【巡直】お覚悟

【超巡!超条先輩】ふせったーとぷらいべったーから巡直の話を二つほど。
一つ目→いい子と揶揄されて不貞腐れるポンちゃんの話
二つ目→最終話のあとの、話です…私の週一の楽しみが……

諦めていたのを諦めさせた光芒

――悲しみも喜びも一緒に分かち合えば掛け替えのない日々になる



 不意に思考を蝕む暗い影を目が眩むほどまばゆい世間知らずな天真爛漫の光で蹴散らした挙句、屈託のない不器用すぎる慈しみが情け容赦なく首を締める感覚が心地よく手放し難いと思うようになっちまったのはいつの日からか。
 ……いや、落ちるまで締められるのはいらんわな。



 大小様々な事案が発生する珍宿傾奇町。今日も今日とて市民の安全を守るためパトロールに精を出す気が無い超条巡の不真面目さっぷりに一本木直は目頭を揉んだ。
 馴染みのおもちゃ屋に赴き新しく入荷したホビー談議に花を咲かせ、かつてバイトしていたコンビニで真っ当に働いているライバルを冷やかしに行き、しっとりとした熱視線と妄想を送る花屋店主や人の尊厳を金で買うのも厭わない大金持ちの令嬢に及び腰ながら対応する、まこと賑やかに事欠かない毎日にいい加減慣れてきた自分に苦笑が漏れる。
 交番に戻る道すがら。鼻歌まじりの浮かれ切っただらしない顔で新発売のプラモが入った紙袋をご機嫌に揺らす超条の横を歩く一本木の手にもまたおもちゃ屋の店名が入った紙袋を持っていた。
 これが本当に成人した男性か?という若干蔑み気味の視線を隣からズラし、ふとつい今しがたのことを振り返る。
 「市民との交流もほどほどに」なんて内心思いつつ一本木が何んとなしに気になって眺めていたプラモがあれよあれよと空を舞い「初心者向けの作りやすいヤツだ。ゴリラなお前にも出来んだろ」と、些か聞き捨てならない台詞を粛正する前にレジ清算する超条に出かかった文句を勢いよく飲み込んだ。
 珍しいこともあるものだ、と目を白黒する間に店を出ていく先輩の後を追う一本木に対して雑に袋を渡す仕草に面を食らい結局深く理由を聞けなかった。
 次に非有児がバイトしているコンビニでも「これ、前に気になってただろ?」と、一本木の返事を待たずにバイト店員をからかうのも忘れないで会計を済まさせた商品を興味薄に手の中に収めさせる超条の言動に大量の疑問符が頭上に浮かんだのは言うまでもない。

 「(なにかおかしい)」

 いくら読心術で筒抜けで時折り先手を打たれるのが多々あるとしても、いつもと何かが違う気配に眉を顰め目を眇め睨んでしまうというもの。
 思えば花園さんやきらら様のときも普段と何処かちが――

 「っぶね。ボーっと歩いてんじゃねえよ」

 超条の呆れているにしては棘の少ない声音にハッとした一本木がすぐ傍を通り過ぎていく自転車を目で追う。
 小さく遠のいていく自転車から視線を超条に向ければ、上の空で歩いたら危ないだろなんて目は口程に物を言う目と目が合いバツが悪そうに笑って誤魔化した。
 そして、自転車にぶつからぬよう引き寄せるべく肩を抱いている黒い手の存在感に気が付いた一本木が「もう大丈夫ですよ」と、目線と指先で訴えかければ頭一個分近く高い場所にある超条の顔に影が差すも一瞬で面倒くさそうな面持ちに変わるや間髪置かず肩を抱いていた手がひらひらと離れていった。
 犬養警視や非有児、剣崎と門田には負けるが、そこそこ相棒として付き合ってきた経験から超条の隠そうとしている本心の片鱗をそこはかとなく察するぞ、などと自負していたが一本木は交番に戻るなり勤務時間にも拘らずウキウキでプラモを組み立て始める職務怠慢の化身を冷ややかな目で見下ろし。

 「気のせいだったかも」
 「痛ァーーーッ!!」

 満面の笑みで超条の首を絞めた。
 落ちる一歩手前で緩め一仕事終えたと言わんばかりに白手袋に包まれた両手を叩く一本木を床に突っ伏した超条が睨む視線はそれはもう恨みがましいものだったと後にローボは語った。





 『あのとき先輩何か言いたそうに見えたけど私の思い違い?』
 「(んなことねぇよ)」
 超条自身推し連載の最終回に嘆いた勢いでした西交番の未来を見た日からおかしくなった自覚はあった。
 滅茶苦茶でツッコミどころ満載の未来の数々を見たあと一本木が放った言葉が頭から離れず何度もくり返し反響する毎日。彼女としては当然のことかもしれないが、超条にとってその言葉は意識して熱を持たないようにしていた心の柔い部分をあたため払い除けていた寂しさや欲望を目覚めさせるには十分だった。
 極力使用を控えている読心術で積極的に相手の心を読み、催眠術を使わずに好感度をしれっと上げていくセコい手で一本木の隣を陣取る身勝手な浅ましさに超条が胸中自嘲する。
 せめて一本木が二十歳になるまで手を出さないつもりでいるが、果たしていつまで持つか我ながら大人の矜持が揺らぐ事態に一本木の祖父に腕の5本や6本折られる覚悟が脳裏をチラつく。
 もっとも尊敬されている以上に軽蔑されることが多いのは甚だ不本意であるものの、一本木からそこそこ好意を抱かれている自信はあった。なにせ結婚している未来を見ても嫌がっている風には見えなかったからだ。
 ただし、思い込みが少々激しくチョロいのを考慮すると口を噤んでしまうが。
 「お先に上がりま~す」
 「おう、お疲れ」
 私服に着替えた一本木を横目で眺めた超条が緩い感じで手元にあるプラモから顔を逸らさず声だけで見送れば、超能力を使わなくとも不服そうに眉根を潜め頬を膨らます気配にようやく顔を上げた。
 「へいへい。真面目に職務をこなしますよっ――
 椅子を回転させ一本木を見送る態勢を取るつもりだった超条の手を出し抜けに掴んだ一本木がぎゅうっと握り潰さない力で掴んだ。
 手袋越しでも分かる慈しみが宿った女性らしい手にしがみ付きたい気持ちを抑え込み視界の高さが逆転している一本木を斜に構えた表情で見上げた。
 「明日も一緒に町の治安を守るため頑張りましょうね!」
 「……そうだな」
 小さな悩みごと程度だったら難なく吹き飛ばす笑顔を目に映しこんだ超条は、フッと笑いつつ元気付けるためかブンブンと勢いよく握った手を振る一本木に悟られぬよう彼女の薬指に見えない先約を嵌めそっと放したのだった。