白殊皎(しらよし こう)
2025-11-21 20:00:00
3206文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

ひだまりはここに

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
近藤さんのために部屋を整えた土方さん。
季節の模様替えも経て、二人の仲はいよいよ?

ひだまりシリーズ最終話になります。

①『ひだまりをつくる』( https://privatter.me/page/6911fade37b71
②『ひだまりのなかで』( https://privatter.me/page/690d70589eb3a

 今日、部屋の主・土方歳三は不在だった。
 昨日の夜、微少特異点が発生したとかでレイシフト適性が見出されて、調査メンバーの一人に選ばれていたからだ。

 土方は忙しい。
 黎明期から召喚に応じたサーヴァントとして、根幹に近い様々な部分に関わっているせいか、いざという時に替えが効かず、なにかと頼られることが多いからだ。
 生前も組織には無くてはならない男だった。
 苛烈すぎる部分も確かにあったが、土方なくして新選組は立ちゆかなかっただろう。

──それはそうとして、近藤勇はご機嫌が斜めだった。
 全くもって、その適性とやらはなんなんだろう。
 なぜ自分も候補に入れて、土方と同行させてくれないのか。
 主のいない部屋に入り浸っている自分もどうかと思いはするが、この部屋は土方が〝近藤のため〟に整えてくれた部屋なのだ。
 ならば入り浸らない方が失礼というものだし、土方に対してそろそろ次の一歩に踏み込みたいと思っていた昨日の今日で引き離されてしまったのだから。

 カルデアに召喚されて少し経つが、自分と土方の関係は残念ながら全く進展はしていない。
 土方の想いに自分が気付いていないフリをしているからだ。
 鈍い兄貴分を演じて、まだ土方と正面から向き合っていない。
──それを、そろそろやめたいと思う。
 土方は自分に対して欲も伴った強い想いを抱いている。
 だが、それを頑なにこちらに向けようとしない。
 おそらく、自分が驚いたり拒絶したりして、やっと繋がった縁が切れてしまうのではないかと恐れている。

 そう思わせたのは自分だ。
 生前あれだけ大事にしてもらい、下手な恋人同士よりよほど想いをかけてもらっていたというのに、最終的に土方の手の内からすり抜け、逃げ出したのだから。
 だが、思いを伝えるとして、どう切り出せばいいのだろう。
 単純に『好きだ』と伝えたとして、土方が自分に向けている想いへの投げかけになるのだろうか。
 または『恋仲になりたい』とでもすると、いままでそういう風な思わせもしてこなかったので、唐突すぎて何か状態異常でも起こしたのかと疑われたりしないか。
 こういうとき、今の世ではなんというのか……『お友達から始めましょう』などという余計な知識も流れてきたりするが、もう自分と土方はそういうレベルではない。
 お互い、言葉もいらないくらい深く繋がっているとは思うのだが、やはり言葉にしなくては伝わらないこともある。
 炬燵の上の蜜柑の籠を眺めながら、近藤は深く溜息をついた。
 万世の気の利いた告白の言葉でもないかと思う。
 俳句を嗜む土方なら意図を汲んでくれるだろうから。
 しかし残念なことに自分は風雅な趣味の持ち合わせがあまりない。
 本は好きだが、源氏などの物語より軍記物、歴史物に食指が動く。
 その書籍を管理する図書館の主・紫式部や、清少納言なども現界しているのだから、彼女らに聞くのもありかとも思うが、『密やかな告白の仕方を教えてほしい』などと聞くのは流石にはばかられる。
 聡い彼女たちなら思い当たる節はいくらでもあると思うけれど。

 まだ時間は早い。
 土方が戻ってくるまでしばらくはかかりそうだ。
 思い立って部屋を出て、食堂に向かった。
 蜜柑ばかりではあれだし、何か口にすればまた違う考えが出てくるかもしれない。

「やぁ、新選組の。今日は何をご所望かな?」
 食堂では赤のアーチャーが迎えてくれた。
 昼食とも少し時間がずれているせいか、人は余りいなかった。
「少し考え事をしすぎて、疲れてしまってね。何か甘いものでもあればいいのだけれど」
「そうか、なら今日のおやつに出そうと思っていたものだが、いかがかな。焼きたてだよ」
 そう言ってアーチャーが差し出してきた菓子を見て、近藤ははっとした。
「ありがたくいただくよ。いま調査に出ているが、歳……土方の分もいいかな?」
「沢山あるから問題ない、持って行ってくれ。……早く戻ってくるといいな」
 仲がよくて何よりだ、との感情がアーチャーの言葉に隠れているのがわかって、近藤はちょっとだけ頬を染めた。
 その菓子によく合うという外つ国の紅茶というものもポットでつけてもらい、部屋に戻る。
 表面はさくりとして、中はしっとりとしたその菓子を味わいながら、考えを練る。
 確かカルデアここではある程度の魔術リソースとQPがあれば大抵の物は手に入る。
 善は急げ、と近藤は準備に取りかかった。



 土方が帰還したのは当日を含めて三日目の未明だった。
 様々な検査チェックを終え、マスターから二日ほどの休息日をもぎ取って部屋に戻る。
 おそらく訪れており、時間的にまだ寝ているであろう近藤を起こさないように静かにロックを解除する。
 部屋は薄暗く、屏風の奥から光は漏れていない。
 外套を脱ぎ、壁に掛ける。
 そうして炬燵の上に目をやると、蜜柑の籠の手前に何かが置いてあった。
 明らかに、戻ってきた土方の目に入るよう、意図的に。
「?」
 それは白く滑らかな二枚の貝と貝を模した焼き菓子。
 土方の記憶が確かなら、本物の貝の方はハマグリ、菓子の方はマドレーヌとい言ったはずだ。
「あ、おかえり。歳」
 屏風の向こうから近藤の声が聞こえると、それをずらして当人が姿を現した。
「ただいま、近動さん」
 少し寝乱れた様子の近藤が目の毒で、土方は目を逸らす。
「これは、どうしたんだ?」
 それを誤魔化すために貝に目をやる。
「菓子はね、エミヤ殿にもらったんだ。数日前のだから味は落ちてるかもしれないけど……
「そうか」
「貝はね──私の気持ち。はまぐりだよ」
 わかってくれるよね、という視線にあたって、少し考えた。
 蛤は貝同士が対でないとぴったりと合わさることはない。
 宮中などでは雅な女性の遊戯として、華やかな絵が中に描かれ、その対の貝を探すという貝覆いというものがある。
 そして──対の貝を探し、合わせるという事柄から、蛤には恋人ともっと深く長く添い遂げたいという願いと、夫婦の和合を表す意味がある。
 そこまで考えが至って、土方はかっと顔が熱くなるのを感じた。
 それが近藤の気持ち、ということはつまり──自分とそうなりたいのではないかと。
 近藤が意味を間違えるはずはないが、自分の受け止め方が間違っていたら申し訳ないと思う。
 やはり、口に出さねばなるまい。
「近藤さん」
 貝を手に取り、それをそっと掌の中で合わせる。
──間違いなく、対の貝だった。
「これは……俺は自惚れてもいいのか?」
「うん。言っただろう? 私の気持ちだと」
 ゆっくりと蛤を卓の上に置き、近藤の元へ歩み寄る。
 寝台ベッドに腰掛けた彼の前にそっとひざまづく。
「歳、いままで気付かないふりをしてきてごめん。ずっとおまえの気持ちには気付いていたよ……
 見つめ合うと、近藤はそう切り出した。
「そうか……
 土方は近藤の手を取って甲に口吸いを落とした。
「俺と、恋仲になってくれるんだな、近藤さん」
「私もおまえとそうなりたいんだ」
「俺の想いは醜いところもあるぜ? 今にでもあんたを手籠めにするかもしれないぞ」
「ふふ、私は強いよ? 嫌だったら拳で黙らせる」
 いい雰囲気の中、ぐっとにぎりこぶしを作る近藤に苦笑しつつ、土方は下から近藤を見上げ、その頬に触れた。
「ありがとな、今日は最高の日だ」
 そうして、ゆっくりと近藤の唇に自分の口を合わせる。
 確かめるように、近藤の背に腕を回し、抱きしめると、近藤からも力強く抱き返された。
「まだ、夜のうちだよ……
 静かに近藤は囁いた。
「そうだな……
 二人は抱き合ったままベットにもつれ込んだ。


 そう、まだ、夜は明けていない──。