haruon1018
2025-11-19 17:20:07
5467文字
Public ヘクマン
 

猫も杓子も

明治ぽい世界観で高等遊民のヘク様と新聞記者のマ君が同棲していて、猫のヘクマンもいる変わった世界の話。
https://x.com/Haruon1018/status/1991060052321665163?s=20   (元ネタ)


「いつも通り酒は夕方に届けて欲しいのと、あとなんかツマミについて、」
「今日はそこの魚屋がとびっきり良いネタ仕入れてるから猫には刺身、人は少し炙って喰うと良い」
 マンドリカルドが馴染みの商店街で買い物をしていると、話していた魚屋の女将に声をかけられた。
「丁度良かった、マンドリカルドさん、ちょっと良いかしら」
「はい、あっどうもっす、また来ます」
 酒屋の店員に挨拶したマンドリカルドが魚屋へ移動すれば、女将がさっさと魚を用意した。
「これおたくの猫ちゃんたちが鼠を捕ってくれて助かってるからそのお礼」
「ヘクトールは兎も角黒いのはうちのってワケじゃ」
「細かいことは良いの、お互い様でしょ。夫婦仲良くて妬けるわ」
 どちらも牡だというのはこの界隈では通じない。
 なにせ男所帯でもあらあらと、見てくれるくらい寛大なので雄猫が仲が良くても気にしない位おおらかだ
「悪いね奥さん、今度上等な魚でも頼もうか」
「あらいやだ、ヘクトールさんも来ていたの、やだやだついでに炙ってこようかしら」
 それは遠慮するとマンドリカルドが顔を赤らめると、ヘクトールが微笑ましくうちの後輩可愛いでしょと口にするが、女将には既にその設定は通用しない。
 親の遺産を異国で食い潰しながら、自由気ままな生活を送る壮年の元に通い詰める学生というのは好奇の瞳で見られがちだったので、留学先で世話になったことにしとけばとヘクトールに提案したが、マンドリカルドはまだ島国から出たことがない。
 祖父の代に日本に来て、どういうワケか爵位を貰いそれなりの生活をしていたマンドリカルドだが、今は実家を離れて新聞記者をやっている。
 この界隈でなければ受け入れられないような関係になったのは一年ほど前になる。
 それまでは家主と居候だったのが戀人になったので、くすぐったいが嬉しいと並んで帰れば、猫たちが縁側で寛いでいた。
「魚を冷蔵庫に仕舞ったら俺たちもまったりしよう、」
 猫は良いねと好きなときに寛げてと笑うヘクトールだが勤め人よりは自由の利くヘクトールが言うと少し可笑しい。
 とはいえ最近は槍の道場に通い、私塾のようなものを始めたので忙しい身である。
 人の出入りが増えた分、気を引き締めなくてはと思うが誘惑には勝てずにまだ陽も落ちていないのに部屋で寝そべれば、自然と躯が重なり合う。
 どうやら猫たちがそういった気配を感じたようで、黒猫には恨めしそうに鳴かれたが彼がついこないだ庭先で鳴いているのを知っているのでお互い様だ。

 黒猫が自分と同じく長く出かけていたようだが、帰ってきた時期が同じだったので特に問題はなかったがその後の方が大変だった。
 猫のヘクトールは毛量が多いので定期的に櫛で毛並みを揃えていたのだが、最近黒猫がそれを阻止してくる。
「お前さんがこいつの毛捨てたからだと思うぜ」と猫のヘクトールを指さしたヘクトールが笑うが、仔猫一匹分の毛が取れたのだから捨てるしかないだろう。
「俺の毛も?」と揶揄ってきたヘクトールに、「すて……今度餌もって謝ります」 とその通り黒猫に謝罪し関係は修復されたが、毛繕いは自分がやると猫のヘクトールから離れずにいる。
 変わったと云えば猫のヘクトールもだ。
 前まで狩りらしい狩りはしなかったがここ最近は毎回黒猫と一緒に出掛けては、二人で得物を仕留めてくる。
 ようやく春が来たわねと微笑ましく見守られているが、独占欲が強過ぎはしないかとヘクトールに笑われると、五貫ある巨躯からは生み出せない速度でヘクトールの背中にのしかかった。
 触らぬ神にたたりなしというやつだ。

 そんな訳で楽しくやってると消えた親戚に届くわけでもないのに手紙を書いてみると、黒猫が手紙に手形を押したのだった。