝らさずとも、声の主――目的の少女はすぐに見つかった。
特徴的な猫耳と尻尾を背負った少女が、他の子を置いて、レーンを一気に駆け抜けていく。あっという間にゴールテープを切るのに、友人らしき少女たちが彼女の周りに集っていく。
すごい、さすが、そんな声が重なって、後ろから近づいた一人が、気安く彼女の肩を抱く。手を振っての謙遜が歓声に飲まれて――
――アグライア。問2について板書を」
……はい」
教師の声に、思考を断ち切り視線を戻す。顔を顰めた様子から察するに、外へとよそ見をしていたことに気付かれたらしい。
………
立ち上がりながらため息をつく。回答ならとうの昔に用意しているものの。気になることができたアグライアは正直、既に授業どころではなかった。



………ううん……
時は流れてお昼休み。アグライアは空き教室で昼食のサンドイッチをカバンから取り出しつつ、一人、みょん、と不自然に腕を振っていた。
――肩を抱く、ということ。首越しに、反対の方に手を添える行い。みょん、と、一先ず虚空に向けてやってみたけれど、いまいち正しいのかが分からない。力加減は?何処に触れる?角度は?どういう時なら自然なのか。
……ふむ。難しいですね……
「ごめんライアお待たせ〜。購買混んでて遅くなっちゃった」
――セファリア。
いえ、私もこれから食べ始めよう、と思ったところですので」
アグライアは文化部と生徒会、サフェルは運動部、と、クラスが違うだけでなく、生活範囲も交友関係も普通にしていたら交わらない2人だ。ならお昼ご飯位一緒に食べようよ、と、サフェルが提案してくれて以来、昼食を共にするのが通例になっていた。
今日も例に漏れず、サフェルは買ってきた惣菜パンをぽんぽんと放りながら――明らかに例外の挙動をするアグライアに瞠目した。
……その腕、何で振ってるの?虫でもいた?」
……ええと。これは、こう……
口にしながらみょん、と手を振る。サフェルがおびえたように後ずさる。
「え、みだれひっかき?」
「いえ、爪を立てているわけではなくですね、少々……シミュレーションをしていまして」
……しみれーしょん」
気の抜けた反復は、さっぱり理解できないと言いたげだった。まあ、そうだろう、と思う。
アグライアは答えあぐねた末に、その、と素直に口を開く。
……先ほど、四限の時、貴女が校庭で、体育の授業に参加しているのを見ました」
「へ?あ、あー……さっきの短距離走ね。なんだ、あれ、ライア見てたんだ。
あ!ひょっとして、あたしの活躍見惚れちゃったってコト〜?」
ぴ、と人差し指を得意げに向けるサフェルに、アグライアは躊躇いなく頷いた。
「ええ、それは勿論。貴女の走る姿はいつ見てもしなやかで美しいですから」
―――……、んんっ!えふん!」
屈託なく笑いかけるのに、たまらず頬を赤くしたサフェルは、不自然な咳払いを繰り返すと頭を振る。
「違っ、じゃーなーくーて!
その……えっと、変なのとあたしが?関係あるってこと!?」
「言い出したのは貴女でしょうに……
ええ、そうです。駆け抜けた後の貴女と、ご友人の交流を見まして。私も、そういった、」
みょん、と腕を素振り。そう、大したことではない。ただ、――ちょっとだけ、どうしてあの場に自分がいないのだろう、と。そんな事を思った。
……スキンシップを、貴女と取ってみたい、と思いまして」
…………
サフェルが、目を細めて黙り込む。頭上の耳がそろそろと揺れ、分かりやすく困惑が見て取れた。
眉間を押さえながら、ええと、と唸る。
……つまり?あたしと、クラスメートちゃんが、やってたと。その……何?みょんってやつ?」
「みょ……?いえ、こう、抱くような、感じで……
……抱く……抱き締める?」
うーん、と再度唸ったサフェルが、手持ち無沙汰にもちもちと捏ねていた惣菜パンを、除けるように机に置いた。それから頭を掻きつつ、ええと、と呟いた。
「つまり……どれだろ。
……あー……そうだな、ちょっとライア、立って」
「はあ、何か――
言われるがまま席を立ったアグライアに、サフェルは一歩距離を詰めると手を伸ばす。え、と固まる間にあれよあれよと、アグライアはサフェルによって空中へと抱き上げられていた。
――こういうっ、感じってこと〜?」
―――
正面からハグするような姿勢のまま、己を見上げる少女のきらやかな視線が、視界いっぱいにぱちりと重なった――不意のことに、アグライアは、思考が完全に停止した。
サフェルに全体重を委ねる不安定さ、その細腕からは想像もつかない膂力、触れ合って伝わる彼女の熱と、間近で香る制汗剤の香り、背中に回る尻尾の柔らかさ――頭が真っ白になったアグライアは、声を上げることもなく、ただ見つめ返した。それしかできないとも言えた。
無言のまま視線を交わして、数秒後。じい、と様子をうかがっていたサフェルの眉が、フニャリと下がった。
……やっぱ違う感じ?」
よいしょ、と降ろされる。地に足がついて、呆然としたままだった意識が、らいあー、と名前を呼ばれて我に返る。
突然このようなことを、何故、驚くでしょう、どうして――ぐるぐると頭の中を駆け巡った様々な言葉は、しかし声にならず。
――あ、」
「あ?」
……貴女は、もしや、こういうことを、普段から学友と、やられているのですか」
そんな呆けた問いに、ぱちぱちと瞬いたサフェルが、視線を彷徨わせながら呟いた。
「え、……そうだね、テンション上がったら、とか……?」
「テンションが上がったら!」
「うわ急に大きい声出すの何!?」
尻尾と耳をピンと立ててたじろぐサフェルを構う間もなく、アグライアは頭を抱えた。羨ましいなどと言うレベルではない――こんな、こんな!こんな接触ががまかり通るのか、運動部、というものは!もはや当初の目的も憧れも忘れ、アグライアは机に手をつくとブツブツつぶやき出した。
「規制……、規制をすべきです。走り終えた選手の周り半径5メートル以内は接触禁止としたほうが……
「感染対策かなんか?」
また変なこと言い出したな、と、ちょくちょく暴走する自由な友人を半目で眺めつつ。
――さて、サフェルは自分のささやかな嘘を反復する。
陸部なんて、そもそも皆走らされて汗をかいている。そうそうむやみにベタベタ触れ合ったりしない。せいぜいハイタッチをしたり、よくて肩を組んだり、その程度だ。
――ましてや、サフェルはそういうのが苦手だし、自分からアクションを取るなんてありえない。
よっぽど気に入った、特定の相手を除けば、だが。
………テンション上がった位じゃやんないよーだ」
「ハァ……ええと、セファリア、何か?」
「んー?べっつに〜」
案外彼女は軽いのだな、と。
実のところ前々から機を伺っていた、彼女を抱きしめる機会を得られたことに、サフェルは上機嫌に尻尾を揺らす。ついぞアグライアがやりたかったことは分からなかったけれど、次も……またうまいことだまくらかして、お姫様抱っことかできないかな。無理かね。