ななき
2025-10-21 13:39:35
6057文字
Public 吸死
 

カナリヤ、ゲーム、金色/備品、若造、銀色

(Δドラロナ 未満)
お互いへの印象についての話。見えてるものとか自覚していないものとか。
Δ前作(雨の資料室での話)より事件ひとつかふたつ分前の時間軸。
!注意!
・Δを長編小説原作2クールテレビドラマだと思っている。
・捏造成分特盛
自分でブラバできる人のみどうぞ。

カナリヤ、ゲーム、金色


「隊長? 吸対の現場指揮官として最上級の能力と現場の警察官として最下級の体力。カナリヤとは良く言ったものね。……私からみて? そうねぇ、信頼に足る人だわ」

「隊長のことだと? あれほど強力なダンピールは他に会ったことがない。聞いたこともないな。体力はどうしようもないとしても、せめて事務仕事はしてくれると助かるんだが。……ふん、どこで聞いた。その通りだ。この隊に拾われなければ私は吸対を辞めていた」

「俺はこの隊で働くの好きだよ。あのヒトの指揮でパズルみたいに作戦キマったりすると気持ちいいから。あ、そうだ。あのヒト案外、モテるよ。……あーわかった、わかったってば」
 
 新横浜で出会った、吸血鬼対策課の隊長。俺の監督責任者兼現在の身元引受人。飛び抜けた感知能力をもつ貧弱すぎる体力のダンピール。趣味はゲームと料理のおっさん。それが、俺の知っているドラルク。

 ◆

 ドラルクはわかりやすい。
 楽しいことしかしない。嫌いなことはやらない。そのためにめちゃくちゃな労力を支払ってでもやらない。
 人の懐に入るのがうまくて、関わってしまったらずっと敵でいることはきっと難しい。駆け引きも心理戦も大の得意だけど、気に入らない相手に阿るくらいなら正面から煽り散らかす。
 指揮官としてもみる限りでは有能。上司としては弄られつつ信頼を得ている感じ? 確かに変人ばっかりの新横浜ここの吸対で隊長やるにふさわしい変なヤツではある。

 ドラルクの、俺の扱いもわかりやすい。
 高火力、ただし想定外に動くリスクのある駒。ムカつかなくはないが、構わない。側でみていればそれが最高効率を上げることは直ぐに理解できたから。
 ついでに、駒として扱うのと同じくらい当たり前に、俺をガキ扱いする。これもムカつくがまあ仕方ない。実際、二十年ちょいしか生きてない俺よりはだいぶ年上だし。……だよな? たぶん。それに俺だって未熟な部分があることくらいは自覚がある。隊長サンからみれば若造なんだろう。

 こんなにわかりやすいのに、ドラルクの苦手なところばかりが増えていく。
 休みの日に、静かに本を読む横顔が苦手だ。
 白い制服に当たり前に腕を通す仕草が苦手だ。
 たまに煙草の香りがするのも、いつか殺してあげるよ、と白々しく嘯くのも苦手だ。
 
 それから、一番苦手なのは。
 

「ロナルドォ!! これをもっていけ!」
「イチイチ大声出すな半田! ん、なにこれ」
「あの隊長殿にギルドマスターからだ」
 ギルドから署に戻ろうとした俺を呼び止めたのは半田で、押し付けられたのは封筒。雑に扱うからちょっとクチャッとしちゃってるじゃねえか。……あれ。
「お前、これ開けた?」
 わからないように戻されてはいるが、糊が剥がされた跡がある。
「開けたが」
 堂々とした答えに呆れる。
「ふん、あのマスターがわざわざ俺に渡して、わざわざお前を伝令に指名したんだぞ。……知っておけ、という意味だ」
 最後だけ、潜められた声に少しだけ緊張する。半田は俺に異常なくらい絡んでくることを除けば仕事はできる。そのコイツがいうなら、相応の意味がある。
「じゃあな」
「あ、おい」
 言いたいことだけ言ってさっさと立ち去る背をせめて睨んでおいた。
 
「やあ、おかえり」
 戻った執務室は静かだった。他の隊員達は出払っていて誰もいなくて、ドラルクだけが隊長席で何かのファイルを読んでいる。
「おう」
 隊長机の上に、預かった封筒を置く。視線だけがそれを見た。
「ギルドマスターから。……半田が持ってきた」
……へぇ」
 俺の届けた封筒は、よくわからないファイルより興味を引けたらしい。細長い指が封筒を開ける。
 当然、開けられた形跡には気づいているだろうに、何も言わない。お見通しなのか、それともいつものことなのか。
 封筒の中には紙切れ一枚と、数行の走り書き。一瞥した金の瞳がキロリと俺を見た。
 無言の、読んだか、という確認に頷く。
 ただのギルドの行事の言伝のようにみせかけた文。しかし符丁を知るものなら読み取れる一種の暗号だ。そしてその内容は……種族排外主義組織による吸対への妨害計画の警告だった。

 背もたれに重さを受けて、隊長の椅子がギィと軋む。
「よろしい。――さて、我が隊の最新備品である不死の王ネヴァー・ダイズ、ロナルドくん。吸対の仕事とは?」
「『市民』を守ること。人間も、吸血鬼も」
「では、使命は」
「種族の共存、融和の礎」
 吸対の仕事は吸血鬼の殲滅ではない。吸血鬼の被害から一般市民を守り、同時に市民として暮らす高等吸血鬼に対しても安全を保証し守ること。……吸対預かりの備品になってから、あらゆる方向から何度も言い聞かされている。
 今回の排外主義組織による計画は、吸対の作戦行動を『市民』という立場を利用して妨害し、被害の拡大を狙うものだった。吸対と吸血鬼への悪感情を煽るために、他人を犠牲にする策。
 そんな物を知らされてもダンピールは笑っている。新作ゲームの発売日みたいに。
「あーあ、今回も難易度ハードだな。なにしろ『市民』の皆様は平等に守らねばならない」
 妨害してくる排外主義者であろうと、守る対象だということ。
 立派な志のように聞こえるが、こいつにとっては。
「まあ、難易度は高い方が攻略しがいがあるからな」
 縛りプレイの条件のひとつでしかない。

 金色の瞳が光る。心底楽しそうに、好戦的に。
 ――俺の、一番苦手な色。
 きれいだとも確かに思うのに、心臓が締めつけられる。泣きそうになるようなおかしな切なさ。
 知らない感情で自分がぐちゃぐちゃになりそうで、だから、苦手だ。……苦手、なんだ。

 俺の苦しさなんか気づきもしないダンピールは、悪役みたいなツラでゲーム開始を宣言した。
「さあ、作戦会議といこう」