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夜明 奈央
2025-10-03 18:52:57
7724文字
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久々綾
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久々綾 喜八郎は先輩に会いたい
現パロ 修学旅行中、進学で遠恋になってしまった久々知先輩に会いに行きたい喜八郎の話
2025年9月30日初出 10月3日加筆修正
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旅行当日はあっという間にやってきた。いつもより早く起きて、眠い目を擦りながら準備する。夏休みに先輩のところに遊びに行った時はもっと早く起きてもばっちり目が覚めていたのに、予定によって全然やる気が違っている。
先生の面倒な話を聞いて窮屈な飛行機に乗り込み、あんまり興味もない観光地に連れられる。滝夜叉丸が張り切って自撮りを繰り広げているのをぼけっと眺めていたら、そういえば先輩が写真を送るよう言っていたことを思い出した。スマホを取り出すと、久々知先輩からのメッセージが届いている。
「今日は快晴で絶好の旅行日和だよ。楽しんでね」
受信時刻は普通に生活していればまだ起きていないだろう早朝。きっと僕が家を出るのに合わせて送ってくれたのだ。たぶん、先輩は僕に修学旅行を楽しんでほしいと本気で思っている。なんだか急に我儘を言ったことが申し訳なくなってきた。
とりあえず今来ているどうやら有名らしい神社の本殿にカメラのレンズを向ける。近くで未だ自撮りに勤しんでいる滝夜叉丸がフレームの隅に入ってしまったが、わざわざ移動するのも面倒でそのままシャッターを切った。先輩に送ると、1秒と経たずに既読が付く。日頃から僕より圧倒的に返信が早い先輩だが、それにしたって速い。もしかして待っていてくれたりしたのだろうか。数秒後、「こういう時は普通自撮りを送ってくるものだよ」と返信がきた。
なるほど、そうかもしれない。滅多に使わないインカメラを起動して、自分に向けてみる。しかし慣れていないので、自分を入れると後ろの本殿が上手くフレームに入らない。
「せっかくの旅行なんだしお前も写真くらい撮りたいよな」
あれこれ角度を調節しているうちに、いつの間にか隣に来ていた滝夜叉丸が横でうんうんと訳知り顔で頷いていた。
「別にそういうんじゃない」
「じゃあなんなのだ」
「先輩が送ってって言うから」
「なんだ、それならそうと早く言え! 私の撮影と加工技術で完璧な旅行写真を撮ってやろうじゃないか!」
「えぇっいいよそういうのは」
「遠慮するな。こういうのは私に任せておけ!」
それからこっち側に立てだのポーズはこうだの目線はここだのとあれこれ指示を出される。なんだか抵抗するのも面倒でその通りにすると、滝夜叉丸がバシャバシャと何度もシャッターを切った。絶対にそんなに必要ないといつも思うのだが放っておく。僕の写真だけで良かったのにちゃっかり自分も隣に写り込んでいるあたりは滝夜叉丸らしい。それからしばらくスマホで何某かの操作をしていたかと思えば、やがて1枚の写真が送られてきた。それをそのまま先輩に送ると、またもすぐに返信がくる。
「これ、撮ったの滝くん? 写真上手だね。すごく盛れてる」
「喜八郎の可愛さが引き立ってる」
続けて送られてきたメッセージに照れ臭い気分になる。
「おっその顔は返信があったな!? どうだった!?」
つい頬が緩みそうになるのを堪えていると、横で見守っていた滝夜叉丸が画面を覗き込もうとするので慌てて画面を手で隠した。頬に力を入れてどうにか普通の顔を装うが、できているだろうか。
「写真上手いねって」
「そうだろうそうだろう。先輩は自然体の加工の方が好みだと思ったのだ。さすが私! 先輩の好みまで把握しているなんて」
そのままうだうだと続く口上は例によって無視だ。もう1度トーク画面を開くと、「でも俺は喜八郎の下手くそな写真も好きだよ」と追加メッセージが来ていた。ちょっとバカにされている。でもちっとも嫌な気分にはならなかった。
それから、移動する度に先輩に写真を送った。見つけた面白いもの、自分で撮った本当に下手くそな自撮り、滝夜叉丸が撮った加工盛り盛りのツーショット。どれにもすぐに返信が来る。たぶん僕のためにほんとに待ち構えてくれている。初日が終わる頃にはめんどくさいより次は先輩に何の写真を送ろうかというわくわくの方が上だった。そういえば先輩も「行ってみたら楽しいものだよ」と言っていたっけ。先輩の想定とは違う意味かもしれないけれど、その通りに僕も楽しくなっていた。ついでに途中の土産屋で先輩とお揃いのキーホルダーもゲットして、次に会うのがより一層待ち遠しくなった。
日中はそうやって過ごして、夜は疲れてベッドに倒れ込む。疲れていつもより早寝するから朝は時間に余裕を持ってすっきりと目覚める。それを繰り返していると、あれだけ長いと思っていた修学旅行はあっという間だった。そして迎えた、最後の夜。
「おい、ちゃんと寝る前にスマホの充電をしておけよ」
「はいはいわかってるよ」
風呂から上がるなり同室の滝夜叉丸に小言を言われた。めんどくさいが聞いておかないと日頃に輪をかけて鬱陶しくなる。1日目の夜に充電を忘れて2日目に滝夜叉丸のモバイルバッテリーを借りることになったのをきっとまだ根に持たれている。普段なら3〜4日は余裕で保つので毎日充電するという習慣がないのだ。僕からすれば充電器を持ってきていたこと自体を褒めてほしいくらいなのだが、滝夜叉丸にそんな言い訳は通用しなかった。
滝夜叉丸が風呂に向かうのを視界の隅に捉えつつ、自分のスマホを手に取る。するとそこには1件の不在着信と1通のメッセージ。差出人は久々知先輩。慌てて飛びついてメッセージを開くと一言。
「ホテルの外、出てこれる?」
反射的に窓に目をやったが、カーテンが掛かっていて外の様子はわからない。慌てて窓に飛びついて、カーテンとそれからついでに窓も開く。僕たちの部屋は15階だから、途端に高層階特有の強い風が吹き込んできたが、構わず頑張って目を凝らす。地表は真っ暗で遥か遠く、やっぱり何もわからない。
まさか、まさか、まさか。
そのまま駆け出していきたかったが、風呂上がりの下着1枚では流石にまずい。慌てて脱ぎ散らかした制服を着込んで部屋を飛び出す。バタンと扉の閉まる音を聞いてから、そういえばこの部屋オートロックって言ってなかったっけ? と思い出したが、そんなことは瑣末な問題だ。
勢いそのままエレベーターに飛び乗ろうとして、ホテルのロビーには先生がいることを思い出す。案内図に従って非常階段へ向かい、忍び足で駆け降りる。
外って、外のどこ? きょろきょろと辺りを見回すと、少し先で見慣れたシルエットが手を振っていた。
「久々知先輩っ
……
!」
「あんまり大きな声出すと先生に見つかっちゃうよ」
先輩は呆れたみたいに言う。何を言っていいかわからない。15階から駆け降りた所為で息が苦しい。
「旅行中は、会ってくれないんじゃ
……
」
「そのつもりだったけど、喜八郎が約束通りいい子にしてたみたいだから、会いに来ちゃった」
胸の奥から様々な感情が溢れ出して言葉にならない。会えないと思っていた。我慢するしかないと思っていた。なのに今、目の前にいる。
言葉の代わりにめいいっぱいの気持ちを込めて抱きつくと、タックルしたみたいになって先輩が小さく蹌踉めいた。先輩は体勢を立て直すと、しっかりと抱きしめ返してくれる。
「髪、まだ濡れてる。お風呂上がりだったんだね。ごめん」
「いいんです」
「湯冷めしないうちに早く戻らなきゃ」
「せっかく来てくれたのに、そんなこと気にしなくていいです」
「でも風邪引いちゃう」
「何年も風邪引いたことないので大丈夫です」
「そっか」
「はい」
先輩が言葉とは裏腹にぎゅうぎゅうと抱きしめてくれるのが嬉しくて、ちょっとだけ涙が出た。見られないように先輩の胸に顔を埋め、先輩の背中をぎゅうと抱きしめる。
顔を上げると、先輩がいつもの優しい顔で僕を見つめていた。吸い寄せられるように唇を寄せる。
「ストップ」
が、先輩に額を押されて止められた。
「なんでです」
「先生に見つかったら言い訳できない」
「
……
抜け出してる時点で同じじゃないです?」
「同じじゃないです。不純交遊は認められてません」
「けち」
「けちでもなんでも」
「不純じゃないです」
「だとしても」
「先輩の基準がわかりません」
「俺だって先生には怒られたくないの」
「卑怯者」
「なんとでも言いなさい」
軽口の応酬に、視線を合わせてふふふと笑い合う。
「もうちょっと遠くへ行こうか。ほんとに見つかっちゃいそう」
「どこか当てがあるんですか?」
「うーん、あんまり。この辺来たことないから」
先輩から離れたくないなぁと思っていたら、手を引かれた。繋いだまま、なるべく街灯の少ない道を選んで歩き出す。先輩と手を繋いでのお散歩が嬉しくて、無意味に大きく腕を振った。先輩が一緒になって振ってくれるのがますます気分を上げる。
「なんでここに泊まってるって知ってるんですか?」
「んー? あの後ちょっと気になって調べたから」
「なんで僕に直接聞かないんです?」
「そしたらサプライズの意味がないじゃない。びっくりしたでしょ?」
「しました」
「予告されるより嬉しかったでしょ?」
にっこり笑う先輩は策士だ。
なんだか悔しいと思っていたら、先輩が着ていたカーディガンを背中から掛けられた。慌てて部屋を飛び出してきて薄着だから、走った後の熱が引くとちょっと寒いと思っていたのを見抜かれたらしい。
「うーん、やっぱり戻ろうか。それ脱ぐと俺も寒い」
「僕我慢できます」
「そんな薄着でなに言ってるの」
「でも、せっかく会えたのに」
宥めるみたいに頬を撫でられ、そっと口付けられる。さっきはNGだったのに、ほんとに基準がわからない。すぐに離れていきそうだったのでもっとの意味で袖を引く。ちゅっちゅと触れ合わされる唇が幸せを増幅させる。
「いい子の喜八郎にはまたすぐ会いに行くから」
「それ言えば僕がなんでも言うこと聞くと思ってるでしょう」
むうと口を尖らせると笑われた。絶対誤魔化そうとしている。
「すぐっていつですか」
「次の連休かな」
「それって来週?」
「そうだね」
「デートしてくれるんですよね」
「もちろん」
なら我儘言うのはやめようかなと思うあたりやっぱり僕はだいぶチョロい。寒いのは本当だし、先輩が風邪を引いたら来週のデートがぱあになってしまうかもしれない。
仕方がないので、再び手を繋いで元来た道を戻る。
「そういえば、急に来るから先輩に買ったお土産持ってくるの忘れました」
「俺こっちに住んでるのに?」
「いいじゃないですか。お揃いですよ」
「そっか。次会う楽しみができたね」
「はい」
ホテルの前まで戻ってくる。カーディガンを返して、来た時に使った非常階段を上る。名残惜しくなって何度か振り返ったが、その度に先輩は何度だって手を振り返してくれた。それが先輩大好きの気持ちを募らせる。
けれど世の中そう上手くはいかなかった。15階まで辿り着いた後で、外からは非常口を開けられないことに気がついた。不思議そうにする先輩の元に逆戻りする。2人で笑って、せっかくだからともう1度抱きしめあって。正面ロビーから戻った所為で先生にはしこたま怒られたけど、先輩に会えたばかりの僕は無敵だったから、そんなこと全然気にならなかった。
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