保科
2025-09-26 19:30:02
2159文字
Public スタレ
 

瞳に映る貴女

3.6ネタバレ注意 アグサフェ
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「セファリア様のお考え?バカバカ、俺たちに分かるわけないだろ!」
「セファリア様のポーカーフェイスって、どんな時も一切崩れないからなあ。淡々とえげつないレイズ決めて蓋を開けたらただのブタなんて事はザラだぞ?」
「あの方は法だけじゃない――そもそもの詭術のタイタンに愛されてるんだぜ。俺たちごとき平民では到底測れやしないってこった!」
がっはっは、と、酒場のおじ様方が笑いながらジョッキを空にするのを、私は食事を運びながら、どこか遠い世界のように聞いていた。
セファリア。この黎明の崖で僭主を務める女性の名だ。ドロス出身という以外のプロフィールは不明――やれタイタンの生まれ変わりだの、やれサイコロとカードの子だの、適当な噂が広まっており、きっとそのどれもが嘘だろう。
確かなのは、彼女は『詭術』が掠め取った『法』の番人の一人として、今や全ての争いの代わりとなった賭博の審判を務めていること。そしてここ、黎明の崖の僭主でもあること。最後に、――彼女が今、一人の少女の身柄を「賭け」の結果、手元においている、ということだ。


……帰り、ました」
玄関戸を押し開け、小さく呟くと。数秒もせず、耳聡い彼女が部屋の扉を開けて顔を覗かせる。
「おかえり〜、ライア。
過酷な社会勉強はどうだった?」
頭に生える2つの耳のとおり。猫のように細められた目は、クタクタの私を見定めるようだった。試されている――何を口にするべきか少し迷って、結局、思ったままを言葉にした。
……安酒の匂いがきつかったです。少し酔いました。
配膳の仕事は単純ですが、効率を重視すると色々工夫のしがいがあって、まあ、……面白かったです……
今日、セファリアから、彼女の所有物である私に下された命令は、街の酒場の手伝いをしてくることだった。気まぐれに私にいろいろ命じて、いったい何がしたいのか、その考えが測れたためしはない。
「ふーん。そっかそっか。お疲れ様、頑張ったね」
てっきり、からかいの言葉でも返ってるのかと身構えていれば。ぽん、の頭に乗せられた手が、ゆるゆると髪を梳くように撫でてくる。予想外の態度に、思わず固まって――こそばゆさに我に返る。もう!と手を掴んで持ち上げた。
「セファリア……!貴女、あまり私を子供扱いしないで、と言っていますよね!?」
「えー。そうは言ったってさ、ライアちゃんこんなちっこいし?」
こんな、と、瞬きのうちに、小さなコインを出して示すものだから。
「そ――そこまで小さくはありません!」
もう!と肩を怒らせる私に、けらけらと楽しそうに笑うセファリアは――やっぱり。とても、市井で語られる人と同じようには思えない。


……何故、野菜を残してるんですか」
「いやあたし宗教上の理由で野菜とか食べないし?ごめんごめん言ってなかったね、今後はヨロシク〜」
「じゃあ今すぐ改宗してください」
「あーーー!!めっちゃ追加で入れるじゃん!何でそんなことすんの!?」
子供みたいに駄々をこねて、恨みがましい目で睨みつけてきたり。

「ちょっと……!髪を濡らしたままで歩かないでください、痛みますよ」
「そのうち乾くし面倒〜」
「貴女って人は……仕方ないです、私が乾かしますからそこに座ってください」
「えーいいの?
悪いねライアちゃん」
「ちっともそんなこと思ってないでしょうに……
鼻歌交じりにくつろぐ背中で、尻尾がゆらゆら揺れていたり。


…………
そんなふうに、なんとなく、セファリアのことを目で追っていれば――パチリ、手元の書類を見いていたはずの彼女と目が合う。
「どーしたの。
なんかやけに熱心に見てくるじゃん。あたしの美貌に見惚れちゃったってことかにゃ〜?」
「違いますけど」
「即答。あーあ、つれないね」
肩を竦める彼女は、けれど視線を戻すことなく、こちらをじっと見つめている。まるで、私のそこまで見透かすような眼差しに、先に音を上げたのは私だった。
……その」耐えきれず、口を開く。
「酒場で、貴女が何を考えているかわからない……と。話を聞いたので……確かめたくなって」
「あ、それ、よく言われるヤツ!ずっとヘラヘラしてるな〜ってさ。
事実そうなんだけど――
「やはり、そんなことはないな、と、思いまして。
皆さんは、あまり貴女のことを見てはいないのですね」
―――
なぜか動きを止めたセファリアが、ぱちくりと瞬く。
……あの、どうかしましたか?」
失礼だったろうか。改めて、彼女の言葉一つでまた路頭に迷う身の上なことを思い出し、体を強張らせる私に。
「いや。なんか、ウン……
くつくつ、喉を鳴らして笑うセファリアは、いったい何がそんなに面白いのか。肘をついた手で頬を抑えて、そっかあ、と染み入るようにつぶやいた。
「ライアは、あたしの考えが分かるくらい、あたしのことよく見てるんだ?」
なんだかその言葉が、頭を撫でられるのと同じくらいに、心の奥を擽るから。
私は、表情を見られないようにそっぽを向く。
――仕方なくです。貴女が、私を、この家に置くから」
「そーだね、仕方なく……仕方なく、あたしの魅力にメロメロってことで?」
「違います!もう、適当を言わないで、セファリア――!」