バラ肉
2025-10-08 18:56:14
6532文字
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月見未満

十五夜ネタを書こうと意気込んでたらもう終わってた…

のでめちゃくちゃ中途半端だけど供養。
続きは求められたら書きます。

※みと🍖くんはみのりボイスで再生してください。



電話帳の最後のページをめくったスグルは、自分の汚い字で書かれた名前を見て半目になった。
よりにもよってこの男か。
ふぅ〜と零れた溜息に、ミートとナチグロンは大きな目を互いに見合わせた。
一体だれのことだろう? 大きな体を左右で挟んで、背伸びしながらその手元を覗く。そして見づらい文字をなんとか読めば、主人の情けない顔色の理由に納得がいった。

「ああ、これはっ」
……ハッキリ言って、この方は望み薄ですね」

あっけらかんと呟く二人に対し、スグルは口を引き締め、ジト目で睨む。
彼自身、内心では同じことを思った。しかし、改めて口に出されると立場がない。

「お前たちなあ……

怒るに怒れない状況に、八つ当たり気味に小さな頭をぐしゃぐしゃ撫でた。

「わわっ!?」
「ご、ごめんなさい! 王子!」

飛んできた謝罪にフンッと鼻を鳴らす。あんまり大人を揶揄うものじゃない。腰に手を当てて「参ったか」と見下ろせば、「もうっ、ほんとに大人げないんだから」と小憎らしい側近のボヤキが聞こえた。もう一発お見舞いしてやろうか。とは思ったものの、ここでじゃれ合っていても話は進まない。

「まあ、答えは分かっていたとしても……一旦連絡してみんとな」

重い指を持ち上げて、これで最後かと、ゆっくり番号を押す。

Prrrr,Prrrr,

すっかり聞きなれた電子音を聞きながら、窓から見える曇天の空に目をやる。天気予報で言っていた通り、外の天気は悪そうだ。暗いのは夜のせいだけじゃない。まるで今の気持ちを映したようだ。

……ロビンは忙しい男だからのう」

思わず呟いたセリフは、ポジティブが売りの彼らしくなく、珍しく弱気でだった。

言葉の通り、イギリスの誇り・ロビンマスクは多忙な男である。
正義超人としての戦いに加え、英国ラグビーチームの名誉メンバーであり、ナイトの称号すら持つ彼は常に国内のイベントに引っ張りだこなのだ。、そこに加え、最近では若き超人たちに対する講義やアドバイザーとしての仕事も受けていると聞く。
しかも、弟子であるウォーズマン曰く、先日ついに連続勤務の日数が更新したとのこと。
ふらふらの彼を見ていられず、無理やりパロスペシャル(20%出力)で気絶させ、ベッドへ運んだと語る声はそれはそれは落ち込んでいた。
そんな、普段から休む暇のないような相手に、突発的に考えついたお月見パーティへの参加を申し込む――こんなこと無謀以外の何者でもない。
ミートたちもそれを分かっているからこそ、冷たい反応を見せたのだ。

Prrrr...、Prrrr…… ガチャッ。

―――Hello』

数度目のコール音を経て、なじみのバリトンボイスが電話口から聞こえた。

「あっ、ロビンか! 私じゃ、私!
……そのしゃべり方は日本人だな。なんだ、国を渡ってのオレオレ詐欺か?』
「はあ! ちょっ、お前! 声だけでわからんか! 私だ、私! キン肉スグルじゃっ」
……フッ。分かっているさ。我が家が電話機は相手先の番号が出るタイプなのは前に言っただろう?』
「なっ!? 全部分かってて……ぐぬう。本当にお前さんというやつは」
『HAHAHA! まあ、いわゆる英国ジョークってやつさ』

最初から冗談を飛ばしてくるロビンに、スグルはむうっと唇を尖らせた。なんだか専売特許を取られた気分だ。けれど、思っていたよりも随分と元気な様子に、ホッとする自分もいる。

(疲れ切っておると思ったが……今日は調子が良いようじゃな)

誘いを断られる問題以前に、実は相手の体調も心配だった。もしも、疲労困憊な声色で出られたら。きっと胸を締め付ける苦しさで二の句が紡げなかっただろう。大丈夫か?と、心細さを押し付けかねない。
しかし。予想に反して明るい雰囲気で答えてくれたロビンに、スグルは不機嫌を演じた唇をすぐに綻ばせた。

「まったく、そんなんだから奇行子なんぞ言われるんじゃぞ!」
『別にかまわんよ。言いたい奴には言わせておけばいいさ。……で、ケチなお前がわざわざ国際電話をしてくるなんて、一体どうしたんだ?』
「あっ。そうじゃった。本題をすっかり抜けておったわ

その呟きに、ミートがしっかりしろと脇を小突く。それにジェスチャーだけで「すまんすまん」と謝りながら、彼はコホンッと気分を改めた。

「実は、もう少ししたら日本では十五夜お月さんが出るんじゃ……叶うなら皆で一緒に楽しみたいな~と思ったんじゃ。で、アイドル超人を中心に声をかけておって」
『フム。その尻すぼみな話し方からして、みんなからの返事は芳しくなかったようだな』

最後まで説明せずとも、ロビンはその優れた理解力で彼らの置かれた状況を察したらしい。

『大方、ハロウィン関係で忙しいか、別口で楽しんでいると、いったところか』
「うッ!!!」

的確に図星を指す言葉にスグルはギクッと体を揺らした。そばで様子を見ていたミートとナチグロンも、漏れ聞こえた声に「すごい」「よくわかりましたね」と小さな声で驚き合う。
そんな二人を煩わしそうに見下ろしながら、彼は涼しげに笑う相手へ唇を舐めた。

……相変わらず、察しがいい奴じゃ」
『フフッ。正解だったか。まあ、我がイギリスでも近頃はハロウィンの準備で騒がしいからな。考えるまでもないさ』
「ゲェー!! お前さんのところもハロウィンか!」

5件中3件がハロウィンで断られた手前。すっかりそのイベントに拒否感を持ったのか。スグルの顔が一瞬で青くなる。
仕事で忙しいならまだしも、また同じ理由で断られるのか。


「じゃあ、ロビンも……

不安に声が震える。その空気を察して、小さな手が二つ。受話器を持つのと反対の手をぎゅっと掴んだ。

「そうか……いや、うん、そうじゃな。流石に、急すぎな誘いだもんね」

皆まで言わなくても、もう結果は出たようなもの。無理やり笑う顔は、落胆の色で染まっていた。
急な思い付きなのは分かっている。自分自身、今日の今日までそんなつもりはなかったのだ。

でも、テレビに映る綺麗な満月を見て、仲間たちと楽しみたいと思ってしまった。
今まで十五夜なんて祝ったことなんて無い。一人寂しく、何となく月を見上げた記憶しかない。
だから、折角得た温もりで、かつての空しい過去を塗り替えたかった。

「ああけど大丈夫! ミートとナチグロンがいるから」

とはいえ、もうすでにこの二人だけでも十分だ。言葉をなぞるように、そばに立つ二人をぎゅうっと抱き寄せる。恥ずかしそうにはにかむ可愛いお供たち、彼らだけで十分幸せじゃないか。これ以上は欲張りだ。

「忙しいところスマンな。じゃあ、そういうことで」

向こうの答えを聞かぬまま、スグルは受話器を耳元から放した。どうせ最初から無理な話だったのだ。さっさと気持ちを切り替えなくては。
ああ、でもその前にこの子供たちからのお説教も受けないと――そんなことを考えていたのに。

『おいおい、誰が行けないって言ったんだ?』

………………………………………………へ?」

遠ざかる寸前で聞こえた声に、スグルは目を丸くした。

『だから、私が断る前提で話を進めるな』
「ええ!!で、でも、ロビンはただでさえ忙しいし!!ハロウィンにも駆り出されるんじゃ……

『私が呼ばれるとして、どうせ当日だけさ。このロビンマスクを準備に駆り出すほど肝の据わった奴はこのロンドンにはいない。それに、ウォーズマンからも、≪自分がいない間は仕事をセーブしてくれ≫と、散々注意されていたし……。ちょうどいい休む口実になった』
「じゃ、じゃあ、じゃあ! ロビンは……
『ああ。喜んで参加させてもらおう』
「~~~!!!!」
落ちた気持ちが一気に急上昇する。
輝きを取り戻した瞳に、ミートとナチグロンの表情もつられて明るくなる。

その後、詳しい日程を後日伝えるとして、二人の電話は終わった。
まさか一番希望が薄かった相手から了承を貰えるなんて。
受話器を本体に戻した途端、打ち合わせたようなピッタリのタイミングで顔を寄せた三人は、その場でハイタッチをした。

「はっはっは! どうよ、これが奇跡の逆転ファイターの実力じゃい!!」
「さっすがはキン肉マンさん!! アイドル超人のアイドルは伊達じゃありませんね!」

「いやでも、本当の功労者はウォーズマンさんでしょう?」
「なあに、これが私とロビンマスクの絆という奴じゃ! 私は信じとったぞ!!!」
「もう、調子がいいんだからっ」

すっかり機嫌を取り戻した主人に習って、仲良く手を繋いで小躍りをする。
もう誰も来ないとたかを括っていたのに。これこそ本当に逆転劇だ。しかも相手はあのロビンマスクである。

「それじゃあ二人とも! 腕によりをかけて準備するぞー!!」
「わわわ! 余り気合を入れ過ぎたらダメですよ〜っ。キン肉マンさんはすぐに空回りしちゃうんだから!」
「ナチグロン、それフォローになってないってば!でも、十五夜までに色々買い出しとかもしないと……。王子、無駄遣いは許しませんからね」
「えー!みぃとくん、そこはちょっと、なぁ〜?」

必死に拝んで頼む姿は先ほどまでの落ち込みが嘘のようだ。それは本人達も意識しているのか。プッとナチグロンが吹き出したのを合図に、揃って笑い合う。



そんな楽しげな雰囲気に誘われて、雲に隠された月も僅かに光を増したのだった。