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sidori
2025-10-12 22:55:30
11417文字
Public
人妻定食十月号『督白』
モブ視点で高銀の坂田に敗北するNTRマガジン十月号。
1
2
3
しどりの『胸の奥で初恋香る僕だけのあなた焼き~あの日散った理想をピリ辛に仕立てて~』
僕は軽い足取りで廊下に踏み出した。
手には桶。厨で湯を少し分けてもらい、ぬるめた井戸の水をたっぷりと張っているが、さして重さは感じない。それより僕の背負った使命の方が何十倍も重大だからだ。
待っている先の部屋にいるのは、白夜叉──銀時さん。襖を開ける前に周囲を見回し、誰も見ていない事を確認してから素早く中へと滑り込む。象徴である白い羽織を脱いだ彼は、「おう、悪ィな」と僕を見て軽く頷いた。
しゅるりと帯を解き、彼がさらけ出した上半身は殆ど包帯に覆われている。僕が桶を床に置き、膝をつくと彼はのったりとした動きで僕に背を向けた。僕は少し緊張しながら慎重にその包帯を解きにかかる。
現れた肌には大きな傷がある。まだ新しい。先日の戦いで味方を庇い、ばっさりと斬られた背中を縦に裂くような大きな傷。
何重にもして押し当てられていた綿紗にはまだ血の色の混じった膿が染みている。
「背中、拭きますね」
「頼む」
僕はぬるま湯で絞った手拭いでそっと汚れをなぞった。
痛くない筈はない。普通の人間なら、ただこうして座っているだけでも辛いだろう。
しかし彼は布を触れさせた瞬間に僅かに肩を跳ねさせ、喉の奥で殆ど声のない、溜息のような呻き声を上げた以外には一切動じず、僕の手に身を任せている。
物凄い忍耐力だ、と思う。
そもそも彼は今日も剣を振るっていた。小規模な出陣ではあったが、幕軍側が偵察として雇ったらしい天人の偵察部隊と交戦したのだ。彼は先頭に立って次から次にその切っ先で敵を屠っていた。多分、彼が最初から怪我をしているなんて事には、誰も気が付かなかったと思う。その傷がそこにある事を最初から知っていた僕以外は。
彼はあっさりと敵部隊を殲滅して揚々と拠点へ帰還した。流石は"白夜叉"と、部隊の皆は口々に褒め称えたけれど──
……
「っ
……
」
消毒の為に焼酎を吹きかけ、軟膏を塗り込む瞬間には流石に彼も再び声を漏らした。
「わっ、す、すみません。痛かったですか」
痛いに決まっているのだ。
分かっているがそう言うしかない僕は慌てて彼の肌から一度手を離す。彼は首を振ったが、背後の僕から伺う横顔に滲む脂汗は隠しようがない。奥歯を噛み締める力の強さを、”細い”首に浮き上がった筋肉の繊維の形が証明していた。
──そうなのだ。
彼は紛れもなく、僕らと同じ、人間である。
僕がその事を知ったのは、本当にたまたま、偶然だった。いや、もしかしたら、それこそが本当の神のお導きというものだったのかもしれないとも思う。
その日までの僕は、他の皆と同じだった。他の皆と同じように、白夜叉の名を妄信していた。戦場を駆ける白い鬼。その刀の一振りで敵兵は万と倒れ、その咆哮は天さえ震わせて空飛ぶ鳥を落とす程──。
彼は恐れられていた。同時に崇められてもいた。天人という異形の存在と、奴らが持ち込んで来た未知の兵器を前にして圧倒的劣勢である僕ら攘夷勢力側の軍の中で、怯む事なく黒炎の中へも飛び込み、戦果を挙げ続ける彼の姿は希望に見えた。この人が居れば、この人の背中に続けば。彼自身の容姿が、普通とは異なっていた事もその幻想を膨らませる大きな理由だった。
けれど、実際戦場を駆けるその白い姿がどんなに頼もしく神々しく見えていようとも、彼自身はただの、斬られれば傷付き、その痛みに呻く普通の人間
……
傷を受けてもたちどころに塞がるなんて事も、ましてや不死身だなんて事もなく、それどころか、まだ大人になりきってもいないほんの少年だという事に、僕が気付く事が出来たのは、その日、たまたまそこに立っていたからだ。
廊下。
その時拠点にしていた荒寺の、ぼうぼうに草が生い茂った中庭に面した縁側廊下に僕は立っていた。
拠点の中は全体的に騒がしかった。部隊の大部分が戦場から帰還したばかりで、大広間では救護班が怪我人の手当に追われ、前庭では補給班を中心にして装備の確認と点検が行われていた。無事に帰って来た者は別の広間で宴会の準備を始めていて、並べる料理の為に厨には大勢が出たり入ったりしていた。
僕の手は洗濯物が山となった盥を抱えていた。洗濯物当番というのは普段は順番が決まっているのだが、その日は僕の当番という訳ではなかった。ただ、勝ち戦でも当然怪我人は出る訳で、どうやら手が空いているのが僕しかいなさそうだったから、なんとなく他の班の分まで引き受けて来たのだった。
立ち止まっていたのは、花の香りに誘われたからだ。中庭の隅に金木犀が咲いていた。茂みの向こうだ。ススキの穂が微かに揺れた時、ふわりと甘い香りが鼻を擽って、僕はその匂いの元を探して足を止め、見つけた緑の中で一際鮮やかな橙色の塊をぼんやりと眺めていた。
声を掛けられたのはその時だった。
「む、貴様、銀時の隊の者か?」
「えっ、
……
あ、は、はい!すみません!」
僕は慌てて返事をした。
背後の襖が音もたてずに開いていて、顔を出して僕を見ていたのは桂さんだった。"白夜叉"と並ぶ攘夷四天王と称される内の一人。つまり僕らの頂く将の一人でもあって、僕は咄嗟に、怠けていた事を叱られるのかと思った。慌てて盥を抱え直して頭を下げ、その場を立ち去ろうとする僕を、しかし桂さんは叱るのとは別の声音で呼び止めた。
「丁度良い、少し頼まれてくれんか」
と。
結論から言うと、それは僕に、救護班のところから傷を縫合する道具を借りて来てくれないか、という頼みだった。それも出来る限り人目に付かないように、なるべく急いで、こっそりと。
そしてそれは、その部屋の奥で待っている銀時さんの為だった。言われるままに道具を手に入れ、戻って来た僕は部屋の中に招じ入れられてびっくりした。
確かに僕は銀時さんの指揮下にある部隊に編成されている。勿論下っ端も下っ端であるので、直接言葉を交わす機会というのはそうそうないのだが、それでも近くには立つし、少なくとも、僕の目から見てその日も銀時さんはいつも通りだった。強く美しい僕らの白い鬼。浮世離れした佇まい。世を睥睨するような視線、泰然とした物腰。彼の手によって閃く白刃は敵を切り裂き、彼の白い翼の翻る影に護られた僕らに敵の刃は届かない。僕らは彼の背に導かれるように走り、彼の背越しに見上げる戦場の曇天は何故か、晴天より眩く、まるで僕らの道行を祝福してくれるようでさえあって。
しかし部屋の中に居た彼は、帰り道ですらその白い雰囲気を失わず、凛と涼し気だった後ろ姿からは一転して、板の間に敷かれた薄い布団の上に仰向けに横たえられ、赤い傷跡を晒してぜいぜいと苦し気に喘いでいた。
「少し血を流し過ぎたようでな、今夜は熱を出すかもしれない。だが俺はこの後今回の後始末と次の作戦の打ち合わせの為に出かけなければならん。悪いが、こやつの様子を見てやっててくれんか」
桂さんは、僕が持ってきた道具で銀時さんの開いた傷を縫い合わせながらそう言った。
その間、銀時さんは朦朧とした様子で何かを掴もうと宙に手を伸ばしては、痛みに呻き声を上げてその手をがくりと落とし、割れた爪で薄い布団を引っ掻いて藻掻いていた。
その様子が余りに衝撃的で──哀れで。僕は桂さんの頼みを一も二もなく引き受けながら、思わず銀時さんの手を取って何度も握り締めていた。
彼が、酷く痩せている事に気付いたのはその時なのだ。
布団の上で痛みに震える体はまだ子供だった。大人の男とは決して言えない、育ちきっていない事が明らかな薄い体。栄養が足りないのだろう。手足はのびやかでもやはりどこか華奢さを感じさせ、肩や胸についたしなやかな筋肉より、浮いたあばらに向かって絶対的に視線が奪われる。
愕然とした。
僕らはこの少年に、なんという重荷を背負わせているのだろう。
……
それでも、僕はまだ彼を"白夜叉"と呼んでいる。むしろこの気付きがあったからこそ、と言うべきだろうか。
「どうですか?キツすぎないですか?」
「
……
ん」
彼の傷に新しい布を当て、包帯で覆って行きながら僕は思い出している。
あの時、熱が下がってぼんやりと目を開けた彼は、側についているのが僕だと分かって少し驚いたようだった。桂さんに頼まれたというと、困ったように笑って、照れたように頬を掻きながら言った。
「あー、その、みっともねーとこ見せちまったな」
そして僕が首を振ると、まるで子供がいたずらの秘密を共有する時のような顔をして、
「
…
他の奴らには内緒、な?」
と、一本だけ立てた人差し指を唇に当て、仄かに笑ったのだ。
もしかしたら、僕が本当の意味で彼を"白夜叉"として愛するようになったのはこの時なのかもしれない。
布団から起き上がり、その部屋を出ると彼は全くいつも通りの彼としてふるまっていた。彼が大怪我を負っている事なんて誰も気が付かなかった。その部屋に招き入れられる前の僕と同じように。
僕は素直に彼を尊敬した。彼は分かっているのだ。その姿に、その強さに、その剣に。何百、何千という兵たちが希望を託している事を。その覚悟をなんて尊いんだろうと思った。誰かの命を託される覚悟。希望を背負う覚悟。それをいくつも、一体どれだけの重圧だろうか。
それで分かった。やっと分かったんだ。
"白夜叉"とは、その為に彼が作り出した偶像であるのだと。ただの少年の背中では覆いきれない沢山の隊士達の希望を取りこぼさずに背負う為に纏った、真っ白で美しい虚像。成程それは恐ろしい筈だ。それは美しい筈だ。
そうあろうとしている彼の魂こそを、僕はなんて綺麗なのだろうと感じた。
だから僕は彼に──"白夜叉"の為に尽くそうと決めたのだ。
それから僕はこうして、もう何度か彼がその白い衣を脱ぎ、傷を癒そうとしている時その手伝いをしている。一度見てしまっているので彼も僕相手に取り繕う必要はないと判断したのか、戦場から帰って来るとこっそりと呼ばれるようになった。
僕はこの役目を誇らしく感じている。その真実を垣間見てしまった事は偶然であったが、まるで天啓を得たような心地だ。使命なのだと思う。これが、僕の。この戦いに参加している意味。
急にやってきて、好き勝手に振舞う異邦人たちからこの星を、人々を守る為の戦い。その守護神たる白夜叉のしもべ。
その役目に僕は選ばれたんだ。僕はそれが嬉しい。秘密を共有することで、彼という美しい生き物──白夜叉という偉大な存在の一部となれたかのようで。
(僕は貴方のものです、銀時さん。白夜叉様。貴方の秘密は僕が必ず守りますからね)
彼の肌に触れる度にそんな事を思いながら、
「おわりましたよ」
と、すっかり綺麗に巻き終えた包帯の結び目から手を離し声をかけると、彼は振り向いてはにかむ。
「ん、ありがとな」
その度にドキリとするのだ。そんな無防備な顔、僕以外に見せたら駄目です。
それから暫く経った、ある日の事だった。
その日も出陣があったが、最近は当然のようにかかっていた声が掛からないまま夜になり、僕は迷った末にそろりと彼の部屋へ向かった。
何事もないならそれでいい。だけどもしかしたらまた、あの夜のように彼は自分で動けなくなっているのかもしれない。もしまた桂さんが居て、その場から誰かを呼ぶのだとしたら──
……
それが僕以外になるのかもしれないと思うと、どうしても行かずにはいられない気持ちだった。
彼の部屋は、いつも拠点の隅に割り当てられている。彼だけではなく、隊長格の人は皆そうだ。僕のような一般隊士は大体広い部屋に複数人で寝泊まりする事になるが、彼や桂さんは基本的に一人一部屋を使う。前はただ、隊長格と平の隊員で扱いが違うのは当然だろうとしか思っていなかったが、秘密を知った後では恐らく理由の大半はその為なのだろうと分かる。
彼の部屋へ近づくと、何か争う気配があった。彼と誰かが言い争っている。ガタンと襖が揺れた。僕はびくりと足を止め、息を詰める。
「だっ
……
っから!!なんでもねーっつってんだろ!!」
彼の声だった。
「何でもない訳ねーだろ。オラ、さっさと脱げ」
聞き慣れない男の声が応える。
「ちょっ、ばか、やめッ
……
~~~~!!」
彼が悲鳴を上げた。正確には、悲鳴を呑み込んだ息の音。その不自然な途切れ方でそうと分かった。彼はやはり怪我をしているのだろう。その傷に、相手の誰かは無遠慮に触れたらしい。
僕はカッと頭に血が上るのを感じた。悪趣味だ。彼が堪えようとしているものをわざわざ溢れさせようとするなんて。
一体誰なのだろう。彼の秘密を守るのは僕の役目なのに。秘密を目にするその場所は、僕の場所である筈なのに。
大事にされるべき白夜叉に、無遠慮に触れるなんて許せない。その口実で踏み込もうと、僕は廊下を大きく踏み出そうとした。
その時、相手の男が言った。
「俺にまで隠す意味ねーだろ、銀時」
僕はまた足を止める。
銀時、と彼を呼ぶ人は余りいない。それこそ僕に声を掛けてくれた桂さんか──もう一人。やはり四天王の一人で、最近ではその中で突出して"白夜叉"と対を成す武力であると認識されつつある"鬼兵隊"の総督、高杉晋助。
そういえば暫く別行動をしていたその部隊が、今朝方主力部隊が駐屯しているこの拠点に帰って来たと言って皆が騒がしくしていたのを思い出す。僕らの部隊はその帰還と入れ違うようにして出陣していたのだ。
ならば僕が意見できる相手ではない。声の主に思い当たって、僕は困惑した。
(でも
……
)
「っ、ちょ
……
やめ、クソ
……
」
ガタ、ガタ、と揺れる襖の向こうで、彼の上擦った声が相手の男を拒絶している。ぜいと切れた息が苦しそうで、僕は胸が締め付けられるような気持ちになった。
それなのに、相手の男はあろうことか笑い声をあげる。
「は、ざまあねェな銀時。ロクに抵抗もできねえじゃねえか」
「っ、ぅ゛、ぐ
……
っ、や、め
……
」
「なんでもねえならやめさせてみろよ。あァ?どうしたよ、ほら、銀時。できるだろ、てめェなら。なあ、痛ェんだろうが」
(もう聞いてられない
……
ッ)
今度こそ僕は彼の部屋の襖に飛びついた。
僕の彼(白夜叉)を、その秘密を暴こうとする存在を放っておくなんて出来ないと思った。彼を護るんだ。僕が。
僕の手が襖にかかるのと、彼が叫ぶのが今度は同時だった。
「い゛っ
……
痛ェに決まってんだろうがああああああ!!!!」
次の瞬間、僕の目の前に暴風が吹き荒れる。あともう少し僕が戸に近付いていれば、顔の表面が剥ぎ取られていたかもしれない。そんな圧を感じさせる強さで何かが後方へ吹き飛んでいく。
呆気に取られている僕の前には、彼が仁王立ちしていた。襖は消えていた。
そろりと振り返って視線を後方へ向けて行くと、庭に吹き飛んだ襖の戸と、その上に倒れ込んでいる──否、倒れ込みはしたのだろうが、既に立ち上がって戦闘態勢を取っている男が一人。
僕は何を言えば良いのか分からなかったが、言う必要もどうやらないようだった。庭の男を真っ直ぐに見下ろしている彼の視界に、戸のすぐ横で立ち尽くした僕の姿は映っていない。
彼は大声で男に向かって喚いた。
「何なのお前!!帰ってくるなり!!馬鹿じゃねェの?!?!つーかオメーの所為だろ高杉!!だってお前言ったら怒るじゃん!!だから言いたく!ないの!!」
男──やはりその男が高杉晋助らしい。僕は総督の顔をきちんと見るのはこれが初めてだった。──も大声で彼に言い返す。
「テメーが隠すからだろうが!毎ッ回毎ッ回いい加減にしろよ銀時!何度言わせんだ!!俺を!!その辺の有象無象と!!一緒にしてんじゃねェよ!!!」
言いながら、ぎろりと一瞬僕を睨んだ。僕は身を竦ませる。
そしてズカズカと彼の目の前まで戻って行くと、なんと脚を振り上げ、彼を蹴り飛ばしたのだ。僕はまたぽかんとその様子を見ているしかなかった。一体何が起こっているのか、全く理解できなかったからだ。
部屋の中の様子は、僕が立っているところからは角度的に伺えなかった。ただ彼が倒れ込み、どこかにぶつかったのだろう。ガタガタンとものすごい大きな音がして──
……
と、思えば、何故かすぐに静かになった。いや、それも正しくはない。何度か床を擦るような小さな音はした。声量が急に小さくなった所為か、どちらかがぼそぼそと呟いた声も聞き取れなかった。ただ、それから、ずび、と鼻を啜ったような音だけは妙にはっきりと聞こえた。多分彼が。
「
……
痛ェ
……
」
「
……
当たり前だろ、馬鹿」
「痛ェよ、高杉
……
」
「んじゃちったァ賢く立ち回るんだな」
「
……
んなこといったってよ
……
」
「
…
、なあ、銀時」
僕は
……
。
僕はいけない事だと思いながら、そろりと足を踏み出して、部屋の中を覗き込んだ。
床の上で彼らは重なりあっていた。仰向けになった彼の上に馬乗りになった男は、彼の両手を彼の顔の横に押さえつけるようにして、二人の顔は、殆ど互いの肩口に埋められていた。
男が溜息のような声でまた何かを言う。
彼が応えた。
二人は見つめ合って──その唇が重なって。
その光景は酷く生々しく、それでいて、どこまでも現実ではありえないような気もした。
僕は逃げ出した。
その直前のほんの一瞬、二人が僕に視線を向けたような気がしたが、現実だったかどうか僕には分からない。どちらにせよ──彼らの視線から僕の存在が一切締め出されていたのだとしても、緑色と赤色の冷たい眼光が本当に僕を捉えていたのだとしても──僕は彼らに拒絶されていた。その世界に僕の居場所はなく、僕はそうなって初めて、自分が勘違いをしていた事に気が付いた。
彼は、銀時さんは、"白夜叉"である事を望んでなんかいないんだ。
安心したように高杉さんに頬を摺りよせる姿が僕にそれを教えた。
彼が"白夜叉"で在るしかないのは、彼が頼れるような存在が他に居ないからでしかなく、多分僕は、その事に本当は気付いていた。気付いていて──でも、僕は彼の事が好きになってしまった。届かないなんて最初からわかり切っていた。だから。
だから──"白夜叉"という誰の物にもならない存在に彼を押し込めて。
気付かないフリをしていた気持ちが溢れ出て、僕はぽろぽろと泣いてしまった。どう出会っていれば、僕は間違わずに彼を好きになれたんだろう。もし僕がもっと強い男だったなら、彼は僕にも、痛いと泣いてくれただろうか。
ふと庭の向こうを見ると、金木犀はすっかり花を落とし、小さな橙色は地面の上で色を失い、とっくに散り散りになっていた。
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