ボツネタ

シナリオネタバレなし

メルロルif
「適切な時期を見極めて」




 真夏、日差しが人も土地も焼き付ける中。それは彼の体調が良くないからと受診した病院で、大掛かりな検査をされた事がキッカケだったように思う。様々な科を回った末に受け取ったのは、余命宣告。徐々に身体の肉が衰え、やがて全身が不随になる病。治療法は確立されておらず、投薬や点滴で誤魔化すしか無いらしい。

 トリステン・カロルは、立派な医者だ。故にその診断が間違いではないことを、患者である恋人よりも痛感することになる。どうしようもない事実、抗えない未来。

 恋人は、メルヘカ・タヴィリカは、あと一年と生きられない。


『泣かないで』


 ベッドに横たわりながら、恋人は片手を彼の頬に添えた。彼は涙を流していないのに、雫を拭うように動かす。この頃にはもう、彼は歩行すらも難しくなっていた。

 戦友たちには通達していない。彼らには惨すぎるからと、恋人が嫌がったからだ。不自然に連絡が途切れると怪しまれるので、長い旅行に出かけると言い訳をしている。だからこの狭い病室には、ほとんどの確率で彼と恋人しか居なかった。


『ボクは泣いてなど無いよ』


 無機質に吐いた言葉も、恋人は受け入れる。存在の根源から愛おしげに微笑み、病に蝕まれる身体で彼を抱きしめた。自覚できない程の動揺で震える彼を、優しく腕に包み込む。


『ね、ロルくん』


 何もかもを赦し、祝福する聖人に似た表情で恋人が問うた。額を合わせ、歌うような声色で彼に寄りかかる。その一言が、疑念が、欲望が、終わりへ向かう一歩だった。




『人間の食べ頃って、どんな瞬間だと思う?』