kanaco
2025-10-02 19:55:47
8019文字
Public
 

【十二信】ピカピカハートをきみに

《十二信》成立済の十二信。散々な目にあってピンチを迎えてたら颯爽と信一くんが現れたし好きすぎるので、思わず手ハートを作った十二くんのおはなし。2ページあります。


「いやいや。愛、じゃあねぇんだよ。無茶しやがって」

寝転がったままの十二を見下ろして、心底呆れたような顔をした信一が言った。

十二は手ハートの吹き抜けにモノ言いたげなジト目が覗いているのを見る。声音に怒気が孕んでいるのも悟り、少し怯えて首を竦めようとした。あいにく体は言うことをきかず、ぼんやりとした目線を送ることしかできなかったが。

テキパキと敵を倒した信一は、十二の手ハートを無慈悲にも真顔で割り、引き続きテキパキと十二の傷の様子をみて、テキパキと応急処置をする。

四仔のところに行くか、架勢堂に戻るか一瞬だけ迷い、廟街の端の方であるここじゃ九龍城砦の方が近い、平地の割合も多いと判断するとすぐさまバイクを十二の傍まで持ってきた。

鬼のような顔で叱咤して十二を立たせ、バイクの後ろに乗せる。上着を脱いで十二と自分の腹をまとめて括ると、十二の腕も自分の腹まで回させて「絶対に落ちるなよ」と強く言い聞かせた。

バイクが静かに走り出す。しかし信一がいくら気を使って走っても安物のバイクは安物のバイクだった。普段は気にならなくても、どうしても振動が全身に響く。音もだ。とりわけ、頭には。十二は信一に言われたことを守って必死に腕に力を込めているつもりだが、それができているのかどうかすら自分では判断ができなかった。

「信一さん、ワタクシ頭を叩かれて割れております」
「だから、できる限り揺らさず急いでんだろーが」

報告すれば一蹴された。
まだ怒ってるじゃん、とちょっぴり凹む。

そりゃそうだ。こいつ、さっき自分の羽織りを裂いて俺の頭を止血したんだ、と思い出す。先週買ったばかりのお気に入りのシャツだったはずなのに。申し訳ねぇなぁ、としんみりした。

信一の背中にひっついていると、なんだか懐かしい気分になる。子供の頃、体調不良を起こしてそこらでぶっ倒れている十二を、信一はいつだって目ざとく見つけては、背負って龍兄貴のところに運んでいた。慣れ親しんだ背中だ。ただでさえ小柄な子供だった十二にとって、成長期前の2つの年の差はそれなりに大きく、目の前の背中を少しばかり広く感じたものだった。

今はどうだろう、と十二はぼんやりと考える。背は追い越せなかったが、体格で言えば今や自分の方がガッチリしているのではないかと思う。日々の鍛錬は欠かしていない。両方大人だし横に並んでる。もう広い背中とは言えないかもしれなかった。

ああ、でも。
安心するのは、ずっとそう

(あと、マジで腰、ほせぇ)

なんだこの腰。内臓詰まってんのか。俺の腕にいい感じでおさまりやがって。こんなのどう考えても俺のもんじゃん。可愛いかよ。

十二は思考が直情的になってきたような気がしていた。考える力がどんどんと間延びしていく。ウトウトとした眠気に誘われていた。

「十二少、寝るな」
それを見計らったように、信一がの声が聞こえた。

閉じかけた目を開いた十二は、思ったことを素直に口に出す。

「なんか吐きそう」
頭を打ったからか、全身が弱っているからか、乗り物の酔いなのか、全部かもとは本音だ。 
「しかもお前の服に血ぃついた」
それはもっと前から気がついていたことだ。そのトップスが信一の長年のお気に入りだと知っていたため、言うのが気が進まなかっただけで。

「ゲロってもいいし、血がついてもいいから、落ちんなよ」
うーん
「返事ィ!」
「はぁい」

何この人、怖い。俺に容赦がない。怪我人なんだからもうちょっと優しくしてくれてもともごもごと言おうとして、目くじら立てた顔が脳裏に浮かんで十二は止めた。

いいか、こういう時は逆らうのは得策じゃない。へそを曲げたら意外となげぇぞ、俺の恋人は。妙に拗れたくなければ素直に言うことをきいて、龍兄貴にこっそりとチクって信一の好物を作ってもらうか、それか近所で評判の甘味を手に入れてご機嫌取りをした方が良い。そうじゃなかったら洛軍を呼んできてあの坊主頭をしこたま撫でまわさせてセラピーさせるか、四仔のトコに放り込んで怒り怒られイイ感じに宥めてもらうか。だけど洛軍は忙しい男だし、四仔の方はそっちの機嫌の良し悪しも兼ね合わせる必要があるからして、やはりここは最近廟街で評判のケーキをそうケーき。

「意識を手放すなよ。落ちるから」
寝ないように一所懸命考えていたら、結局は信一の声に思考を遮られた。十二は実は閉じかけていた目を薄っすらと開けてから言った。

じゃぁ信一、なんか喋ってよ」
「お前が喋ろよ、寝ないように」
そう言われてもと困った十二は考えるのが面倒くさくて、浮かんだ言葉をそのまま口に出していくことにした。こんな状況だ、全部うわ言として聞き流してくれるだろう。それにバイク音がうるさいから聞き取り辛いだろうし。

「痛てぇ」
「城砦の子供たちを助けてくれてありがとうな」

「怒られるかな」
「虎兄貴に?子供たちが大泣きしながら架勢堂に飛び込んできたからそんなにだろ。事情を話してるだろうし」

「走って架勢堂行ったの?あの子ら」
「血相変えて走ってたら、親切な人に車で拾われてかっ飛ばしてもらったらしい」

「あぶね人さらいだったらどうすんの」
「マジでな。それにたまたま俺が架勢堂にいて良かったな」

「えー
「じゃなきゃ大事になってるだろ。兄貴出てきちまうよ」

「お前がきたの」
「俺が行くって、制して飛び出してきたから」

「そか」
「俺がいきゃ、大丈夫だから。2人いればな」

「俺ら最強」
「うんうん」

「虎兄貴は宇宙最強」
「龍兄貴もな」

「ありがと」
「かまわねぇよ」

「好き」
「はいはい」

「ラブ」
「へぇへぇ」

「早く帰ってスゴイの、する」
「帰ったらな」

「俺、今、指ハート作ってるから」
今そこ頑張るとこじゃねぇよ?」

「愛じゃん」
「そうだな、サンキュ」

「一緒に旗揚げよ」
あげない」
「ちっ、ダメか」
「どさくさやめろ」

「じゃぁ一緒にいよ」
ならどんな状況でも負けんな。ケガもするのも禁止」
「ははっ、負けねぇけどケガはさすがに無理ゲー」
……

「うそうそ。ごめん、善処するって」

その背中がそわついたようにも、苛立ったようにも感じて十二は小さく笑った。

言葉を交わさなくても、その顔の動きを見なくても、なんとなく言いたいことは伝わってくる。出会ってから10年近く、その関係が恋人へと変化してから数年。お互いの心情について察する力は、ただひたすらに深度を増していくように思う。この社会に身を置いてりゃそれら全てを汲み取って生きてやるわけにはいかないが。それはお互い様だろう、と十二は思う。

「怒んなよ、信一」

頭から血を吹いてぶっ倒れている恋人を見たらさすがに肝を冷やしただろうな、と十二は同情した。

いつも陽気で屈託がない男を、柄にもなく不安そうにさせるのは忍びなかった。いつも笑ってくれてりゃいい、って思うけれど。あと怒らせると面倒くさくて嫌だっていうのもあるけれど。だからといって言葉にしたところで『嘘』ってこともある。じゃぁ言ったって仕方がないという気持ちもあれど。

だけど、そうだな。最初からそれありきの前提で動いてちゃ、できることもできねぇかもしんねぇな。言霊ってのは存在するもんだ。

十二は信一の腰に回した腕に力をこめた。少なくとも込めたつもりだった。無性に抱きしめてやりたい気分だった。

「大丈夫だって。心配かけて悪ぃ」

信一の背中が深い呼吸で動いた気がした。大きくため息をついたようだった。恐らく胡散臭げな目をしているのだろう。信用ねぇなぁ、まぁ、ねぇかぁと暢気にも思う。

「ごめんな、信一。それでよぉ、まだ着かねぇの?」
マジで眠いんですけど。
「だから寝るんじゃねぇってば。ほら、もう着いたぞ」

再三閉じかけた目を十二が開ければ、そこには朗々と空へ高くそびえ立つ九龍城砦。過去を捨て去った十二にとっては九龍城砦は実家そのものだ。今でも足繫く通うそこには、十二少の“譲れない大切”のちょうど半分がたっぷりと詰まっている。つまりだ。

ああ~、今度は四仔と洛軍に怒られる。
あの2人もめんどくせ~。

嫌じゃん、と思って目を剥いていれば。
「いいじゃねぇか、怒られてるうちが華だろ。それもハートだ、ハート」
十二と同じだった。声どころか顔すら見ていないのに十二の心中の“ぼやき”を聞いたかのように読み取ってくる信一が言う。

「言っとくけど、俺からの小言もまだ終わってねぇからな」

もはや少し楽し気な色合いを含んで意地悪く言う信一に。

(ん~~~~、愛)

冷や汗をかいた十二少はそう、前向きに捉えることにした。