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保科
2025-10-24 20:30:32
4454文字
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スタレ
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ちょうちょとねこ
キャスサフェの短編です if黄金裔→if黄金裔→社会人→学生のパロ
「つまり
……
仮定ですが。私とサフェル様がお付き合いをしたとて」
暫く考えたキャストリスが、控えめに口を開く。
「特に今までと変わらない、ということでしょうか」
「
………
ま、そうかもね?」
幾分の気恥ずかしさに、頭上の獣耳を揺らすサフェルに対して、キャストリスは至って冷静に呟く。
「驚きです。確かに、以前読んだ娯楽の本にも、逢瀬を重ねる恋人たちの記述がありましたが
……
」
そうして、じ、と繋いだ手に視線を落とす。
――
死を招かない己の手。永劫回帰の中で起きたそんな奇跡に想いを寄せ、黙り込んだ少女に。
どことなく嫌な予感がしたサフェルは、「ちょっと?」とキャストリスに声をかけた。
「姫、なんかろくでもないこと考えて
――
」
遮るように握った手を強く引かれ、サフェルはキャストリスに抱き寄せられる。彼女の腕の中で突然の出来事に面食らうサフェルの肩越しに、
「
……
大変ですサフェル様。確かに小説の記述通りに動いても、意外性がありません
……
」
「
……
急に試すのやめてもらっていい、引きこもり姫や」
さながら、樹庭の検証実験かのように真面目に驚かれると、サフェルとてどう返せばいいのか分からなくなる。生き物に触れられるようになり、人恋しさを抑えきれなくなったキャストリスの距離感はすっかりバグり散らかしてしまった
――
主だってその犠牲になっているのは、うっかり彼女の社会復帰を手伝ってしまったサフェルなわけだが。
アナイクスがいればキレながら0点をつけそうなやり取りの中、ハッとしたようにキャストリスが顔を上げる。
「ですが、そうしますと
……
」
「何さ」
「私達は、私が死の権能を失って以来、恋人と定義される以前から、そのような振る舞いをし続けていたことになりますが」
「いやだからそうなんだって
……
」
手を引っ張って連れ出しただけで、刷り込みのように懐かれたサフェルは過去を思い返しつつ、何回するんだこの話、とちょっと呆れた相槌をうつ。距離にして片手ほどの間隔を開けたキャストリスは、おずおずと呟いた。
「
……
何故、サフェル様は、そのような私の振る舞いに、これまでお付き合いをいただけたのですか?」
「
―――
」
――
さしもに鈍感すぎる。ここで怒鳴らなかったのは、ひとえにこれまでのやり取りの中で培ったサフェルの優しさと忍耐力のおかげだろう。
「
………
あんたさあ、いくらこれまでが大変だったからって、もうちょっとヒトの心情とかそういうの気にしてもいいと思うよ」
「
……
すみません。不得手でして
……
」
弱めの嫌味に、素直に謝られてしまえばそれ以上責めづらい。ぐい、と肩を押して、顔と顔を見合わせる。瞳を揺らすキャストリスに、ほんの少しだけ嗜虐心を煽られる。
「
……
じゃあ、何でだと思う?
今から、あたしと、恋人になるかもしれない、引きこもり姫」
「
―――
」
わざと言葉を切りながら、反芻するように事実を伝えれば。
じっくり、キャストリスはうつむきながら考えて。暫くの後、戸惑いながら、その、と、
「サフェル様が
……
お優しいから
……
?」
「0点。失格。やり直し」
「そんな
……
」
ぴん、と額を弾かれたキャストリスが愕然とするのを、サフェルはくつくつと喉を鳴らして眺めている。
「
……
ちょっと、なんで笑ってるの」
キャストリスの膝の上、僅かに頬を紅潮させながら見上げるサフェルの言葉に、キャストリスは己の口元をなぞった。確かに弧を描いているのには、心当たりが多分にあった。
「
……
その。実のところを申しますと。
普段、自由に動き回り、詭術の半神として多くの民を翻弄するサフェル様が
――
私の膝の上で休まれていますのは、非常に優越感がありまして」
「
………
、悪趣味姫」
んべ、と舌を出すサフェルに、そういう所が可愛らしいのですよ、と思いつつ、キャストリスは機嫌を取るように喉元を撫でてやる。そう時間は経たずに、サフェルの喉がぐるぐると鳴り出した。彼女が安心しきっている合図だ。
「うぁ、あー
……
」
のぼせたような声を上げるサフェルの尻尾が、キャストリスの腕をゆるりとなぞる。ふわふわの毛並みのこそばゆさに、思わず口元がゆるむ。
「
……
ふふ」
こうしてただ甘やかしても、皮肉も文句も一つもなく、ただ委ねてもらえている事実を確かめて。キャストリスは、愛おしむように彼女の名前を呼ぶ。
「
……
サフェル様」
「
――
姫、まだ起きて」
「眠れない、のですか」
聞こえる呼吸音が安定していたから、てっきり眠っているのかとばかり思っていた。旅先のホテルの一室、おぼろげな常夜灯の中、パチリと見開かれた目に射抜かれ、サフェルは多少はねた心臓をなだめるように、まあね、と白々しく返す。
「あんたも知ってのとおり、慣れない環境だと、眠り浅くてさ。
……
あー、大丈夫大丈夫、そのうち寝付けるから」
「
…………
」
キャストリスは、考える。サフェルが緊張せず、安心できる環境を提供するために、自分には何ができるのか。
――
その様子を見たサフェルが呆れたようにつぶやく。
「
……
だから言いたくなかったのに。
いいって煩わなくて、ほら、早く寝な」
しっし、と手を振られるのにも構わず、キャストリスは熟考を重ね。
「
……
あの。サフェル様さえよければ、ですが、こちら
……
入られますか」
そして、結論が導き出される。
す、と、キャストリスが自分の被っている布団を持ち上げる。沈黙
――
返答に窮するサフェルと、様子をうかがうキャストリスの視線が交錯する。距離を、測られている。
「
……
あ。あの、」は、とキャストリスは閃いた。「私も、その、一人だと心細いところがありまして、サフェル様と寝所をご一緒できますと、私が快適な睡眠がとれるのではないかと」
「
……
あのさ姫、だから、気ィ使わなくても、」
「気を使うなど、そのようなことはありません」
そう、キャストリスが口にするのはどれも本当のことではあった。態々、言わないだけで
――
きっと、それはお互いに。食い気味のキャストリスの言葉に、圧されたサフェルがでもさ、と続ける。
「態々ツインでベッド用意してんのに?」
「ツインで部屋を予約したとて、必ず2つ使用する、といったルールはありません」
「
………
」
ああ言えばこう言うキャストリスが、なんとなく、出会った頃よりも口が達者になったように思うのは、気の所為だろうか。自分のせい、ということはないとは
……
思うが。
サフェルは、白旗の代わりに深く息を吐く。そうして、自身のベットからぬると抜け出し、躊躇いつつもキャストリスの腕の中に収まった。
「
…………………
」
「
……
何」
寝床を調整するように、体を揺らすサフェルのことを眺めていれば。視線に気づいたのか、不満そうにじ、と見上げるサフェルの眼差しが向けられる。いえ、とだけ返しつつ、キャストリスは慣れたようにその頭をなでる。髪の毛を梳くような彼女の指に、抵抗することなく、サフェルはそれを受け入れながら、ゆるやかに下がる瞼をそのままにする。
「
………………
ん
………
」
数分もしないうちに、くう、とサフェルのかすかな寝息が聞こえだす。
……
自分の側は、『知らない環境』ではないらしいと。キャストリスは熟考を重ねた予想が正しいことを静かにかみしめて、慈しむように微笑んだ。
「
……
お休みなさい、サフェル様」
届かない挨拶を一言。
サフェルを抱きしめ直すと、目を閉じた。
その瞬きの一瞬で、後ろ手に持っていたクッキーの袋は、目の前の怪盗を名乗る恋人の手の内にあったものだから、思わず声を上げる。
「あ、あっ」
「なんだやっぱ持ってんじゃん姫。なら出し惜しみせず最初から出しときなよ〜ってね」
ひっひ、と悪魔のような声を上げながら、彼女の名前のタグがついたリボンが、するするとほどかれる
――
「お、お待ちください!それは、その、そうなのですが!」
咄嗟のキャストリスの叫びに、ピタリとリボンを解く手が止まる。代わりとばかりに、ジトリと座った眼差しが、狼狽えるキャストリスをざくりと射抜いた。
「
……
『そうなのですが』?何?散々お預けした挙げ句、存在ごとなかったことにしようとしたクッキーちゃんはサフェル様にお渡しできません〜って?」
「一言も言っておりません
……
!」
「へん。まあもう貰ったからね、返さないよ。嫌だってんならそこでしくしく泣いてりゃいいじゃん」
素直じゃないキャストリスが気に食わないのか、いつになく意地の悪いサフェルは、そうして再度リボンに手をかけようとして。でも、というキャストリスの呟きを拾う。
「
……
サフェル様は、もう既に、いっぱいもらってるではないですか
……
」
「
………
は?」
意味がわからず面食らうサフェルに、キャストリスは、知っております、と虚ろな声で続ける。
「バレンタインのお菓子を。高級そうなもの含め、隣のクラスからも、違う学年の方からも、沢山貰っていらっしゃいましたよね」
「いや、まあ、それは
……
」
「
……
であれば私の不格好な菓子など、不要ではありませんか」
「
――
なんでそうなんの」
真顔のサフェルがずいと顔を近づけるのに、キャストリスは瞬く。
「なんで、と
……
言われても。自明の理では
……
」
「そんな屁理屈とっとと捨てな。
そりゃまあ、義理とかで貰ったけどもさ、あたしはずっと
――
」
言葉が途切れる。ぐ、と息を呑んだサフェルが、諦めたように息をつく。
「
……
既製品しか貰ってない」
「
……
?ええと」
突然の宣言の意味を測りかねて、当惑の声を零すキャストリスに。だから、とサフェルは重ねて。
「手作りは。姫から貰う分だけって決めてるから
……
そーゆーのは、断ってるってコト」
「
……………
」
「
……………
」
降りた沈黙の中。ずるずるとしゃがみ込んだサフェルが、小さく呟く。
「
……
楽しみにしてたのに」
「え、あ」
「あーあ、楽しみにしてたのになあー!姫のクッキー!」
「あの、えっと、わ、私」
チラリ。組んだ腕のすき間からのぞく視線に、珍しい彼女の本音に、たまらず喉がなる。
「そ
……
その。
……
サフェル様に、お渡ししたいと、作ったのですが。均一でなかったり、焼きムラがあったりと、納得のいくクオリティではなく、用意したものの
……
やはり、相応しくないのではないかと
……
」
「ねえ」
「
……
はい」
「うだうだ言うだけなら食べていい?」
「
……………………………………
はい」
言い訳をすべて黙殺されたキャストリスに、それ以上何かをいう余地はなかった。
上機嫌なサフェルから放たれる「え、やば!ちょっと美味しすぎるんだけど」「姫これ店出せるって!お店!あたし看板ネコやるよ」「はーすっごい。これまた作ってって言ったら作ってくれるやつ?いいの?マジ?」といった言葉の数々に、キャストリスは程なく「おゆるしください」しか喋らない置物となる。
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