めやぬら
2025-11-24 23:27:06
11158文字
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ハロウィン

ニキひい。
以前公開していたものの完成版。
見たかったのは、ニキの対一彩と対燐音と対ほかの人の温度感の違いだったんですけど、迷走しました。
ニキひいは3ページ目だけです。

 十月三十一日、ハロウィーンの朝。ニキはダイニングのテーブルに大量のお菓子を広げ、ラッピングに勤しんでいた。
 クッキー、チョコレート、飴、フロランタン。昨日から夜通しキッチンを占領して出来上がったお菓子たちは全部ハロウィン仕様のデコレートがされている。さながらお菓子屋かバザーかといった量をちまちま袋詰めしていって、テーブルの三分の一ぐらいは袋の山だ。
 
「椎名せんぱーい!トリックオアってうわ!何これすごい量!」
「うわー、お店みたいですね」
「おっ、来たっすね〜!」
 
 ぱたぱた駆け込んできたオレンジの髪が二人。仮装はしていないが、手にはジャックオランタンの形をした籠を提げて、見るからにカツアゲしにきた体の葵兄弟。元気でわんぱくなヤクザにニキは待ってましたと手を振った。
 
「材料あったから、ついいっぱい作っちゃったんすよね〜」
「ついって量じゃないですよこれ……
「ゆうたくん!ゆうたくんこれ見て!ジャックオランタンだよ!」
「これもすごい、おばけの顔が全部違う……芸が細かいな〜」

 舌を出すジャックオランタンのクッキーを指さすひなたと、お化けのチョコレートを覗き込むゆうた。はしゃぐ後輩が微笑ましくて、頬が緩む。ラッピングの手は止めないで、お菓子たちをなべる。

「お化けのやつは、白いのが甘いやつで黒いのがビターっすよ。ゆうたくんは黒い方が好きかもっすね」
「へ〜食べてみても良いですか?」
「どぞどぞ!ひなたくんも、それかぼちゃのクッキーっすよ」
「えー?じゃあいただきまーす!」

 そして同時にお菓子を食べた二人が、同じように目を丸めるのをみて、ニキは満足げに笑う。そうそう、この顔が見たかった。見た目も美味しさも、両方あってこそ楽しいお祭り。イタズラも醍醐味だろうけど、ハロウィンのお菓子は秋ならではの味を存分に活かせる良い機会でもある。

「うん、ビターで美味しいですね!」
「ん〜!クッキー焼きたてですか?ほんのりあったかくて美味しい!」
「えっ、俺もクッキー食べて良いです?」
「なはは、良いっすよ!なんならいくつか持ってっちゃって。今包むんで!」
「わーい、ありがとーございまーす!」
「まーす」

 双子のために、お菓子を個包装にしていた手を止めて二人用の袋をつくる。全部一種類ずつ、ゆうたが珍しく気に入ったチョコレートは多めに。それと、まだ余熱の残るクッキーだけは別の袋にして。
 百均で大量買いしてきたラッピングビニール袋に詰め、寄りを作って針金のリボンで留めれば出来上がりだ。その間、双子は次はどこに行こうかと作戦を立てている。どうやらこの後は、UNDEADの彼らに突撃しに行くらしい。

「出来たっすよ。はい、どうぞ」
「あ、待って待って!」
「なんすか?」

 渡そうとすれば、ひなたが慌てて止める。二人はいそいそとかばんから何かを取り出し、頭につけた。お互いに見やるその頭上には、狼耳のカチューシャ。

「んん?」
「「トリックオアトリート!」」
「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ!」
「ぞ!」

 がおー!と手を上げてポーズする可愛いオレンジの狼が二匹、イタズラっぽく声を揃えてお菓子を求めた。
 なるほど、今日はそのしきたりに従ってお菓子を渡さないといけないらしい。カチューシャだけとはかなり間に合わせの仮装だが、寮内ぐらいならこれくらいで良いんだろう。オレンジの毛並みと髪色がよく馴染んでいて、ずいぶん似合っている。

「狼さんたちに襲われちゃうの怖いんで、トリートで。はい、クッキーとチョコは多めにしといたっすよ〜」
「あはは、ありがとう先輩!」

 今度は素直に受け取られたお菓子は、カゴの中へと入れられる。本日一番目の収穫のようで、まだその一個だけを入れたジャックオランタンは、心なしか自信ありげに見える。本日どこまでいっぱいになるのか、楽しみだ。

「よく狼ってわかりましたね。犬とか言われるかと」
「それ、セゾンアベニューの百均で買ったやつっすよね。僕もラッピングバッグ買いに行った時見かけたから、覚えてたんすよ。犬じゃないの?って」

 すこし小さく見えるせいか、狼より犬の耳のように見えんこともない。だけど、ニキが見かけたパッケージにはしっかり狼と書かれていた。視界の端で見たそれを、犬っぽいなと思ったから奇跡的に覚えていた。

「やっぱ犬耳に見えるんだってこれ」
「う〜ん、しっぽも買うべきだったかな」
「次朔間先輩のとこでしょ、わんこが増えたとか言われたら……すごい捕まりそう」
「どうにかしてトリックしたいんだけどな〜」

 お菓子よりも悪戯をしたい二人は、さっそくクッキーとチョコを一つずつ食べて作戦を練っている。浮かれたカチューシャはESでのイベントの仮装に比べたら簡単で安っぽいけど、親近感の湧く仮装でニキとしては好ましい。この後ESでしっかり仮装したら用無しになるカチューシャは、きっと今夜部屋でも見せてくれるはずだ。

「ほらほら、早く行かないと皆出払っちゃうっすよ。今日はハロウィンイベントなんだから」
「あ、そうだ。早く行こゆうたくん。椎名先輩ありがとー!」
「あっちょ、すみません先輩。後でちゃんと頂きますね!」
 
 手を振って元気に駆けて行ったひなたを追いかけ、ゆうたも出ていく。朝から賑やかな後ろ姿に、行ってらっしゃーいと手を振りかえした。

 --

「わぁ……!たくさんお菓子がありますね」
「すごいすごい!椎名先輩、これ全部作ったの?!」
「そうっすよ〜」

 お昼過ぎ、昼食もそこそこにケーキをオーブンに入れたとき、ダイニングに入るなり声を上げたのは、可愛いうさぎちゃんたち。テーブルのカゴの中、山のようなお菓子の包装に食いついたのは創と光。なずなと友也も後から来て、同じように目を奪われている。

「流石ニキちん、中身も凝ってるな」
「でもこれだけ作るの、大変だったんじゃ」
「ん〜、まあ色々作れて楽しかったっすよ。皆喜んでくれるし」
「やっぱりあの噂、本当だったんですね」
「噂?」
「あっ、気にしないでください!」

 言った後にあっと口元を抑える創はなんでもないと首を振ったが、友也たちは怪訝な視線を向ける。言わずもがなニキも。
 それに耐えられなかったのか、暫くえっとその、とワタワタしたあと、観念したように口を開いた。

「いえその……寮のダイニングで椎名先輩がお菓子屋さんしてるって」
「えーっ!そんなの知らなかったんだぜ。先輩、お菓子屋さんになったの?」
「いやいや、お菓子屋みたいなことしてるってだけだろ。創、それ言ってたの誰だったんだ?」
「えっと、ひなたくんが……このクッキーを持ってたので、確かにそうなんだなって」
「ひなたくんなら朝来たっすよ。そのあとも色々お菓子持ってった人いるんすけどね……
「まあこの量はお菓子屋みたいだな……ニキちん、俺も貰っていいか?」
「んぃ、いいっすよ。皆も好きなだけ持ってって〜」
「ありがとな」

 大量にあるから持ってってもらって構わない。
 ニキの答えを聞いて手を伸ばしかけたなずなの服の裾を、光が引いた。創も友也も、おや?と首を傾げる。
 
「に〜ちゃんに〜ちゃん!アレ言わないと!」
「あ、あぁ!そうだった。ていっても、俺が言うのは気が引けるけど」
「仮装もしてないですしね。あ、そうだ。こういうのはどうでしょう」

 友也は他三人に顔を寄せるよう手招きして、四人はこそこそと秘密の話をする。すぐに終わった友也の囁きに、三人はなるほど!と顔を晴らして頷いた。
 そしてキッチン側にいるニキを四人がみる。友也が全員を見回して、

「よーしいくぞー!せーのっ」
「「「「トリックオアトリート!」」」」
「お菓子くれないとイタズラしちゃうんだぜ〜!」

 両手を兎の耳のようにして、ポーズをつくる四人。上目遣いの随分と可愛い兎が来たものだ。堂に入った仕草は、完璧なまでに可愛らしい。お菓子ぐらいいくらでもあげたくなってしまうけど、今日のしきたりはこうなのだから、きちんと答えてあげないといけない。

「なははっ、可愛いうさぎさんたちっすね!お菓子あげたくなっちゃったし、いっぱい持って行っていいっすよ〜」
「わーい!ありがとうなんだぜ!友くん、どれにする?コウモリの飴もあるみたい!」
「俺はなんでもいいよ、創は?」
「ぼ、僕ですか?えーっと……それじゃあ、このフロランタンにします」
「おい、あんまり取りすぎるなよ〜」

 どれを選ぶかに話題がシフトしていった三人を微笑ましく眺めていると、同じく見守っていたなずながふとキッチンを覗き込んだ。ニキが話ながらも時折作業していたのが気になったようだ。

「ごめんなニキちん、突然来て……言い出した俺が言うのもなんなんだけど、本当にもらって良かったのか?」
「うん、別にいいっすよ。ハロウィンだから作ってみたけど、配ったりつもりなかったし。噂になってるのは知らなかったっすけど」
「ん?配るつもりがないのに、なんで作ってたんだ?いまも作ってるそれもお菓子だろ?」
「最初は人に渡すつもりだったんすけど……相手がいなくなっちゃって」
「断られたのか?」
「いやー、ほら、今日ってESでもイベントしてるでしょ?そっちに出ずっぱりなんすよね〜。それで、自棄になってるだけっす」

 昨夜、意気込んで作り始めた出端に勢いを挫かれたことを思い出す。朝も早くに出勤してイベントの準備から撤収まで手伝うのだと楽しそうに言われてしまったら、引き留めたり縋りついたりみっともない真似できなかった。
 へーそうなんだーふーん。
 引き攣ってると自分でも分かる笑顔で答えたその時にお菓子作りをやめておけばよかったものの、もう後に引けず。気付けばテーブルが埋まるほどのお菓子が作られていたのだった。

「ま、ここに置いとくんで、みんな好きに取ってってくれたらいいかな。皆は、これからイベントいくんすか?」
「いや、俺たちは今帰ってきたとこ。朝の部だったから」
「んぐ……椎名先輩はいつ行くの?俺、遊びに行く!」
「僕はお昼から夕方の部っすよ。もうそろそろしたら行くっす。そういえば、なんの仮装したんすか?うさぎ?」
「いえ、僕たちはゾンビにしました」
「好きな衣装選べるみたいなので、俺たちは合わせたんですけど……そっちはどうするんですか?」
「んーと、たしか——

 この後に控える仕事を思い出しつつ、まだまだ今日は長いなぁとぼんやり思った。