保科
2025-10-02 21:01:56
3117文字
Public スタレ
 

メテオ!

迷境食堂にて 星とサフェルとちょっとだけアグライア

サフェルとアグライアは開拓者ぶち込んだら全部解決しそうだから禁じ手、みたいなのを前に見かけたのでぶち込んでみた なんでもペラペラ喋るじゃん……

「追加の食材まいどあり〜ってね!たんまり持っていっちゃってよ」
「やったー!肉!肉!はいお金!」
「どーも。
うーん欲望まっしぐら。グレっちってガッツリ食べるよね〜」
「やっぱ肉だよ。草食べてたって銀河打者に未来はない。肉を焼いてなんぼだね」
「救世の坊やにサラダ食わされまくったこと、めっちゃ根に持ってる?」
…………
「黙るじゃん」
食堂宛の仕入れの売り上げは順調だ。まいどあり、とサフェルはきっちり支払われた硬貨を懐にしまうと。いつものようにその場を去る――その前に。
早速食材の運搬を妖精たちに依頼していた星へ、ところでさ、と声を掛ける。
「ん?何、サフェル。今日はこれ以上は買わないけど――
「いや買い物の話じゃなくて。
その……裁縫女って、今もいるの?食堂」
………
ちらちらとあたりを見渡す、妙にそわついた態度に、最後の妖精を見送った星は考える。――これは、どういう意図の質問だろう。
星は、対人関係のプロフェッショナルであり、人間関係の機微には詳しいと自負しているが(――もし懐のカメラが喋れれば、『そんなわけないでしょ!アンタってばいつも人様の事情を引っ掻き回してばっかりじゃん!適当やった尻拭いは大体ウチと丹恒だよ!?』とクレームが入ったところだが、カメラは物言わぬためそうはならない――)、そんな星の観察眼をもってしても、サフェルとアグライアの関係性については、イマイチわかっていないのだ。
アグライアは仲良くしたそうだけど、サフェルはそうでもない、ようなフリに見えて、でもサフェルもアグライアのことは好きそうだった。なら仲良くすればいいのに。なんなんだ?
「うーん………
「あー……そのさ、知らないならそれで全然良いから!ごめんごめん、変なこと聞いて」
「ううん。今どう答えるのが正解か考えてる、ちょっと待ってて」
「いる・いないの2項選択に、その曖昧な判断絶対挟まらないでしょ」
思わずツッコミを入れたサフェルは、意味不明なことを口走る目の前の星が、長考の末ろくでもないことを思いつきかけていると直感する。……長引けば不利になりそうな予感かひしひしと。
「りょーかい〜……
……うん、グレっちも特に知らなそうだし?じゃああたしはこれで――
去るサフェルがひらひらと振った手を、そうはさせまいと星が無言でつかむ。思ったより力強い開拓者の手を振り払えず、サフェルは仕方なく足を止める。
……何、急に熱烈じゃん。あたしとまだまだ一緒にいたいって?
ダメだよ〜それは別料金――
「いや、そう言えば、サフェルってあんまりアグライアと顔合わせないなーって。苦手なの?」
――核心を突く質問に、一瞬、サフェルの目が伏せられて、直ぐにいつもの笑顔に変わる。
「あーうん、そうそう!あたしあいつと気が合わなくてさ〜。絶賛冷戦中?的な?」
「そうなんだ。
じゃあ、仲直りしたほうがいいよね」
―――いや待ったグレっち?」
名案、とばかりの自信に満ちた声に、サフェルの口元が引きつる。
「うん。よくサフェルのことを気にしてるアグライアのモチベーション向上で売り上げにも繋がるし、アンタを懐柔すれば値下げも期待できるし。
これ、良いことづくめじゃん。え、私、天才……!?」
「思った以上に打算的な発言。てかそれ絶対当事者のあたしの目の前で口走るべきことじゃなくない?」
「任せてよサフェル、私、こういう経験は豊富なんだ。
前にいた場所ピノコニーでは、人間の感情をこう……いい感じにねじ曲げて、解決したりもしたし。
スターオブザフェスティバルに不可能はない。大船に乗ったつもりで任せておいて!」
「何それ怖!詭術だって多分そこまでヤバいことしないけど!?冗談だよね!?
ちょっ、グレっちいいって、あたしそんなつもりじゃ――
引き摺られる腕に必死に抵抗するサフェルに、振り返った星は視線を向けた。その瞳の、奥底まで見透かすような不思議な深さに、サフェルは思わず息を呑む。それが、
「アグライアに会いたくない?」
―――
「決まりだね」
彼女の言葉を真正面から受け止める失態に繋がった。
ふ、と微笑む星に、何も、何一つとして、らしいことを言えないまま。
サフェルは、義賊らしからぬ己の気の緩みに打ちのめされた精神を立て直せないうちに、張り切る星に呆然と手を引かれて。



「アグライア、お疲れ様。
ネコちゃんを連れてきたよ。アンタと話があるんだって」
とん、と、机で書類の端をそろえる音が、妙に耳の奥に響いた。星に背中を押されて尚、正面を見れず明後日方向を見やるサフェルを、迷宮食堂の事務スペースに腰掛けるアグライアは、盲目の眼でじっと見つめている。
……………………セファリア」
ポツリ、つぶやかれた名前に、サフェルの肩が跳ねた。――咄嗟に、口からいつも通りの言葉が溢れる。
……別に?
あたしは、あんたに話したいとかそーゆーのは……
「二人ともケンカしてるんだって?早めに仲直りしたほうがいいよ」
「グ〜レ〜っ〜ち〜!!!」
「事実なんでしょ。
――だってサフェルもアグライアのこと好きみたいだし、そういうのは早めに解決したほうがいいよ」
――――
――――
…………え、なに。どうしたの二人とも」
――場が、固まった。
振り返り、星の蛮行に口元を震わせるサフェルの顔は、アグライアには見えないままだ。
アグライアが、そんな彼女を横目に伺うようにしながら、わずかに眉根を寄せて口にする。
……開拓者。確かに、私とセファリア――サフェルが懇意にしていたことも過去にはありましたが。
決して、今はそうでは……
「え?そんなことないでしょ、見てれば分かるよ。苦手っていうけど、全然そうじゃなさそうだしさ――なんだ、アグライアでも分からないことあるんだ」
ふふん、と得意げな星に煽られ、珍しくも顔に困惑をにじませたアグライアの眼差しが、答えを求めるようにサフェルに向けられる。
その視線を背中に感じながら、サフェルは肩を震わせつつ、目の前で意気揚々と鼻息を荒くする諸悪の根源を睨みつけた。
「私にはすべてお見通しだからね。ほらサフェル、仲直り――サフェル?どうしたの顔真っ赤だけど」
「グレっち今から勢いよく空にぶん投げたげるからそのまま天外に帰ってくれない?」
「なんで。後3verくらいは帰らないよ。やることあるし」
首根っこをつかまれても尚平然としているこの女をどうしてやろうかと考えるサフェルの後ろで、かたり、と椅子が引かれる音がした。――思わず星を取り落とす。立ち上がったアグライアが、サフェルのすぐ後ろまで歩み寄る。
「セファリア……その。
つまるところ、今日の貴女は、私と、言葉を交わしてくれる……ということでしょうか」
―――
サフェルは。――セファリアと呼ばれた少女は、その淡々とした声の奥底にかすかに残る、縋るような響きを、頭上の耳で聞き取って。今、この場所迷境食堂においては、その心を振り払う理由が一つも思い浮かばないことを思い知り、ため息をついた。
…………………うん。
あんたが、そうしたいなら……いいよ」
小さく息を呑んだアグライアが、そうですか、と囁く――その表情は、サフェルには見ないでもわかるものだから。
「よかったよかった。
じゃあサフェル、大団円ということで次の取引は半額にまけてね」
――でも先にグレっちをぶっ飛ばすからちょっと待ってて」
「なんで?」
代わりに、目の前のふてぶてしい女の面に一発拳をかますと決めたのだった。ネコパンチ。