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保科
2025-10-15 00:31:46
4364文字
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スタレ
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頼られるひとの条件
現パロ アグサフェ サフェル高校生アグライア社会人くらいのイメージ
かつての記憶に引き摺られて人間らしい感情任せの選択を忌避したりちょっと表情乏しかったりしてリハビリ中のアグライアさん概念
「私では、貴女にはまだ不足でしょうか」
「
……
世の中に
あんた
アグライア
以上のスペックを要求する物好きがいるなら、そういうあんたはどーなのって言ってみたいものだけど
――
」また妙なことを言いだした、と、あたしはリビングのソファーの背もたれに委ねきっていた背筋を正す。
「何の話?ライア」
「言葉通りの意味で。
……
私は、やはり頼りないですか、セファリア」
何か買って来てほしいものはあるが、別になにも。そんななんてことないやりとりに続くには、あまりにも予想外の会話だった。
「頼
――
頼りない?」何を言っているんだ、と、あたしの声も素っ頓狂に外れ調子だ。
「あたしの現状とか何もかもあんたにおんぶに抱っこじゃん情けなくなる位。
……
え、また目が見えなくなったってんなら早く言ってくれないと困るんだけど」
生活の基盤の提供、生活費の支払い、学費の支払いも
――
あらゆる援助がこの女の手によって行われているあたしの現状は、未成年という身分を鑑みたとてあまりにも情けないものだ。
つい口をついた疑問に、アグライアは至って冷静に首を振る。
「いえ、私の眼は健常です
――
貴女の焦り顔も余す所なく見えていますよ」
投げかけられた客観的な言葉に、そりゃそうだと冷静になる。浮かせた腰を戻すようにソファーに座り直せば、正面のアグライアの視線が気まずそうに逸れる。
「唐突過ぎましたね。
……
以前から、思ってはいたのです。貴女に対し、金銭面の援助は出来ても、それ以外で頼って貰えた覚えがなく。
……
私は、まだ、貴女に並び立つに至らないのかと
……
」
「
………
」
アグライア以上のスペックを求めるやつの正体はアグライアだった、という至極当然のオチがついた。
なんとコメントすればいいのか
――
またややこしく考えすぎている、というのは分かった。けど。
頼ってない?あたしが?というか並び立つってなんだ
――
詳細不明な単語が頻出するのに、思わず苦笑いが浮かぶ。
アグライアの悪い癖だけど、一人で考えすぎると妙な方に思考を進める所がある。服とかのデザインであれば可愛いものだけど、対象が人や事象となると、正す人がいない場合、最終的にアグライアが頭を抱えることになる。たぶん今回もそうだろう。
「
……
そんな思い詰めなくたって、頼ってるってば」それを止められればいいと思いつつ、記憶を辿る。「この前だって、帰りに人参お願いしたじゃん」パッと思い出した、夕飯の食材の買い忘れを、帰宅する彼女に頼んだ件を持ち出す。
しかし、それでは納得がいかないようで。
「それは、あくまで貴女が遂行する作業に都合がよかっただけ。頼られた、というより、利用されたが正しいでしょう」
「はー。面倒だなあ
……
」
淡々と論破された。厳しい判定に辟易する。他にもいくつか思いつく件はあるものの、この分だと全部はねのけられそうだ。逆に、何なら頼ったってことになるんだか。
ため息をつく。本当に、何をそんなに気にしているんだろう。
――
そもそも。気にする必要が、あるのか。
「
……
てかさ、あんた基準であたしが頼らないことで不都合あんの?」
頼らないというのは、迷惑をかけていなくてむしろ喜ばしいものじゃないのか。目的の読めなさに、あたしが投げかけた指摘に対し、
「それは、不都合は
――
」口を噤んだアグライアが、珍しく狼狽えたように瞬く。
「不都合は
……
ありませんが。ただ」
「何」
煮えきらない言葉に、強い口調で詰めれば、アグライアの視線がゆるゆると下を向く。次に口を開くまでの小さな間には覚えがある
――
何か、無難な言い換えを探す時のものだ。
「
……
そうですね。すみません、不要なことを聞いてしまいました」
「
――
ちょ、待った待った待ってライア」
一方的に会話を打ち切ると。そのまま、静かに別室へ向かおうとする彼女の手を慌てて掴む。
ぱちりと目が合うのは、すでにいつも通りのしらを切る彼女の顔だ
――
そうやって、ここまでのやり取り全てをなかったことにしようとしている態度が、無性に腹に来た。
「何でしょうか」
「何でしょう、じゃないっての。
何すまし顔で逃げようとしてんの、ここまで話しておいて『何でもないです』は流石に冗談でも看過し難いってば」
「
……
いえ、言う通りだと思いましたので。不都合はありません。元より、早くから自立を目指す貴女に聞くことではありませんでした」
聞き分けのない子供に言い聞かせるように。
――
絶対、自分が一番納得できてないくせに、そうやってあたしの前だと大人として振る舞おうとする、その余裕が、あたしは。
「
――
そういうあんたこそ、もうちょっと駄々こねてよやり辛いなぁ!」
「
……
何を」
「不都合以外には何かあるのなんか丸わかりだっての。ならそーゆーのを言ってくれないと、あたしだってどうしようもないでしょ。
あんたから良い始めたことなのに言い逃げとか許せるわけないし」
かつて逃げた身だからこそ、もう、離しはしないと決めたのだ。身勝手な言葉にどの口が、とも言われる覚悟に対し、しかしアグライアは困惑したようにこちらを見るばかりだ。
「
……………
」
「それにそうやって、」煮えきらない態度に、あたしは、その言葉を言うか言わないか逡巡して
――
ムカッ腹のまま、ええい、と口にする。
「
――
そうやって、自分事になると口を閉じるやつのことなんか、頼れるわけなくない?」
「
―――
」
見開かれた目や、引き結ばれた口から、露骨にショックを受けたのが分かって軽く怯む。その、普段浮かべない表情が、なんとも
――
とか思わず考えかけた思考を遮るような、
「
……
そのように」
「え、」
「そのように
……
思っていたのですか」
あまりに辿々しい声に。勢いで言い過ぎたと即座に反省した
――
心臓がぎゅっと縮まるような心地に、誤魔化すように、別に思っていなかったけどさ、と弁明しようとして。
けれど、
――
あながちこの場限りの適当でもないな、と、あたしは思い直す。
前世
オンパロス
の時は失われていた人間性を取り戻した彼女は、しばしば自分の我儘を、『人間性を失っていた彼女なら選びようのない選択肢』を、外すそぶりを見せることがあった。
まあそれも彼女がそうしたいなら、と思って、特に言うこともなかったけど
――
案外鬱憤が溜まってたらしい。
「
……
まあ、ちょっとだけ?」
だから、代わりに茶化すように笑えば。
アグライアは、途方に暮れたように、すみません
……
、と一言呟いた。
「言いたくないわけではなく、適切な言葉が見つからないのです。貴女の言う通り、不都合がないのにも関わらず、求める心の真意。
これ以上、貴女にどうこの気持ちを伝えればいいのか
……
見当もつかず」
「ならさ、
……
それこそあたしを頼っても、いいんじゃないの。ほら、あれ、そーゆー言語化は多分、舌先三寸世渡り上手なサフェル氏の方が、あんたよりも得意でしょ。言ってくれたら、手伝うのに」
「
…………
」
アグライアが息を呑む。
励ませれば、という反射で出た考えずの言葉だったけれど、よくよく思えば、アグライアがあたしを頼るなんて想像もつかないことだった。口にして、とんだ大言壮語だったのではないかと思わず背筋が冷たくなる
――
それを取りなすように、あたしが一方的に握っていた手を、アグライアが握り直す。あたしよりも少しだけ冷たい、彼女の手だ。
「
……
そう、ですね。私こそ、貴女を頼って、よかった。ええ、その通りです。
実践もせず、とんだ世迷い言でした
……
」
握られた手から伝わる信頼。吐いた言葉は戻せない。
……
迷いは一瞬、腹をくくって不敵に笑う。
「
……
ま、そういうこと。
で?話してくれんの?」
「
……
そうですね。もし、貴女が、私の心をすくい上げてくださるのならば。是非」
そうして。
ことここに至ってようやっと口を開いたアグライアが、なんども口ごもりながら言うには、曰く、
「
……
かつてを夢に見る度、あの頃、金織の店の居住区で貴女が私の名を呼んでくれたことを思い出すのです。
「些細なことから、不躾なほどの我儘まで、どれも思わず叱ってしまいたくなるような無茶ばかり呼びつけて、お願い、と。
……
ふふ。つい、思い出しては笑みを浮かべてしまいますね。
「ええ、今の貴女が、かつて、オンパロスにて出逢った貴女と全く同じではない、ということは分かっているつもりです
――
私とて、完全に同一の存在ではあひません。
「けれど、今の貴女からは
……
かつてのような無遠慮さが、いささか欠けているように思えます。それは、私と離れた時間に積み重ねた、あなたの成長の証であるのでしょう。もしくは、オンパロスよりも短い人としての寿命がもたらした成長でもあるのでしょう。
ですが、どうにもそれが私には、距離を感じるようでならないのです
――
」
「
………………………
」
「セファリア。
……
その、このような心持ち、なのですが」
聴き終えて、あたしは顔を抑えて沈黙する。どうもこうも。なにも。
「
……
なに、ええと
……
」
「
……
何か、分かりますでしょうか」
「頼るってか、それ
――
」それ、は。
言うのか。あたしが。
「
………………
ライア」
「はい、何でしょう」
きっと、苦汁を舐めたような顔をしているあたしを、眼差しで案じるアグライア。いやあんたのせいだよ、と内心で毒づきつつも、頼まれた以上は答えを告げなければならない。深呼吸を一つ、
――
一息に。
「あんたさ、あたしに甘えられたいの
……
?」
「
―――――
」
不意を突かれたように目を丸くしたアグライアが、即座に真剣な表情で考え出す。
「
…………………………
成程」
「いや成る程じゃなくて」
「非常にしっくりきました。行為としては頼ることで満たされるけれど、本質としては、貴女に甘えられることを求めていた
……
。
流石はセファリア、ことこの場において、貴女の方が人の心情を読み解く力に長けていますね」
「それは嬉しいけどそうじゃなくて」
「
…………
、ここまでの不躾なやりとりについて、どうか忘れていただくことは」
「出来ると思う?」
「
…………
そこを、どうにか
……
」
「
――
やだ。
絶ェッ対、忘れてなんかやんない」
べ、と、舌を出してやれば、すっかり困った顔のアグライアが、「ああ
……
」と、妙に嬉しそうにため息をつくものだから。
――
どうやら、そういうことのようで
。
考えてみれば、確かに、かつてのように彼女に我儘を言う機会は減っていた。あたし自身が老成したのもあるし、何よりこれ以上迷惑をかけられないう自制心もきっとあった。
けれど、アグライアがそんな遠慮を求めていないとして。
じゃあこの後あたしはどうすればいいのかって、そんなの、
………
そんなの。
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