けーだい
2025-11-24 03:08:21
1540文字
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違うこと


あ、と思った時にはもう遅かった。
泉で冷え切った身体はいうことをきかず、苔むした岩に取られた足は踏みとどまることさえできなかった。咄嗟に強ばった身体がそのまま重力に引かれて、冷たい水面へと引きずり降ろされていく。
「っ……!?」
けれど次の瞬間には、暖かなものに包まれていた。
驚きとともに瞼を開くと、手をついた先の厚い胸板が動じることなく私を受け止めている。
その事にまた驚く。動揺が、口をついて出る。
「ごめんなさい」
すると今度は青い瞳が覗き込んできた。初めの頃より大分打ち解けたせいだろうか。その青に心配そうな色を見てしまって、けれどそれが自分の願望のようにも思えて、酷く恥ずかしくなった。
離してもらおうと胸を押す。それでも彼の身体はびくともしなくて、だから、余計に追い詰められていく。
「大丈夫ですから」
少しでも距離を開けたくてそう言った。けれど彼は構わず私を抱え上げると、そのまま何も言わずに泉から上がってしまった。少し離れた場所に張った簡素な天幕へと向かう彼に、私を下ろす気は無いらしい。しっかりと抱えられた膝裏と肩には下ろされそうな予感は微塵もなくて、仕方なくその腕に身を任せる。
彼の足取りに揺られながらその胸に手を当てると、布越しに私よりも幾分高い体温を感じた。そうしてはっきりと、理解してしまったのだ。
身長はそう変わらない。武人としてはむしろ華奢にさえ見える体躯。けれど、全く違った。厚く、広い身体を「大きい」と感じた。
騎士だから鍛えているのだろう。しかしそれよりもっと、根本的な違いがある。
(おとこのひと)
彼は、自分とは全く違う肉体を持っているのだ。それを今更理解して、彼の腕の中で顔を上げられなくなった。
蛙を手に迫った時、どうしてそれを意識せずにあんなに無防備でいられたのだろう。今となってはもうわからない。
早鐘を打つ心臓を転んだせいだと自分に言い聞かせる。彼は私の赤くなった顔を覗き込むと、辛そうに目を細めた。
それを酷く、申し訳なく感じた。