白殊皎(しらよし こう)
2025-11-10 23:46:54
2575文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

ひだまりをつくる

FGO【歳勇/土近/としいさ/ひじこん】
土方さんが近藤さんのために自分の部屋を整える話。

続きはこちら
②『ひだまりのなかで』( https://privatter.me/page/690d70589eb3a
③『ひだまりはここに』( https://privatter.me/page/69202b0e95696


──もうちょっとなんとかするか。
 土方歳三は宛がわれている自分の部屋をぐるりと見回しそう思った。
 今まで何の頓着もしてこなかったので、部屋はほぼデフォルトのままである。
 無機質な壁に申し訳程度の植物、そして寝台ベッド
 模様替えを、と考えたのはある英霊が召喚されたからだ。
──近藤勇。
 生前から土方が求め求めて、今でも、これからもずっと傍らに立つことを望んでいる存在。
 近藤が斬首された後も、その死を受け容れることが出来ず、また自分が死んだことにも気付かず彼のために走り続けた。
 強すぎる想いはいつしか狂気となり、その生涯は土方を狂戦士として座に刻ませた。
 その事に一切の悔いはない。
 いつかあの人が自分たちの元に降り立ってくれるのならば、と。
 そして京の特異点で巡り合った近藤は誠の旗を再び振るった。
 えにしが繋がれ、少女マスターは近藤の召喚に成功する。
 終に土方の願いが成就する時が訪れたのだ。



──何故近藤が来ただけで部屋を整えようと思ったのかというと……
 近藤が自分に会うためによく訪れるようになったからである。
 頻度はというとほぼ毎日。
 更にぶっちゃけると部屋は隣同士だ。
 まぁ、近藤が来てくれるのは大歓迎ではある。
 だがもしカルデアに来たばかりで不安だったり、何か意図があるのなら、ゆっくり寛げたり話をしたりする場所が必要だろう。
──近藤さんがよく部屋に来てるみたいだね。いっそ同室にしてもいいよ?
 マスターにそう言われたことがある。
 しかし、四六時中一緒にいたら自分は大丈夫だが近藤の息が詰まりはしないかと思い、それは断った。
 近藤は来たばかりなのでまだ部屋の内装を変えられることを知らない。
 自分が先に立って変えれば、やがて自分好みに変えることだろう。



──そして冒頭の述懐に戻る。
『難しいなァ……
 どうすれば近藤が過ごしやすく、安心してくれる部屋になるのか。
 自分のことはそっちのけで土方は考える。
 和風にとは思うのだが、一歩間違うと互いのトラウマをえぐる座敷ができそうで、それはだけはなんとしても避けたい。
 とりあえず床は一段上げて畳、布団だと上げ下げが面倒くさいからベッドで、大きさは二人で寝ても大丈夫なように──
…………いや、そういうことはねぇから!!!」
 考えて土方はセルフツッコミを入れ思わず壁を殴る。
 つい想像してしまった〝そういうこと〟に顔が熱くなる。
 自分と近藤は残念ながら恋仲などではない。
 それでも近藤が泊まっていくことも結構な頻度だ。
 自分がベッドを明け渡して床で寝るから、と言えば部屋の主にそんなことをさせるわけにはいかないから、一緒に寝ようと言ってくる。
 不思議と自分の部屋に戻りたがらない。
 それで同衾することもあるのだが、大の男二人に備え付けのベッドはあまりに小さかった。



 ということで土方の部屋の模様替えミッションの開始である。
 方策は決まったのであとはそれに従って組み上げるだけだが、それなりにQPと魔術リソースを使うので勝手に進める訳にはいかない。
 ひとまず申請書を作ってダ・ヴィンチちゃんのところへ持って行く。
「部屋の模様替え? 珍しいね」
 そう言って書類を受け取った彼女は読み進めながらにや〜っと笑った。
……なんか文句があるか?」
 こいつもなんか誤解してやがるな? と土方は思った。
 技術顧問でなければぶっ飛ばしているところで、出そうになる拳をぐっと抑える。
「勝手にやっちゃうサーヴァントも多いけど、流石君だ。問題ないよ。好きに進めてくれたまえ! 素材はすぐに手配するから」
 笑顔のままおぉ恐い、とわざとらしく肩をすくめてダ・ヴィンチちゃんはOKサインを出した。
「恩に着る」
 許可が出た以上、ここにいると何を言われるかわかったものではないので、さっさと引き上げた。
 部屋の前に戻ると、いかなる神秘か依頼した素材の元となるリソースがすでに積み上がっている。
 隣の部屋の主は今はマスターと周回に出ていて不在だ。
 今のうちにと土方は早速作業に取りかかった。



「とーし?」
 数時間後、戻ってきた近藤が土方の部屋を訪れれば、そこの様子は全く変わったものになっていた。
「──これは、どうしたんだい!?」
 入口には靴脱ぎのスペース、そこから一段床を上げて畳が敷かれ、中央には円卓、その脇には小ぶりな煙草盆のついた角火鉢。そしていぐさの座布団が二つ。
 少し奥に仕切りの屏風が立てられ、書院造りのような床の間には〝誠〟の一字の掛け軸と花が生けられ、屏風の傍には品のいい行灯が置かれている。
 一つ一つ小物選びがやたらと良い。
 自分の部屋ではちょっと明るすぎるかな、と思っていた照明もここではそれが暗くなりすぎず部屋を華やかにみせている。
「──あんたが過ごしやすいように、と思ってな」
 端正な顔に浮かぶ余裕の表情に、なんとなく頬が熱くなる。
「──ッ……。自分の部屋なんだから、私のことは考えなくてもいいのに」
「俺一人だったら頓着はしねぇよ。あんたがいてくれるからだ」
 バーサーカーとは思えない凪いだ瞳で自分を見つめる土方に、近藤の胸はいっぱいになった。
 それだけ自分は彼を待たせてきたのだ。
「ありがとう……
 目頭が熱くなるのを感じ、近藤は袖で目元を拭った。



 模様替えが完了してから、近藤はますます土方の部屋に入り浸るようになった。
 近藤に用事がある来訪者も、今ではまず土方の方を覗きにくる。
 遂にはマスターに、もう壁を抜いて拡げて二人同じ部屋にしちゃいなよ、と言われる始末だ。

──そして……

「とーし」
 周回から戻ってみれば、屏風の向こうから呼ぶ声がする。
 近寄ってそれをずらせば、無邪気な表情をした夜着姿の近藤がベッドに腰を掛けて待っていた。
 ぽんぽん、と自分の横を叩きおいで、と微笑む。
──何度も言うが、自分と近藤とは恋仲とは違う。
 なので、それは決して夜の営みへのお誘いではない。
 近藤は純粋に枕を並べて眠りたいだけなのだ。
『勘弁してくれ……
 土方は自分の理性がいつまで持つか、とても不安だった。