sidori
2025-10-12 22:55:30
11417文字
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人妻定食十月号『督白』

モブ視点で高銀の坂田に敗北するNTRマガジン十月号。

jilの『涙の雫は妖精の一杯ドリンクセット~心に沁みるハニージュレを隠し味に~』




白夜叉を抱くと、戦場で加護がある。
そんな迷信が、仲間内で囁かれているらしい。
まったくもって下衆でーー迷惑な話だ。
だってそうだろう。俺は、そんなこと関係なくーー白夜叉を、坂田銀時のことが、好きなのだ。
加護とか、そんな下心ではなく。
本当に心の底から、惚れている。
ガチラブ1000パーセントなのだ。
「なので付き合ってください!」
そう言って、俺は坂田さんに土下座した。
晴れやかな秋空の下で、遠くで雀が鳴いている。どこからか金木犀の香りも通っていて、まさに告白日和だった。
「心よりお慕い申しております!どうか、健全なお付き合いをさせてください!」
「けーー」
そんな俺を前に戸惑いながら、銀時さんは戸惑ったように視線を迷わせる。
「健全......て、どこまで?」
「ぶ、文通はいかがでしょうか!」
「え......赤裸々な心の内を自分で文字に書いて、それを渡して読ませるってこと?お前、それはちょっとふしだらだろ......!」
「なっ......では、交換日記は......!」
「はあ!?そんな互いの毎日のプライベートを見せ合うなんて、ハレンチ過ぎるだろうが......!」
銀時さんは顔を真っ赤に染めて「ばかっ」と、恥ずかしそうに俺をなじる。
ああ。
可愛い。可憐だ。大好き。
しかし困った。どうやら、銀時さんは俺が想像していたよりもずっと奥ゆかしいお人だったらしい。
こんな人が、有象無象の下衆たちの妄想の的になっていたなんて、それ知ったときの心痛はどれほどだったのだろうか。
俺は目じわりが熱くなるのを抑える。
この人を護りたいという気持ちが、胸の奥から湧き上がってきた。この人の貞操と心を、なんとかしても守らなくてはいけない。
「では、自作の歌を送って愛を伝えます」
「不良だよ、そんなの......」
「白雲の たなびくたびに 思ふかな 君がみ髪の 匂ひに酔ひにける(訳:白い雲がたなびくたびに思い出します。あなたの髪の香りに酔ってしまったあの夜を)」
「和歌の方なんだ」
「はい」
「でも、内容がちょっとキモい。なんで俺の髪の匂い知ってんの?」
「妄想です」
「キモイよ......」
そう言って、銀時さんの顔がどんどん赤くなっていく。ああ、なんてウブなんだ。赤ちゃんかな?
「では、銀時さんの思う健全なお付き合いってなんですか」
「え!え......えっと」
聞かれるとは思っていなかったのだろう。驚いたように目を見開いたあと、銀時さんがもじもじしながら、頬に手をあてる。指先で横髪をいじる姿が、あどけない。
可愛い。最高。永久保存したい。
刀を握っていないときの銀時さんは、こんなにも愛らしいのだ。
「たとえば、俺が昼寝してるときに......起きたら、いつの間にか羽織を毛布がわりにかけてくれてたりとか。俺が酔いつぶれたときに、寝室まで運んでくれて、服とかも着替えさせたりしてくれてたりとか。あと、俺が食べたいな〜って思っていたお菓子が、起きたら枕元に包まれてあったりとか?」
「銀時さん、それは彼氏ではなく妖精さんの仕業です」
「で、でもあいつ......妖精って面じゃないし」
「待ってください。あいつって誰ですか銀時!実在しているんですか!そんな妖精さんが!」
思わず問い詰めるような口調になってしまうが、はっと我に戻り咳払いをする。落ち着いたように見せているが、正直足はガクガクだ。
信じたくないという気持ちが、心臓の鼓動を早める。
「つまり、銀時さんには......もう妖精さんがいるんですね」
「妖精さんじゃなくて、彼氏だけど......」
ーー失恋。
その二文字が俺の背中に重くのしかかった。
「ああ......」
呻きながら地面に膝をつき、深くうなだれる。
「そんな......こんなウブな銀時さんが......もう、他の妖精さんの手に落ちていたなんて」
「勘違いすんなよ!俺があいつのこと好きになったんじゃなくて、あいつが俺のこと好きになったの!」
「じゃあ、銀時さんはその妖精さんのことが好きじゃないんですか?」
「す......す、す、すっ、うっ!ハレンチなこと言わせんなよ!」
「好きって言葉も言えないくらいの恥じらい!?銀時さん、そんなにつつましくて、お付き合いできてますか?妖精さんとデートとかできてますか?」
「デート!?」
「手を繋いだり、見つめあったりできるんですか」
「そんな濃厚接触ダメに決まってんだろうが」
「じゃあ、どんなデートプランがあるって言うんですか?」
「えっと、朝の森のなかを散歩しながらどんぐりを辿ったり......蜂蜜を探したりとか。海辺で綺麗な石とか貝殻拾ったり、小さな蟹採って焼いて食べたりとか」
「やっぱり妖精さんじゃないですか!」
「違うし!彼氏だし!」
「もう!そんなに清らかで......接吻とかどうするんですか?」
「それくらい俺だってするし!」
「そんな、銀時さんが粘膜接触を!」
「か、間接だけどな。花の蜜を回し吸いしたりとか」
「あれ?やっぱり妖精さんだ!?」
ああ、なんてことだ。気がついてしまった。
銀時さん自身が、妖精さんだっのだ。
夜叉でも鬼なんかでもなく、清らかな妖精さんだったのだ。
銀時さんが妖精さんなのだから、その彼氏さんが妖精さんなのは自然の摂理だった。
それに比べて俺は、俺はーー。
「人間は......なんて、不浄で愚かなんだ」
握拳で地面を叩く。
なにが健全なお付き合いだ。こんな汚れた身で銀時さんとお付き合いしようだなんて考えることが、ふしだらだったんだ。
まだ、間に合うだろうか。
俺も今からなれるだろうか。
銀時さんのように清らからな妖精さんにーー。
そこまで考えて、首を振る。
この世界は残酷だ。銀時さんとその彼氏さんが清らかな妖精さんであり続けるためには、誰かが守らなくてはいけない。
この手をーーこの身をーー血と不誠実で汚してでも、だ。
そのためにーーそのためならば、俺は妖精さんになれなくてもいい。
「俺はーー銀時さんの幸せのために、汚れます」
きっとそれは、過酷で報われない道だろう。
いいんだ。それでもいいんだ。
ーー銀時さんのためなら、俺が鬼にでも夜叉にでもなってやる!
そう決意を新たにすると同時に、背後から物音がした。
「あ、妖精さんだ」
「誰が妖精さんだ」
そこにいたのは、鬼兵隊総督の高杉さんだった。
「おい銀時。青二才をからかってんじゃねェよ」
「えー、じゃれてただけだろ?」
銀時さんはさっきまでといたいけな表情をコロッと変えて、いたずらっ子のように笑いながら、高杉さんに近寄る。するりとその腕に自分の腕を絡めると、甘えるように肩に頭を傾けた。
「俺嘘ついてなくない?可愛かったのになぁ、あの頃のお前のふわふわデートプラン」
「捏造してんじゃねェよ。テメェが蜂蜜が食べてみたいってうるさいから、仕方なくついて行ってやったんだろうが。おまけにそのあとスズメバチの巣を落として、大変なことになったの忘れたのか」
「覚えてない」
「ったく」
呆れたように、高杉さんが銀時さんの額を小突く。
「銀時さん......!まさか、まさか銀時さんの妖精さんって......!」
俺はきっと、驚愕に満ちた顔をしていただろう。体長3メートルの熊が目の前に現れたって、ここまで驚くことはないはずだ。
高杉さんはちらりと俺を見て、
「妖精さんじゃねェ。旦那だ」
と、だけ答えた。
それに、銀時さんが照れ隠しのように口をとがらせる。
「は?まだ結婚してねーし」
「しただろ。この間」
「はあ!?あれは違うし!ごっこだし!結婚ごっこ!」
「いいから行くぞ。ヅラが呼んでんだよ」
「ちょっと聞いてる!亭主関白かコノヤロウ!チューしてやったからって、いい気になんなよ!」
「もっとスゲェこともしたもんなァ」
「う、うるさい!スケベ野郎!」
「がふっ」
俺は溶けかけのアメーバーのように、地に伏すしかなかった。全身から力とーー魂すら抜けてしまったような心地だった。
「あ、あのさ」
銀時さんが慌てたように俺を振り返る。
「そういうわけで、アンタの思いは受け取れない 。......でも、等身大の俺を見てくれて、ありがとな」
そう微笑んでからーー銀時さんと高杉さんは俺を残して去っていた。
静寂が訪れて、俺はゴロリと仰向けになる。
青い空に、白い雲が棚引いている。
自然と喉の奥から、言葉があふれた。

行きし君 雲路たどれば 空遠み
鬼や夜叉にも なりて守らむ
(訳: 去って行ったあなたを、雲の道をたどるように追いかければ、空ははるかに遠い。けれども、たとえ鬼や夜叉になってでも、私はあなたを守ってみせよう)

その後、俺が攘夷四天王の名と働きには遠く及ばないものの、彼のために我武者羅に戦い続け、いつしか過激派攘夷三十二将軍と呼ばれるに至ったことは、また違う話である。