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めやぬら
2025-09-28 17:02:48
12052文字
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温泉旅行(1日目〜2日目早朝)
不定期週刊燐一
温泉旅行の話、前半。これまで公開していたもの+@をまとめました。
ちゃんと帰るとこまでが旅行なので、そこまではなんとか書きたいです。
でも旅行で何をするのか分からないので、ご存知の方教えていただきたい。温泉街って何するんですか……
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二日目 早朝
さて、温泉街のシーズンはいつだろう。大体は長期休み、あとは秋冬だ。寒さの中で湯気に包まれ温かな湯に浸かるのは、最高の贅沢と言っても過言ではない。
そのシーズンを外すとなると、そりゃ行楽に向かない時節となる。秋よりも夏に近い日取りでは、天気だって崩れやすい。
(雨降りそうだな)
燐音は一人、薄明るい朝の空を眺めながら、湯に浸かっていた。
昨夜は一彩の色に当てられてひとしきり一人で騒いだあと、いつの間にか寝てしまっていたらしい。起きたら布団がかけられているわ弟は隣で寝てるわ、時間を見たら朝の六時にもなっていなくて虚を突かれるわ、という有様。早すぎた寝落ちのお陰で全く眠くないので、風呂でも入るかと、寝てる一彩を起こさないよう出てきた次第である。
こんな朝っぱらから、と思わなくもないが、いつも酔って入りそびれた時とか朝にシャワー浴びてるし、温泉旅行だし、と誰ともなく言い訳をした。
熱くはない湯に浸かってみると、流石に早朝だからか空気も静かだ。鳥の囀りだけが響き、木の給湯口から水が流れる音が細やかに聞こえる。少しだけ湿気を含んだ風に吹かれたって痛くも痒くもない。縁に背を預けて、昨夜の一彩のように景色を見上げた。
六時前にもなってくると日は出ている。曇りの隙間から光が差し込んで、所々銀に光り輝いている。手放しで良い天気とは言えないが、屋内にいる分には問題ない。空を覆う雲を灰色に淀んでいると見るか、銀砂のようと言うかは、その時の気分次第。今は後者の気分だ。
「ふぅ
……
」
ぱしゃ、と手遊びに湯を弾くと、浅い泡がほんの少し流れ、すぐに割れる。
たまにはこういうのも良いもんだ。静かなのは嫌いじゃないし、早起きするのも悪くない。自分から目覚ましかけてまではやらないけど。
完全に気が抜けて、温泉を楽しんでいたとき、背後で物音がした。シャッとシャーシの擦れる音のあと、がたがた、ばたん!と騒々しい。一体なんだと振り返れば、弟が足にシーツを絡め、ひっくり返ってすっ転げていた。何やってんだあいつ。
そのまま観察していたら、もだもだしていた一彩はシーツを蹴飛ばして起き上がり、焦ったようにブラインドに手を伸ばすが、変な姿勢になっているからか届かず。一度空を切った手のひらを遮二無二広げて、倒れ込むようにジャッ!とブラインドを下げた。何してんのこいつ。
「起きたんなら出てこいよ、気持ちいいぜ」
窓越しに声をかける。朝方のため声量は落としたが、弟には聞こえているはずだ。うすいブラインドの向こうの影は見えないが、なんやかしらの気配が動く。そしてしばらくしたら、カラ、と僅かにガラス戸が開いた。覗き込むようにして顔だけ出すのに手招きすれば、すこし視線を彷徨わせたあと、恐々と簀に足付けた。
「おはよーさん、朝から元気だなァ」
「
……
大浴場に行ったと思ってた」
「それは面倒くてさ。にしても、あんな驚かなくていいだろ」
さっきの慌てっぷりを思い出すと笑える。まさか俺がいると思っていなかったとしても、あんな漫画みたいな転びかたするか?普通。笑いを噛み殺すと、一彩は寝起きでぼさぼさの頭を掻いて、むっと口を尖らせる。
「だって、いると思っていなかったし
……
それに、その」
「ンー?」
「
……
やっぱりなんでもない」
「オイオイ、そんな思わせぶりなの、見逃してやるわけねェじゃん」
ぷいっと踵を返そうとするのを濡れた手で引き留める。少し袖が濡れてしまったかもしれないが、どうせすぐ着替えるのだ、構わない。腕を引き寄せ、ふざけて顎をつかんで目を合わす。強引すぎない程度、ほんのお遊びだ。
「おら吐けよ。お兄様に見惚れちまった?ン?」
「
……
そうだよ」
「
……
え」
けれども、一彩は悔しげに眉を寄せ目を逸らす。頬が赤いのは、気のせい?
「だって、兄さんの上裸なんて小さい頃以来見ていないし」
「言い方ァ」
「すごく、綺麗というか」
「キレイ」
「驚いてしまった
……
しなやかで均整も取れているし、鍛え上げられていて、見惚れて
……
本当に見て良いのかなって、どきどきした」
頬を掴まれて逃げ場がないからか、ほんの少し目を逸らしてしまった一彩。むにむにしてるほっぺがやらかいなァとか関係ない事に逃げる思考は、赤裸々すぎる弟の本音にぶっ刺されて機能を失う。マジで言ってん?こいつ。
「っまえさ
……
マジ、良い加減にしろ
……
」
「えっ、あの、兄さん?」
恥ずかしげも無く煽るようなことを言って、どう返せばいいやら。茶化すつもりがやり返されたみたいで釈然としない一方、されるがままに頬を揉まれる弟を可愛いと思うのは手遅れか。
いや、手遅れじゃない。脳内の零ちゃんが、弟は何時いかなる時も可愛いものじゃぞいと言ってるからまだ大丈夫。
「そういうコト、他の奴には言うなよ」
「え?どうして」
「勘違いされっから」
「勘違い
……
なにを勘違うのか分からないけど、兄さん以外には言わないし思わないよ。可愛いとかかっこいいはともかく、綺麗だなんて」
「
……
だからァ、そういうとこ」
またそういうことを恥ずかしげも無く。実の兄に向かって言う言葉じゃないというのに、その感性自体どうかとも思うし、素直すぎるのも毒である。けど一番終わってるのは、満更でもない俺自身だ。
掴んでいた頬を指でつついて解放すると、冷静に摩って首を傾げている。天然人誑しは自覚が無いようで、きょとんとした表情のまま、少し乱れた浴衣の合わせを整えた。
「どういうところ?」
「別にィ?なんでもねェ。今何時?」
「たしか六時過ぎだったと思うよ。そういえば、兄さんにしては早起きだったんだね」
「うるせェよ」
そっくり返っていたのが嘘だったみたいに、平然としている。調子を狂わされて朝から一敗、という感じだが、まあ可愛い弟が見られたので良しとしよう。
さて、それにしてもまだ早い時刻だ。朝食会場は七時位に行けば十分だろうし、寝直すにしては微妙に足りない。
「んー
……
どーする?お前も入る?」
「なっ
……
!」
「朝メシまで時間あるし。兄弟裸の付き合いでもする?」
「し、しない!」
からかい混じりに誘ってみたら、寝起きにひっくり返った慌てようが戻ってきて、顔を赤くして否定する。反応の良さがいたずら心を煽るから、先ほどは不発に終わってしまったお遊びを発揮してみる。
「遠慮すンなって〜」
「遠慮じゃないよ!」
「お前も見惚れたっつってたじゃん」
「言ったけど、それはその、そんな意味で言ったんじゃなくって」
思ったよりも初心な態度が可愛くて、もう少しいじめたくなって、ぐいっと腕を引っ張った。たたらを踏んだ一彩はぎゅっと目を瞑って顔を背ける。その耳元、朝には似つかわしくない色を少しだけ混ぜて囁く。
「アハ、そんな顔赤くしてたら、説得力無ェよな?自分がどんな顔してるか
……
教えてやろうか」
多少は翻弄されたら良い。俺を振り回したお返しだ。そんな意趣返しは効果覿面だったのか、みるみるうちに真っ赤に染まる頬。戸惑いと照れでいっぱいいっぱいの一彩を眺めると、優越感で気分が良い。
「っ〜〜!!」
そしてキャパオーバーになった一彩は、力任せに腕を振り解いて俊敏に距離を取り、囁かれた耳を塞いだ。
「うおっ」
「あっ、朝からそんな、恥ずかしげも無く!!兄さんの馬鹿!」
声が裏返った一彩の非難に対するお前が言うな、の言葉は、ピシャン!と閉まったガラス戸で遮られてしまった。
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