タロイモ
2025-10-28 20:12:44
7030文字
Public
 

Could you pass me my baby?

パーバソワンドロライ。
お題:時計の針/相棒 お借りしました。
時間:1h+3h
ドド遅延&遅刻参加失礼します。

成立済みパーバソ。これでもパーバソです本当です信じてください…
二人が普段喋ってるのが英語だったらイイナっていう言葉遊びから派生しました。バソは混沌悪!
2ページ目はあとがきと言うか言い訳というか、蛇足の蛇足の解説っぽいもの。

かちり、こちり。
無機質な壁とは対照的な、少し古ぼけた壁掛け時計の針が、心地良い音を立てて時間を刻む。
カリブ最後の大海賊バーソロミュー・ロバーツが『取得物として』特異点から持ち帰ったそれは、彼の幾つかあるコレクションの内の一つだった。
木目部分に美しい象嵌細工が施された振り子時計は、ほんの小さな誤差を生みながら、それでも規則正しく時間を紡ぐ。備え付けの電子時計があるカルデアの居住空間には全く不要な物であるけれど、バーソロミューは何となくその『音』が気に入って手元に置いているのだった。

柔らかな音が紡がれる静かな部屋には、その主人であるバーソロミューと、もう一つ、白く大きな背中があった。
パーシヴァル・ド・ゲール——言わずと知れた、円卓第二席の聖槍の騎士である。

一つ前の夏の休暇に仲を深め、十数ヶ月前から所謂『お付き合い』を始めたバーソロミューとパーシヴァルは、今やマスターと大部分のサーヴァント公認のビッグカップルであった。
とはいえ二人ともいい大人であるので、所構わずイチャつく事もなければ、サーヴァントとしての活動に私情を挟むような事も勿論無い。
付き合い始めるまでは紆余曲折、すったもんだが沢山あったものの——それこそ、二人ともマスターには感謝しても仕切れない恩がある——、今や熟年カップルのような落ち着きさえある両人だった。
……尤も、ベッドの中ではティーンエイジャーよろしく、未だに熱烈なスポーツを日々繰り広げてはいるのだけれど。

それはさておき。
そんな二人も、最初の三ヵ月はシミュレーターを使ってデートなどもしてみたりもしたのだ。思い出の地であるドバイのオールド・スークで食べ歩きをしたり、バーソロミューの庭たるカリブの海をクルージングしたり、パーシヴァルの提案で馬に乗って草原を遠駆けしてみたり。
色々な場所で、シチュエーションで、或いは複数人で。様々な事を経験したり、それを写真に収めたり、気の置けない友人たちに話して共有したりもした。それらは勿論楽しく、かけがえのない思い出となった事は事実だ。

しかし、(ある特定分野を除けば)カルデア屈指の理性的な大人である二人は、同時に気付いてしまったのだった。
互いが傍らに居さえすれば、もうそれだけで結構な欲が満たされてしまうという事に。

そんな訳で、最近はもっぱらお互いの部屋を訪れて、銘々に好きな事をするのが二人の習慣となっているのであった。

元々、余暇の時間は一人で静かに過ごす事の多かった二人である。互いの共通の趣味……というかルーチンとして、武器の手入れと読書があるのだけれど、ご多分に漏れず今日も二人はそれに精を出していた。
片やパーシヴァルはバーソロミューのベッドに腰掛け、図書館で借りた(今週中に返さなければならない)三冊の本を広げているし、片やバーソロミューは同じくベッドの上で胡座をかき、パーシヴァルの背中を背もたれにしながらカトラスの手入れをしている。
特に言葉を交わす訳でも、何か相手の手伝いをする訳でもない。ただ、背中に感じる互いの熱を感じながら、日々の日課をこなしていく。
それだけと言えば、それだけだった。

けれど、この平穏がひとときのものであり、また得難い幸せである事を、この二騎の英霊はよく識っていた。
そも、ヒトに使役されるサーヴァントという存在が、肩を並べて立てるだけでも稀なことなのである。あまつさえそれが愛した者であるなど、奇跡以外の何ものでもない。
そして、それが時に一瞬で崩れ去ることも理解しているからこそ、二人は精一杯今を共に在ろうと思っているのだった。

『癒しの時間』なんて言葉で括ってしまっては、ひどく陳腐になってしまう。
この時間はもっと崇高で、暖かくて、価値のあるものである。
言葉にこそしないけれど、それはパーシヴァルとバーソロミュー、二人の共通認識だった。

かちり、こちり。
時計の針が進む音に、時折本のページをめくる音と、僅かな金属音、それに布で堅いものの表面を擦る音とが混じる。
バーソロミューが胡座をかく備え付けの簡易ベッドの上には、何時ものベストに飾り布、剣帯、革手袋。それから、武器のメンテナンスに使うグリスやウエス等々が雑然と並ぶ。
「円卓の騎士様の目の前でごろごろしたり、だらしない格好なんて出来るか!」と妙に構えていたのも過去の話。ラフな格好で——柔らかな生成りのリネン地に、襟ぐりの深いゆったりしたシャツだ。おっと、掠奪品ではないので注意されたし——寛ぎつつ武器の手入れをしている海賊は、その装備やら装飾品やらをベッドの上に割と無造作に広げていた。
今やパーシヴァルもバーソロミューも、お互いに無防備な部分を晒すようになって久しい。
二人きりの時、海賊は伊達男の仮面を脱いでその辺に放り投げてしまうようになっていたし、騎士はむしろそれを喜んで受け容れていた。
だから、然程広くはないバーソロミューのベッドの上が、現在進行形で彼の装飾品等によりごちゃついているのは、まぁ仕方がないことと言えばそうなのだった。 

古時計の長針が盤面を半周ほど回った頃。
丁度カトラスのナックルボウの手入れが終わって、バーソロミューは顔を上げてふぅ、と一つため息を吐いた。
金属製の柄を握り、くるりと手のひらの中で回して確かめる。細かな傷以外の汚れは、これで全て取れた筈だ。グリスとオイルで艶が出た柄は、つるりと光を反射している。……意味は無いと知ってはいても、やはり見た目に綺麗になれば充足感のようなものがあった。

幾度となく振るって、まるで手の一部であるように馴染んだ獲物。
実はこのカトラスを始めとした装飾や武器は、本来手入れなどは不要なものである。
バーソロミュー・ロバーツという英霊に紐付けられているこれらの道具は、元を糺せば彼の魔力によって編まれたものだ。つまり彼が霊基を一度編み直しさえすれば、その持ち物も元どおりにリセットがかかるのであった。
無論、幾らか魔力は消費するが。

バーソロミュー自身もその事は分かっているのだけれど、この『お手入れ』は彼にとって殆ど習慣というか、習性のようなものだった。言い換えれば、定期的にこの作業をやらねば落ち着かないのである。
武器とは、有事に備えて手入れを欠かさず行っておくものだとバーソロミューは思う。かつてはそれを掟にも定めて、クルー達にも口が酸っぱくなるぐらい言い含めていた。
船であれ武具であれ、己の命を預けるものを蔑ろにする事は、己の命を軽んじる事に他ならない。
自ら手間と時間をかけて常から点検を行うからこそ、武器は非常時にも十全にその力を発揮出来るのだ。
生前に染み付いたそういった意識や習癖は、サーヴァントになってからもバーソロミューの中から消えないものだった。

さて、カトラスの手入れはこれで終わり。
海賊はベッドが汚れないようにと敷き広げた布の上に幅広の刀身を置き、お次は愛銃のメンテナンスだと海色の視線を周囲に彷徨わせた。
しかし。

(あれ私は、銃をどこへやったんだ?)

くるり、くるりと辺りを見回すけれど、何故だか何処にも相棒たるフリントロックピストルだけが見つからない。
はて、どこか別の場所にうっかり置いてしまったかと海賊がお宝をさがすように目線を泳がせていると、ふと騎士が広げる本の背表紙が目に入った。
それはとある街の歴史書のようで、三冊とも同じ色合いの濃緑色の装丁に、金の箔押しの文字が躍っていた。
そして、その分厚い本の直ぐ真下。下敷きになっているのが見える特徴的な金具は、海賊愛用のピストルの銃底のものと全く同じであった。

どうやら海賊紳士が寛ぐために装飾を外して服を着替えている内に、銃は騎士の借りてきた本の真下に潜り込んでしまっていたらしい。
騎士の広い背中故に死角になっていて、少し身体を反らさなければ気付かなかった。
銃は身体をずらして手を伸ばせば届く場所にあったのだけれど、バーソロミューは少しだけ不精する事にした。

なぁ、ちょっと『相棒』を取ってくれないか?」

そう言って、背中合わせのまま、海賊紳士は騎士の方へと右手を差し出した。
察しのいい彼のことだ。こう言えば、直ぐに本の下敷きとなっている海賊の短銃に気付いてくれるだろう。騎士らしく細やかな気遣いの出来る男だ、そのまま『相棒』を拾い上げて、バーソロミューの手のひらの上に載せてくれるに違いない。
そう思っていた。
のだが。

「んぇ?」

バーソロミューは、気付けば頓狂な声を漏らしてしまっていた。

一拍遅れて、差し出した右手に載ってきた、予想だにしていない重み。
ずしりと重量があるソレは、槍の修練で硬くなった、けれど暖かくて程よい弾力のある、パーシヴァルその人の大きな左手だった。

瞬間、バーソロミューの目前には宇宙が広がった。

ホワイ?
何故?
どうして私の手の上に、彼の手が載っているんだ?
銃は?
私はどう反応すれば……

バーソロミューが面食らっていると、数秒遅れてパーシヴァルの左手は何故かするりと引っ込んでいった。
それからややあって、今度こそおずおずと銃が手渡される。
紛れもなく、それは終焉の大海賊が最期の時まで握っていた『相棒』であった。

一連のパーシヴァルの動きには、何か意図があったのだろうか。
もしかすると、私が知らないだけで何か深遠な意味があったのかもしれない。
そう思って、バーソロミューは思わず振り返る。

すると、彼の柔らかな銀糸の隙間から、見えてしまった。

滑らかな白皙が、首筋から耳に至るまで真っ赤に変わっていく様が。

……パーシヴァル?」
……すみません。何でもないので、忘れてください……
「パーシィ?」
「お願いです、忘れて……
「いや……忘れろって、何を?」

白銀の騎士、もとい今は赤熱の騎士が何を言っているのか分からず、海賊紳士は首を捻った。
果たして、忘れろとは何なのか。別に君、何も悪いことしてないじゃないか。騎士はそれ以上何も言わないので、バーソロミューは仕方なく自分の言動と騎士の行動とを反芻した。

なぁ、ちょっと『相棒』を取ってくれないか?』

『相棒』。
それから、手を差し出す騎士。

……もしかして。

「パーシヴァル、」
はい」
「もしかして、君、『相棒』ってコトバに、反応した……?」
………
………

かちり。こちり。
時計の針の音ばかりが響く。
とうとう騎士の大きな背中は、ふるふると震えだした。

それから、たっぷり数十秒経って。

…………………………はい」

それはそれは小さな、蚊の鳴くような声が聞こえた。

成程ね。
『相棒』。
……成程ね。

混沌悪が本領の悪党は、まずは細く長く息を吸って、右手の中にある銃をそっとサイドテーブルに移した。
それから、手早くカトラスや手入れ道具、その他諸々を片付けて、汚れ防止の布の中に一纏めに包み込む。そうして、それもサイドテーブルに何とか載せた。
安定は悪いが、とりあえずそんなものは二の次である。ベッドの上が空きさえすれば良い。

そうやって、ほぼ全てのベッド上の異物を取り払って。

靱やかな首筋や丸い耳を真っ赤にさせている、純潔の騎士を見下ろして。

次の瞬間。
疾風の掠奪者は、自分よりも一回り以上大きな男の肩を掴んで、ベッドの上に乱暴に引き倒していた。

その衝撃で、そこまで丈夫ではないベッドが嫌な音で軋み、白銀の騎士からは吃驚の声が上がる。けれど、そんな事はどうだって良かった。
バーソロミューは、自分でも驚く程に、己の中の獣が暴れ吼え立てているのを感じていた。

奪え。奪え。
侵略しろ。犯せ。全て。何もかも。

こんな事は、海賊の棟梁をしていた時ですら無かったことだ。
征服欲。支配欲。愛欲。獣欲。その全てを綯い交ぜにした、感じた事の無い高揚が、バーソロミューを襲っていた。

その熱狂そのままに、海賊は騎士の唇を掠奪して、その内部を蹂躙する。
俄に暴れ躍動する身体を、己の下肢と上体で押さえつけ。
何か言葉になろうとする息を、奪って口答え出来ないようにして。
逃げ惑う舌に、自分のそれを絡ませ押し付けた。
どちらともなく溢れてくる唾液が甘い。海賊はその甘露を啜り、或いは騎士の貞淑な喉奥に捩じ込んだ。
甘く感じるのは、魔力のせいなのか、それとも相手がこの聖騎士だからなのか。バカになった頭では、その判別すらつかなかった。

腕を掴んでいた騎士の大きな手のひらが少しずつ力を失って、くたりと下に落ちていくのを、海賊は愉悦に浸りながら見送る。
酷い事をしている自覚はある。
美しい感情を、穢している覚えもある。
けれど、それに勝る狂喜がバーソロミューの中で渦巻いた。

強く、気高く、尊く、潔癖で、完璧な騎士。
ソレが己という矮小なる悪人に堕ちてくるという、暗く爛れた歓喜。
普段は冷静沈着な海賊の頭は、一瞬でソレに埋め尽くされる。——否、埋め尽くされたのではなく、自ら満たしたのだ。
バーソロミュー・ロバーツは決して理性を失わない。感情とは自ら熾し、情動を焚べて、そして『分かった上で愉しむ』ものだ。
バーソロミューにとっての情熱とは、演じるうちに本物へと置き換わる青い炎だった。

さぁ、溺れよう。
喰らい尽くそう。
時間は有限で、いつまた同じように愛せるかは分からないのだから。

かちり。こちり。
時計の針は、待ってはくれない。

ひとしきり蹂躙し尽くして、掠奪者は騎士の唇を一度解放してやった。
途端にげほげほと咳き込んで、息を必死に取り込んでいるのが何ともいじらしい。
少し顔を離してまじまじと見遣れば、銀糸の合間から覗くアクアマリンは溶けだしそうなくらい涙に覆われて、踏み荒らされぬ白雪の肌は痛々しいくらいに紅潮していた。
それでも、彼の瞳に宿る光だけは消えていないのが堪らない。下腹がずくり、と疼く。

嗚呼、なんて可哀想で、可愛い。
こんな極悪人に捕まるなんて。
離してやる気など、毛頭無いけれど。

バーソロミューはニィ、と悪魔的な笑みを浮かべて、パーシヴァルの腹部に馬乗りになった。
入ってしまったスイッチは、恐らくぶち壊れてエネルギーが切れるまで戻らないだろう。

ならばいっそ、楽しまなければ。ね?

……Hey, Could you pass me my baby?」

一言一句、先と同じ台詞を吐き出した海賊は、節だった指先で騎士の赤く熟れた唇をなぞる。
浅く早い息が、指先にかかって擽ったい。少し乱れた銀灰のヴェールの向こうのアクアマリンは、僅かに血を透かして紫がかっていた。その奥に粘ついた光が灯るのを、抜け目なき海賊の長は見逃しはしなかった。

ニュアンスを感じ取っていただけたかな?と海賊は問う。
騎士は、掠れた声で「ya,」と返して目を伏せた。

果たして君の真意は、嫌かyesのどちらだろうね?
敢えてそれは尋ねずに、海賊は騎士の腹部に跨ったまま前髪をかきあげ、最後の質問を投げかける。

「選ばせてあげるよ。君は私を抱きたい?それとも、」

抱かれたい?

バーソロミューは身体を丸めて、呼気を多分に含んだ声で、騎士の耳元に囁いた。
びくり、と震えた立派な体躯が、余計に悪人の嗜虐心を煽った。

額を合わせ、唇が触れ合いそうな距離で答えを待てば、騎士はおずおずと唇を開いた。

……貴方の、お好きな方で」

百点満点の答えに、海賊は騎士の首筋に犬歯を突き立てて噛み付いていた。





my baby

≒大切なもの(相棒、愛機、宝物)

≒大切なひと(愛する人、大好きな貴方)