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nozomu_HK
2025-10-20 04:45:31
6050文字
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[リクエスト]好奇心は、(虚ヴェ)
ヴェルトの夢の中に入る虚空万象の話
リクエスト頂いたものです
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「そんな事もあったね」
虚空万象の独り言が閑散とした部屋に響く
遭難し、星穹列車に拾われた今となっては遠い過去となったそれを思い出し、くすりと微笑む
「君はあれから僕の前で眠ることがなくなったんだ。覚えているかい?」
返事は返ってこない。ぎし、と深く腰かけたベッドが軋む
自室のベッドで眠るヴェルトは少しだけ眉を顰めるのみで起きる気配はなかった
「君はまた同じ夢を見ているのかい?」
虚空万象はヴェルトの手にそっと触れる。ヴェルトは「んぅ.....?」と不審そうに呻くが、すぐに気持ちよさそうに寝息を立てる
随分丸くなったものだ。聴覚が優れ、警戒心が強く、決して無防備な姿を晒さなかった彼が無垢な子供のように眠っているのだから
声をかけようが触れようが彼は一向に目を覚まさない。それに気を良くした虚空万象は一寸ばかりの希望を抱いた
──君は僕を受けいれてくれるのだろうか
ゆっくりと触れた手を開け、手を繋ぐ。ヴェルトの寝顔を愛おしく思いながら目を閉じた
金色の羽が舞い踊り、虚空万象の意識をヴェルトの元へと誘った
*******
目を開ける。そこは久方振りの故郷だった
見渡す限りの晴天に白雲が浮かんでいる。人の往来が激しく、雄大なビル群はこの地の繁栄を意味している
虚空万象は周囲を見渡す。休日なのか行き交う人が多く、ヴェルトを見つけられずにいたのだ
しかし、そのお陰でここが何処なのか分かった。ニューヨークだ。看板やポスターにそう書かれてはいるが詳しい地区までは分からない。もしかすると夢故に曖昧なだけで、見知った場所かもしれない
人混みを避けながら少し歩くと開けた空き地があった。待ち合わせ場所になっているようで、何人か立ち止まってメッセージのやりとりをしたり、通話をしたりしていた
その内の1人にふと、目が止まった。虚空万象の口から震えた息が漏れる
虚空万象はその男をよく知っている。海と空の色をした髪と瞳も、胸元まではだけた白いシャツと紺色のコートも
──ヴェルト・ジョイス。この目で見るのは初めてだ
彼を見たのは半世紀以上前だ。が、一度も忘れたことはなかった
ジョイスは誰かを探しているのか、落ち着きの無い様子できょろきょろと辺りを見渡している
その瞳が幾度か往復したかと思えば、ぴたりと目が合った
「っ.......」
虚空万象は驚いた。彼から自分は見えていないはずなのに
そんな心情などお構い無しに、ジョイスは笑みを浮かべこちらに歩を進めて口を開いた
「ヨアヒム!」
ジョイスの弾んだ声が酷くクリアに聞こえた
ぱあっと明るく笑った彼は急かすように手を振っている
予想外の言動の連続に虚を突かれ、動けないでいると背後から人影が通り抜けた
「すまない。待たせた」
見知った声だった。ヴェルトだ。今よりも随分と若いが間違いない
まだ盟主と呼ばれていた頃を彷彿とさせる服装と容姿に懐かしさを感じる。唯一違う点は、本来ならズボンのベルトにあるはずのネゲントロピーのエンブレムが無い事だった
「いや、俺も今来たところだ」
まただ。またヴェルトは虚空万象の知らない顔で笑っている
「ヴェルト」
ヴェルトは答えない。聞こえてすらいない
この世界に虚空万象はいない。否、そうではない。ヴェルト・ヨウの存在がなかった事になっているのだ
「これが君の答えかい」
ヴェルト・ジョイスが死なず、ヨアヒム・ノキアンビルタネンの人生が壊されなかった未来。そんなもしもを望んでいたのか
「.....そこまでして僕を否定したいのかい」
当然の如く返事はない。それが答えだった
自分を受け入れないヴェルトに対する怒りか、はたまた彼の隣を許されているジョイスへの嫉妬か、もう分からない。そんな事はどうでもいい
「君がそのつもりなら餞別を送るよ」
──あの日の再現をしよう
「っ......!?」
「ジョイス....?」
あまりにも突然の事だった。今の今まで談笑していたジョイスの口から音にもならない悲鳴が漏れる。一拍置いて刺されたのだと気づいた
「ジョイスッ!!」
ずるりとそれが引き抜かれ、重力に従い落ちるジョイスの腕を掴み、引き寄せる。ヴェルトはジョイスの負担にならないように座らせると、護るようにその身を抱き寄せる
「あの日とはまるで逆だね。ヨアヒム?」
「お前.....なんで......」
ヨアヒムの瞳が大きく見開かれる。先程までの敵意も、戦意も既にない。ここにいるのは無力な子どもだけだ
コツン。態とらしい靴音が響く。いつのまにか人はいなくなっていた
オットー・アポカリプス。彼が二度と会いたくないであろう男が自分の目の前に立っている。横には金色の四方形がゆらゆらと浮かんでいる
「っ.......」
今のヨアヒムは無力だ。律者の力がなければエデンの星も使えない。だからといって手負いのジョイスを抱えて逃げるのも現実的では無い
「よあ、ひむ」
「喋らなくていい。大丈夫だ。きっと、助かるから、」
「もう、いい」
「ジョイス!」
ジョイスは焦点の定まらない中でゆっくりとヨアヒムの頬を撫でる。それは兄のようで。敬愛と慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべた後にふっと力を無くす
「ジョイス?ジョイス!」
ジョイスの熱が、鼓動が消えたのを感じた。現実から逃げるように何度もその名を呼ぶ。やがてその声には涙が滲み、嗚咽が混じり出す
「どうして.....」
「本当に君は愚かだね」
強く、されども優しくジョイスを抱きしめるヨアヒムにオットーは構わず話しかける
「君はありもしない現実に焦がれて夢に溺れた。本当に愚かだ」
ヨアヒムは答えない
夜が明ける──
*******
「っ.....!!」
「おはよう。ヴェルト」
ヴェルトは勢いよく飛び起きる。心臓はバクバクと脈打ち、脂汗も滲んでいる
そんなヴェルトを心配したようにベッドに腰掛けにこやかに言う虚空万象を見た刹那。襟首を掴み引き寄せていた
「どういうことだ.....!!」
「どうしたんだい?よっぽど怖い夢でも」
「惚けるな!!」
ヴェルトの声がびりびりと響く。恐怖か怒りか手が震えている
「流石にバレてしまうか」
「なんで、あんな事をした」
「それを言うつもりは無いかな」
虚空万象は諌めるように手に触れ、ゆっくりと指を解いていく
ヴェルトには責める気力も残っていないようで、虚空万象をただ睨んでいた
「二度とこんな事はしないと約束するよ」
ベッドから降り、ドアに手をかける
「もう期待したくはないからね」
パタン。と無慈悲にドアが締まる音が響く。ヴェルトは力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ
「なんなんだあいつは.......」
答えは無い
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