保科
2025-10-07 19:06:23
3278文字
Public スタレ
 

ごろごろにゃーご

ガンガンゴロゴロ アグサフェ+星だけど大体星とサフェルがくっちゃべってる 迷境食堂ならなんだってあり

「サフェルってさ、あんまり耳とか尻尾とかこう……感情で動かないよね」
とある日、迷境食堂の隅にて。星のそんな指摘に、向かいに腰掛けるサフェルは頭上の耳をつまみあげた。指で触れても、彼女の耳は作り物のようにされるがままだ。
「おー、よく見てるねぇ、グレっち。
そりゃまあね。尻尾やらがあれこれ勝手に動いたら、物落としたりぶつかったりで泥棒業務に支障出まくるでしょ。
制御できるようになるまで苦労したんだよ〜?」
はあ、と星はわかったようなわからないような相槌を返す。制御。なんだか、アニマルらしからぬロボめいた単語が返ってきた。
……じゃあ、つまり、あんたが気合で動かなくしてるってことなんだ?」
「んー、そうなるかにゃ?
気合……気合かあ……ま、そーかも」
しっくりこない様子で繰り返したサフェルは、ぴ、と指を一本立てる。
「例えばグレっちさあ、よくパタパタ歩いてるけど、あんたも頑張れば足跡立てないで歩けるでしょ?」
「うん、まあ、できるよ」
「1時間できる?」
……それくらいなら、多分」
「1時間できるなら1日は?1週間、1ヶ月、1年は?」
………
……唸る。出来るか出来ないかで言えば、きっと無理ではない、けど――絶対どこかで忘れてしまうと思う。
「そうそう!はは、いい顔するね。
つまりはそういう感じ。理論的にはできるけど……実演するとなると難しいこと。
でも、ずーーーっと意識して抑え続けて、それを日常になるくらい慣らせば、最終的に意識しなくても自然になんとかなるってワケ。
これ企業秘密だからね、他のヤツらには内緒だよ?」
立てられた指を向けられ、星は感嘆の息を吐く――シンプルだけど、途方のない話だ。
……なるほど。詭術ってすごい」
「あ、ちょっと、これは詭術ってかあたしの努力だから!――へん、ザグレウスに横取りはさせないよ」
べ、と嫌そうに舌を出すサフェルは、そんな努力をかなり誇りに思っているようだけれど。
星としては、その結論は少々残念だった。
「なんだ。猫ってもっと耳や尻尾に感情が出ると思ってた。
そこを当てにしてサフェルの嘘は見抜けない、ってことだね」
「あっはっは。甘いねえグレっち、ドロス人のあたしが対策考えてないとでも思った?
――逆にそういうことを思ったやつらを騙すために、わざと動かしてやることもある位だよ」
からからとした笑い声に、星は降参と手を上げる。詭術を見破る道のりはまだまだ長そうだっだ……が。
だとするならば。
「じゃあ……元は普通に動いてたってこと?」
「そりゃ勿論。小さい頃は気持ちのまま動いてたし……てか、まあ、今だって……こんな風に意識を切り替えればね。――ほら」
目をつむり、小さく息を吐いたあと、ぴく、とサフェルの耳が揺れはじめる。ゆらり、動きを止めていたしっぽも揺れだした。
「お!」
思わず感嘆の声を上げた星の方に、するりと耳が向く――さっきまでの印象が嘘のようなイキモノめいた動きは、同じ獣の特徴を持つ、狐族や、他の生き物たちを思わせた。
「この方が正直、音とかも聞きやすいし本当は楽なんだけどさー。ま、そうも言ってられないご身分ってワケよあたしも。世知辛い世知辛い」
「うわ、すごい!ぺぺみたいに動く!」
「え、誰?ぺぺ」
「知らないの?ぺぺは凄いよ、ゴミケーキよりも賢いから」
「ろくな説明なしに登場人物増やすのやめなー?あんたの話聞いてると、あたしですらどれが嘘でホントかわからなくなるよ」
と。そんな軽口を叩いていたサフェルの耳が、ぬるりと食堂の入り口に向けられる。
物音一つない場所を見つめだしたサフェルの姿に、星がなんだと疑問に思った直後、ぽつりと呟かれたのは。
……アグライア」
「は?……何が?」
「まあまあ。
ほら来るよ、3、2、1――
にんまり。ほくそ笑むサフェルがぜろ、と呟くと同時に、そこへ人影が姿を現す。まさにサフェルが名前を挙げたアグライアその人が、徐にこちらに目を向けた。
「開拓者にセファリア。まもなく本日のミーティングが始まりますが、ここで何を…………本当に、貴女達は何をしているのです?」
「いやサフェルめっちゃすごいよ。足音あてゲーム1位の逸材だ」
「ふふーん。気分いいからもっと褒めなグレっち!」
目を輝かせながら拍手を送る星と、満足げに腕を組むサフェルを訝しむように見たアグライアは、しかしややこしいと思ったのかそれ以上の追求はせず。
……何をしていたのかは知りませんが、遅くならないうちに向かうように」
「あーはいはい、分かってますよーだ。
ちぇ、金織様は小言が厳しくてやんなるね!」
肩を竦めたサフェルが、億劫そうに立ち上がった。その背中では、普段垂れ下がったままの尻尾が立ち上がっている。気付いた星はあれ、と思いつつ――アグライアに開拓者、と呼ばれ、そちらに意識がそれた。
「念の為の確認ですが、この場には他に妖精はいませんか?」
「あー、うん、私とサフェルだけ。食堂で寝てたやつはさっき追い出した」
「助かります。しかし、連日となると、不法滞在する妖精の対応は考えないといけませんね……
続けて立ち上がった星と、言葉を交わすアグライアの横。経営にはさっぱり興味のないサフェルは、気取られないようにするりと通り抜けようとして。
……ああ、セファリア。少しお待ちなさい」 
「何?裁縫女」
「頬に、木くずが――
目敏く(というのは比喩としては正しくないが)、金糸で感じ取ったその汚れを取り払おうと。
アグライアが伸ばした手が、呼び止められたサフェルの頬に触れた。
ぱち、と、サフェルが不意の接触に瞬いて―――
――ごろごろごろ。
―――
……え?」
突如部屋に響いた謎の異音に、星は、なんの音だろうと不思議に思う。まるで聞き覚えがない音だったからだ。
けれど、アグライアにとっては異なるのか――サフェルの頬に手を添えたまま、彼女は不自然に動きを止めた。まるで、余程信じられない出来事に遭遇したかのように。
そんなアグライアの挙動に、ぽかんと呆けた顔をしたサフェルが、
――――ッ」
何か思い至ったように、突然喉を強く抑えこんだ。すっかり耳は立ち、尻尾は毛が逆立って、大きく膨らみ――ごろごろごろ。それでも、音は止まらない。
―――セファリア、貴女、」
「違っ、こ、これはだから、違うんだって、やめっ……!」
違う、と口にしながらも、頬を再度アグライアに撫でられると、またごろごろと鳴り出す音はさっぱり止む気配がない――辺りを見渡していた星は、そこで漸くサフェルに目を向ける。向けて、気づいたところを言葉にするなら、
……え、何。もしかしてサフェルの喉が鳴ってるの?」
―――グレっちのばーか!」
「何で」
瞬間。
アグライアの手を勢いよく振り払ったサフェルは、真っ赤な顔で星に向けて罵倒を一つ、即座に姿を消してしまった。
後には、虚空に手を伸ばすアグライアと、立ち尽くす星が取り残される。
星は呆然としながら、そういえば、と丹恒のアーカイブを思い出す。確か猫には、嬉しい時に喉を鳴らす、といった特徴があった。尻尾も耳も意識して揺らしていたサフェルは、そういうところも猫らしくなっていたのかもしれない。……と、そこまで考えたものの。
「え。ねえアグライア、何で私今罵倒されたんだろう」
結局、そこがさっぱりわからない。まあなんかうれしかったとして、なんで私が怒られるの――という素直な疑問。
けれど、向こうからの返事はない。
……………
「アグライア?……ちょっと」
無視された星の再三の呼びかけに肩を震わせ、静かに胸を押さえたアグライアは。大きく息を吸い、それを吐き出すと。
「開拓者。……申し訳ありませんが先に戻っていてもらえますか……
「待って。二人して私を置き去りにしないでよ」
星に肩を揺さぶられながらも、何かを静かにかみしめる様子のアグライアが――それ以上、口を開くことはない。