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トウメイ希望
2025-10-11 16:25:55
4541文字
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【ルデナナ】まめまめしいてまめ その2【ラブコメ】
ひたすらナナミの手にマメができる話その2。今回若干下ネタ入ってるのでご注意ください。
こちらも以前は某所で公開していたのですが、諸事情により非公開にしたため、こちらでひっそりと公開します。
1
2
また明日
ルデゥスがその針先をさっと火であぶると、ナナミはさっと手を引いた。
「ン? どうしタ?」
ルデゥスはきょとんとした目で問いかける。自らの手を胸に抱きしめながら、ナナミはおそるおそる尋ねた。
「
……
その針で何するの?」
「何って
……
マメをつぶすんだヨ」
「マメをつぶす
……
」
ナナミは呆然と復唱する。合いの手を入れるように、波の音が柔らかく重なった。この村はどこにいても波の音が聞こえる。
定期的にマメを見てもらうようになってから、ずいぶんたった。新生活の春を終え、弾けるような夏の暑さに耐えるうち、気づけば秋の虫が鳴き始め、朝晩は肌寒くなった。とはいえ、ルルココだけは常夏だが。
マメを診てもらうのはいつだって「ララ・サラーマ」のロビーだった。そしてこれもいつものことだが、トトタラの姿は無い。しょっちゅうフロントで姿を見るのに、手当の時だけはタイミングが合わない。不思議なこともあるものだと思う。
人気のない宿屋の中で、二人は探るように見つめ合った。
折れたのはルデゥスの方だった。ふっと微笑んで針を置くと、仕草だけで再び手を任せるように促した。
「
……
マ、無理につぶす必要はないけどナ。別に痛くはないんダロ?」
「うん。気になっちゃうだけで
……
」
ナナミはおずおずと手を重ねた。
差し出した手のひらには、ぷっくらと透明なマメがひとつ。
「ま、皮も大分硬いし、そう簡単に破けることはないカ
……
水が吸収されるまでの数日間は、そっとしておいたほうが良いゾ」
ルデゥスはそのマメをぷにぷにと押して、感触を確かめた。圧は感じるが、別に痛くは無い。ルデゥスはマメを確かめながらも、時折ちらりとナナミを見上げては、表情から痛みが無いか確認した。
ナナミは空いた手で額の汗を拭う。表情が隠れた。
「うぅん
……
そろそろ収穫が始まりそうなんだよね
……
そっとできなかったらどうなるの?」
「そうだナ。あくまでもオレの経験上だが、はじけトブ」
「はじけとぶ
……
」
ナナミは再び復唱した。ルデゥスは何でもないことのように続ける。
「アア。はじけとぶナ。
こういう水で浮いたマメは、覆っても固定できないんダ。むしろ蒸れて皮が柔らかくなってはじけトブ。ぶちっとはじけて水が飛んでいく感触が気持ち悪いんだよナァ
……
かといってむき出しにしておいても破ける時は破けるし、服につくと染みになるシ
……
破けなくても、変な圧の加え方すると、薄皮と真皮の隙間にもぐりこむみたいにしてどんどんデカくなったりスル。だったら上手に水を抜いておいた方が楽なんだが、まぁナナミが嫌なら無理にとハ」
「今すぐその針でマメをつぶしてください」
先輩の知恵には大人しく従うことにした。
ルデゥスは針を手に取ると、マメの端にぷツんと軽く挿した。すぐに清潔な布を押し当てると、布を外した時には、マメは消えていた。元あった部分には多少赤い痕があるが、言われなければマメがあることも気づかないほど。ごく表面の皮までしか刺さなかったらしく、痛みは一切なかった。
「え、もう終わったの?」
「アア。ただ、一応覆っておくカ。多少は痛むだろうからナ」
いくつかの季節を進めるうちに、ナナミの手は厚くなった。
最初のうちは、マメが破けるたびに、こよりのように絡まった薄皮を伸ばしてもらった。それが気づけば薄皮と呼べぬほどに厚くなり、ひも状になることはなくなった。ふたのように皮一枚でぺろんとはがれたそれを、再びぺたんと貼り付けて固定すれば終わりだ。もちろん多少は痛むが、以前よりも皮が厚くなった分、剥け方も浅い。最初の頃は血マメばかりだったのが、今や血の通うところまでは届かなくなった。
マメの一ヵ所だけを固定しながら、ルデゥスは何でもないことのように言った。
「アンタの手も、ずいぶん強くなったよナァ。皮も頑丈になったし、筋肉がついたんだナ。手が厚くなっタ」
その言葉が、ちくりと胸に刺さる。
日を追うごとに、ルデゥスの手との差が無くなっていく。白く細かった指は、日に灼け、節が目立つようになった。皮も手も、爪にさえも厚みが出て、徐々に牧場主らしい手になっていく。
何不自由ない実家を飛び出し、牧場を始めたことに後悔は無い。
けれど、ふとした瞬間に──例えば巫女姉妹の指先まで美しい舞に見惚れた時や、花屋の友人が、愛らしく絵本を抱きしめた時などに──気づかぬうちに手放してしまったものを、彼女らの中に見つける。
柔らかい手ではこの仕事は務まらない。この手は懸命に仕事に向き合った結果であって、恥じる必要は何もない。
そう自分に言い聞かせても、女らしさの抜けていく手を、どこかで恥じてしまう。
「
……
そうだね。これなら、自分で手当できそう。
ルデゥスも忙しいだろうし
……
」
あまり見られたくないし、という言葉は飲み込んだ。
ナナミの手が太くなっていくことなど、彼はきっと気にしていないのだろう。
ルデゥスはもともと、ナナミを手のかからない妹ぐらいにしか思っていない。気楽に触れてくるのも、何かと気にかけてくれるのも、事あるごとに「可愛い奴だナ」と笑うのも、結局、一人の女としてではなく、妹あつかいしているからなのだ。自分ばかりがいちいち動じるのにも、疲れてきていた。
この居心地のいい関係性を壊すつもりは無い。ただ、これ以上心が騒ぐことのないように、肌の接触を減らしたかった。
例えば、むやみに手を触らせるような。そう思うのだが。
「エンリョするなっテ。これぐらいどうってことないサ。
それに、案外利き手をやるのが難しいんダ。かえって変なところ刺したら困るダロ?
前も言ったが、大人しく甘えトケ」
「でも
……
」
「気にするナ。実際、オレは楽しいんダ。アンタの手の成長を見れるのガ」
そう言われると、単純に舞い上がってしまう自分がいる。
浮かれれば浮かれるほど、後で空しくなるのは分かっているのに。
「
……
ありがとう」
結局断り切れずに、笑顔を作った。
ルデゥスが怪訝そうな顔をする。肝心なことは何一つ伝わらないくせに、変なところで察しが良い。
「ナナミ、どうしタ? 疲れてるのカ?」
「
……
うん。そうかも」
「
……
そうカ」
心の奥を見透かされないように、ナナミは窓の外に視線を向けた。
その時、「いっ
……
!?」
腕全体にしびれるような感覚が走った。弾かれるようにルデゥスを見ると、親指の根元のあたりをぐりぐりと押している。
「ここ、効くだロ? 疲れている時はマッサージ、ダ。うで前はババサマのおすみつきだゼ。
それにしてもアンタ、手だけなのに、ズイブンこってるナ? これはほぐし甲斐がありそうダ
……
」
──ルデゥスのヤツ、案外昔はイタズラっ子でナ。いろいろやらかしたりするからゲンコツもやったっけなア。
どこか楽しそうなルデゥスを見返しながら、ナナミは、ふとザハゥの言葉を思い出していた。
※ ※ ※
宿の前を通りがかった瞬間、イゥカは「ウワ」と眉を寄せた。
「なにあのオーラ。昼間っから目ざわりネ」
その隣で、シゥカもおっとりと眉をひそめる。
「
……
ハレンチ
……
」
扉は閉まっていて、中の様子はうかがえない。だが二人には、見えざるものを見る力があった。
「あれで付き合ってないのよネ?」
「ウン
……
」
「あんだけべたべた触っといテ?」
「
……
ただの手当だって、言い張るよネ
……
」
「なーにが手当ヨ、しらじらしいワ! 絶対ただのこじつけヨ、あのムッツリスケベ!」
「ウン
……
デモ、ナナミも、嫌じゃないみたイ」
シゥカはぼんやりと宿を眺めながら、そう答えた。
イゥカは口元に手を当てて、しばし考え込む。
「そうネ
……
ナナミって、男のシュミ悪いのネェ」
「ウン
……
どこがいいのか、わからナイ」
「ま、当人同士が良いなら放っておきまショ。行くわヨ、シゥカ」
「
……
そうだネ」
二人が立ち去ろうとした時、扉越しにもはっきりと、ナナミが甲高い声を上げた。
巫女姉妹は、顔を見合わせた。
「まっ
……
て、ルデゥス、いたい
……
!」
「そうカ? だんだんほぐれてきたゾ。ほら、本当に痛いだけカ?」
「う、うぅん
……
気持ち、いい、けど、強すぎるよぉ
……
もっとやさしく
……
っ」
「ハハ。こういうのは多少痛いぐらいがちょうどイイんだヨ。そのうちにヨくなるサ」
「やだ、そこばっかり
……
」
「ヨロこんでくれてうれしいヨ。アンタ、よっぽど(疲れが)溜まってたんだナ。
だんだんほぐれてきたゾ。分かるカ? 最初は全然はいっていかなかったのに、こんなに深くまデ
……
」
──ぺちぺちとルデゥスの手首を叩いていたナナミは、やっとの思いで腕を引き抜いた。引き抜いたばかりの手を胸にかき抱き、肩で息をしながら「もぅ!」涙目でふくれつらするのと、背後でドアが開いたのは同時だった。
可笑しそうに細められていた目が、ナナミの背後に視線をやると、すっと消え失せる。
「ああ、お前らカ。今日はなんダ? バンジージャンプはさすがにもうカンベン
……
」
その顔が、ひきつった。
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