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夜明 奈央
2025-10-03 18:52:57
7724文字
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久々綾
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久々綾 喜八郎は先輩に会いたい
現パロ 修学旅行中、進学で遠恋になってしまった久々知先輩に会いに行きたい喜八郎の話
2025年9月30日初出 10月3日加筆修正
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「じゃあ各班に分かれて自由に行き先を考えるように。できた班から提出だ」
担任の号令に合わせて生徒たちがガヤガヤと一斉に話し始める。僕たちの学年はもうすぐ修学旅行を迎える。修学旅行といえば、高校生活最大といってもいいイベントだ。吹き抜ける風に秋の気配が混じり始めた頃から、みんなこの話題で持ちきりだった。
けれど僕は、全然やる気が出ない。旅行なんて興味はないし、普段の授業と違ってあれこれ調べることが多くてめんどくさい。そして何より僕を億劫にさせるのがその行き先。去年までは毎日のように会っていたのに、春に進学してからはほとんど会えなくなってしまった先輩の住む街。僕がお小遣いを叩いて夏休みにようやく1泊しただけの街に、今度は3泊4日で行くらしい。全然違う場所ならともかく、こんなに近くに行くのに先輩とひと目会うことさえできないなんて、一体何の罰かと思う。
「喜八郎! おい、喜八郎! 聞いているのか!」
全然やる気が出ないので班の話に参加せず手元の地図をぼーっと眺めていたら、滝夜叉丸が僕の肩をガクガクと揺さぶった。無視するには鬱陶しいので顔を上げると、滝夜叉丸が眦を吊り上げる。
「お前、さっきからぼーっとして、まさか余計なことでも考えてるんじゃないだろうな」
「余計なこと?」
「これは班別の自由行動だ。個人の自由行動ではない」
「知ってるけど」
「わかってるならいいが。念の為言っておくが、先輩に会いに行く時間なんてないからな!」
滝夜叉丸に言われて、目から鱗が落ちた気分だった。そうか、会いに行けばいいんだ。
「おい、本当にわかってるのか?」
「うんわかってるよ」
やる気がなくて全く把握していなかった旅行のスケジュールを確認する。自由行動は2日目と3日目。どっちも平日。どうだろう? 先輩も授業とかアルバイトとかあるだろうし、そんなに都合よく僕と会う時間はあるだろうか。でもひとまず連絡してみないことには始まらない。
旅程をパラパラとめくり、路線図を調べ始めた僕に滝夜叉丸が怪訝そうな目を向けるが、そんなこと気にしていられない。自由行動のスタート地点から先輩の家の最寄駅までは地下鉄で3駅。大学までは電車で5駅。なかなかのアクセスの良さだ。
問題はどうやって班のみんなと別行動をするかだ。はぐれた振りをするとして、解散直後は流石に怪しくないか? 単純に警戒されていそうでもある。移動する途中の駅の中とか? それとも電車に乗り遅れるか、降り損ねたことにするとか。考え始めると、さっきまでどうでもいいと思っていた旅行が途端に楽しみになってきた。
休み時間になってすぐさま先輩にメッセージを送ろうと思ったが、スマホの充電が切れていた。振ったり温めたり試行錯誤してみるがぴくりとも反応しない。仕方がないので放課後まで我慢して、家に帰ってから充電器に繋いだ。数秒毎に電源ボタンを押して、何度目かでようやく電源が入る。そわそわしながらメッセージアプリを開いて、家だから電話でもいいかと思い直した。
「喜八郎?」
ちょうど先輩も都合が良かったようで、電話にはすぐに出てくれた。
「先輩っ! お元気ですか!」
「うん、元気だよ。喜八郎は?」
久々知先輩の穏やかな声が余計に気持ちを逸らせる。挨拶する時間さえも惜しい。
「僕も元気です! あのっ! 来月そっちに行く予定があるんですけど、お会いする時間はありますか?」
「えっそうなの? 嬉しいな。いつ?」
声のトーンが一段上がった。先輩も喜んでくれている。それだけでも嬉しくて、うきうきとした気分で日程を告げたのに、はあ、と大きなため息を吐かれた。
「それ、修学旅行だろう!」
即刻でバレた。先輩も去年まではうちの学校に通っていたので、当然といえば当然だ。
「そうですけど、自由行動なので大丈夫です」
「自由行動って言ってもうちの学校は班別かクラス別しかないだろう」
「大丈夫です。上手く説得するので」
「そういう問題じゃない!」
それから「これは学校行事なんだから」とか「クラスの仲間との仲を深めるために」とかうんたらかんたら長々とお説教が続く。先輩が真面目なのは知っていたが、まさかこんなにも怒られるとは思わなかった。この調子じゃお説教を無視してこっそり会いに行っても相手にしてもらえなそうだ。名案だと思ったのに、振り出しに戻ってしまった。
「ちょっと喜八郎、聞いてるの?」
「はい、ごめんなさい」
本当は半分以上聞いていなかったが、とりあえず先輩に会いに行くのは諦める気になったので同じことだ。先輩がどうしてそんなに怒るのかはわからなかったが、一応声色だけはしょんぼりとした空気を出しておく。
先輩も僕が諦めたことはわかったのか、もう1度大きなため息を吐いて「わかったならよろしい」とお説教を終わりにした。
「喜八郎は、そんなに修学旅行いや?」
「嫌ではないですけど、それより先輩に会いたいです」
「もしかして、虐められてたりする?」
先輩の声のトーンが下がる。まるで本当に心配してるみたいだ。
僕は悪い子なので、虐められてるんだと嘘を吐けば会ってくれるんじゃないかと頭に過ったが、それを本当に言う程バカではなかった。そんな嘘がバレたら先輩はそれこそ2度と会ってくれなくなる。
「そんなんじゃないです」
「そう? ならいいんだけど」
「先輩は、僕に会いたいと思ってくれないんですか」
「思ってるよ。会いたい。すっごく会いたい。それに、喜八郎が俺に会いたいって思ってくれたのも嬉しい。でも、喜八郎から同級生との修学旅行の思い出を奪いたいとは思わない」
「毎日会ってる同級生なんて、今更じゃないですか」
「旅行って普通は仲良しのメンバーと行くから楽しいものだと思うんだけどな」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ。確かに旅行ってめんどくさいことも多いけど、行ったら行ったで楽しいものだよ。同級生と思い出いっぱい作っといで」
「はい」
「いい子にしてたら、また近いうちに会いに行くから」
「わかりました。待ってます」
別れの挨拶を交わすと、電話が切れた。しばらく終話音を無感情に聞いていたが、やがて諦めてベッドに放り投げる。ついでに自分も倒れ込む。計画失敗。でもあんなこと言われたらいい子にしてるしかなくなっちゃうんだから、やっぱり先輩は狡い。そう思っていたらピコンと短い着信音が鳴って、慌てて放り投げたばかりのスマホを拾い上げる。表示されているのは予想通り、久々知先輩からのメッセージ。
「言い忘れてた。旅行の写真、いっぱい送ってね。楽しみにしてるよ」
もう1度ベッドに倒れ込む。今度はぎゅうとスマホを握りしめたまま。僕は先輩の手の平の上で転がされている。こんな一言でちょっと旅行が楽しみになった。
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