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保科
2025-10-27 23:48:19
3509文字
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スタレ
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アルコール4%
現パロアグサフェ 自分プレゼンツ正しい酔っ払い
「ラ、イ、ア〜っ」
その声に。背後から、大して強くない力で抱きしめられたにも関わらず、アグライアは完全に思考が停止した。
「せ、ファリア
……
?」
「んふ!」
かろうじて出力された彼女の名前に対する、妙に陽気な相槌に、偽物、という単語すら一瞬頭をよぎる。けれど、彼女の温もりはけして偽りではない。
確かめるように名前を呼べば、満足そうにサフェルが息を吐く
――
途端、スパイスのような香ばしさの中に漂う、ぬるいアルコールの香り。
「
……
貴女、まさか、酔っていますか?」
「んにゃ?酔うってなにが?」
「
――
そうですか。では、直近、何か、飲食をした記憶は?」
「あー、あ!なんかね?ライアのくれたチョコ、すっごいおいしかった!」
「ああ、チョコ
……
」
向こうのローテーブルを覗えば、包装紙が破られたチョコレートの箱が空になっている。先日、懇意にしている取引先から頂戴したものだ。好きに食べて良いとは伝えていたけれど、そこそこ大きい包だったのに、一人で
――
……
。
「
……
セファリア、チョコはどのような味でしたか」
「どんな
……
?甘くなくて苦めで美味しかったよ。てかライアのくれたもの、全部美味しいし!サイコー!」
「なるほど、そうですか
……
」
キャッキャとはしゃぐ声を背に、アグライアは考える
――
おそらく、あの贈答品はウイスキーボンボン等、アルコールを含む菓子だったのだろう。何も考えず渡してしまったが、今世の彼女は酒精の耐性が低かったようだ。
――
今後は注意しなくては。
気付いた事実を記憶に留めていれば、黙り込んだアグライアに、サフェルが不安げに声を掛ける。
「
……
ライア?ねえ、どうかした?なんかあった?」
「
――
いいえ、何でもありません。
貴女が美味しく味わってくれたのならば、何よりです。
……
機会があれば、また用意しますね」
貴女が望むなら、というところは口に出さずおく。サフェルは心から嬉しそうに頷いた。
「ん!ありがとライア!」
「ええ、勿論です」
褒めるように、後ろ手に髪を撫でてやれば、嬉しそうに額をすりすりと擦り付けてくる。そうして、絶え間なくライア、ライアと呼ばれる
――
アグライアは、胸の高鳴りで心臓が張り裂けるなら今この瞬間かもしれない、と真剣に考えた。今日という日は彼女が可愛すぎることを祝して記念日に選定するべきではないか。
「ライア?ライアー」
「はい、はい、何でしょう」
「あのね、好き!」
「
――
、
―――
ええ。私もですよ」
――
危なかった。ここで目一杯抱きしめて頬ずりなどすれば、敏感な彼女が逃げる可能性は大きい。アグライアは鋼の忍耐力で己の衝動を押し殺し、そっと彼女を撫でるに留める。
「好き、大好き、ライア」
「はい
……
知っております。私も愛しています、可愛いセファリア。
ですから、ええ、一つだけおまじないを」
「?」
「
――
貴女が今後何を思おうと。
私は、貴女の言動を恥ずかしいものとは思いませんし、それを誂うことも致しません。
どうか、それだけは分かってください」
「うん?」
「ええ」
何のことだか分かっていないだろう相槌に、アグライアはただ、笑顔だけを返す。
「難しく考えることはありません。つまるところ
――
今、そのように貴女からの沢山の愛を受け取ることができるなんて、本当に、本当に嬉しく思うのです」
「ホント?ライアも、あたしのこと好き?好きだよね?」
「勿論です、セファリア。何を疑うことがありましょう?
貴女のことを心から愛しています、これまでも、これからも」
淀みなく言葉が溢れ出る。普段であれば『あーやめやめ!そういう甘ったるいのさあ
……
』と嫌そうに退けられるものが、むしろ本人から請われるなどと。アグライアはまさしく、至福の心地で彼女の言葉を聞き届ける。
そんな反応に、サフェルはんー、んー、と小さく唸ったあと。
「じゃあ、じゃあさ?」
「はい」
「どうして、いってきますのチューしなくなったの?」
「
――
ええと」
予想外の疑問だった。アグライアはさしもに困惑した、が、何のことを言われているのかの心当たり自体はある。彼女をこの家に迎えてから暫くの間、アグライアが出勤時に彼女に贈っていた親愛のキスのことだ。
『
――
そういうの、いいって。恥ずかしいよ』
と、難しい顔のサフェルに拒否されてから、アグライアはそうですか
……
とそこそこ落ち込みつつも、取りやめるようにしていた、のだが。
「
……
貴女が、嫌だといったからですが
……
」
「
……
いらないっていったけど、嫌とは言ってないじゃん」
むす、とした顔のサフェルが口をとがらせるのに。アグライアは、なんとまあ、と、口もとを綻ばせる。
「そうでしたか
……
全く、貴女のことであれば、粗方理解できたような気でいましたが、まだまだ甘かったようですね。
ふふ、貴女の我儘ぶりには驚かされます」
「
……
やになった?」
ぽつ、と、怯えたような声に。アグライアは立ち上がると、背後のサフェルを緩く抱き寄せた。この程度を面倒と思うような女であれば、サフェルがこれほど懐くはずもなく。
「まさか。より愛しさが募るばかりですよ
――
私の、私だけのセファリア。いつでも甘えてくださいな。
他にはありますか?貴女の願いならば、なんだって叶えてあげますよ」
アグライアの肩口に、甘えるように顔を押し付けるサフェルは、うー、と微かに唸った後に呟く。
「
……
帰って来るの、遅すぎ。つまんない」
「それは
……
成程。明日からでも改善しましょうか」
「なら、えっと
……
寝る前にお喋りしたい
……
」
「ええ、ええ、沢山しましょう
――
他には?ふふ、ええ、勿論です。何でも言ってくださいね、セファリア
――
」
………
。
………………
。
…………………………
。
―――
ガチャリ。リビングの戸が開く。
「うぁ
………
頭、やばすぎ
……
」
「
――
おはようございます、セファリア。昨夜はよく眠れましたか?」
朝。ガンガンと痛む頭を引きずって起きたサフェルへ、リビングにて新聞に目を通していたアグライアが笑いかける。サフェルはその顔をぼんやり眺めた後、徐に視線を逸らした。
「
……
おはよ。
あー
……
眠れたのかな
……
?いや分かんないけど寝起き最悪だよもー
……
」
「辛そうですね。どうか無理だけはしないように」
「はいはい分かってますって
……
」
不調を隠さず、ぶつくさ言いながら水を汲むサフェルを、アグライアは背後からじっと観察する。そうして、髪の間から覗く彼女の耳の先が、どうしようもなく赤いのを確認して。
ゆっくりと席を立つ。
「さて、セファリア。起きがけのところ申し訳ありません。
私は、そろそろ家を出ますが
――
」
カバンを手に取りながら。視線はテーブルに向けたまま、何でもないように告げる。
「
いかがしますか?
」
「んぐぅふ」
――
水を飲んでいたサフェルが、噎せてシンクに吐き出した。
「あら。落ち着いてください」
「どっ
……
だっ
……
」
げほ、げほ、と咳を何度かして。サフェルは恨めしげにアグライアを睨みつける。
「
……
何の、話!」
「貴女のそのいかなる時でも白を切る態度は尊重に値しますが。今、私から伝えられることは一つだけ。
――
『おまじない』は、信じていただけますか?」
「
………………
」
濡れた口元を乱雑にぬぐったサフェルは、堪えきれない頭痛を感じたように額を抑えて数秒固まる。そうして、観念したかのような低い声色で、女性の名を呼んだ。
「
……………
ライア」
「はい」
「楽しげなのムカつく
……
」
サイアク、などとブツブツ呟きながら、彼女に歩み寄ると
――
サフェルは、その肩を軽く抱き寄せる。
そのまま、薄く微笑むアグライアに己の顔を近づけると、慣れたように唇を軽く重ね合わせた。微かなリップ音が、部屋に落ちる。
「
……………
」
「
……………
その。いってらっしゃい
……
」
ふい、と。背けるように視線を落としたサフェルを、アグライアは暫しの間じっと見つめて
――
そのまま、彼女の顎に手を添える。
そうして、無理やり自分を見上げさせた彼女の口を、
「
……
うぇ?な
――
むぐっ
――
!?」
「
―――
」
十二分な時間、堪能したあとに。
「
……
んっ。
ふふ。物足りず、申し訳ありません。では
――
いってきますね」
口を押さえながらへたへたと座り込んだサフェルが、端についた口紅と同じくらい赤く茹で上がった顔で吠える。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ、色ボケ女!」
「心外ですね、貴女にだけですよ、セファリア?
ああそう、今日は早く帰りますので
――
」
「好きにしなっての!!!」
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