赤ん坊のジョシュアが差し出した指を握った瞬間、全てを思い出した。幼い頃の平穏な時間、フェニックスゲートでの別離、自治領島での再会。そして旅の果てにオリジンでまた彼を守れず死なせてしまったこと。
これは所謂前世というものなのか、それとも予知か。ひとつ確かなことは、この記憶を繰り返してはいけないということだった。
じゃあ具体的にどうすればいいのか。考えに考えて至った結論は、ジョシュアと距離を置くというものだった。絆がなければジョシュアが無茶をしてまで俺をアルテマから守ろうと奔走することもないだろう、と。懐っこく声をかけてくれるジョシュアを冷たく突き放すのは心が痛んだが、彼の最期の顔を思い浮かべて耐えた。冷たい兄だと思われてもいい。二度とあんな苦しい思いをさせるものか。
当然ながら父上はいい顔をしなかった。兄弟支え合ってロザリアを守っていってほしいという胸中を知っているから申し訳なかったが、こうする他ない。全て、は無理だろうが、あの記憶で取りこぼしてしまったものを出来るだけ救いたい。そのためなら汚名の一つ二つ増えたところでどうということはない。そう思っていた。
(甘かった)
自分の他に記憶がある人間がいる可能性をもっと考えておくべきだった。周囲の人たちに記憶がある素振りがないからといって油断してはならなかったのだ。しかもその記憶を持つ者が……よりにもよってあのバルナバスだなんて。
まさに青天の霹靂だった。突如として現れたアインヘリアル──オーディンはまずドルスタヌス島を一晩で制圧すると、返す刃でロザリアに進軍してきたのだ。顕現したオーディンが直接乗り込んできて混乱極まるロザリス城内。記憶の中と寸分違わぬ姿で、彼はそこにいた。
「反応はいいが、軽いな。頭の中では対応出来ても身体が追い付いていないと見える」
「っ……クソ、」
あっけなく剣が弾き飛ばされる。バルナバスの言う通りだった。子供の身体で成人男性の剣をいなせるはずもない。ましてや彼はドミナントでありながらアカシアで、人を超える力を手にしているというのに。
「いくら記憶があろうと今のお前は十五にも満たぬ幼子。無駄な抵抗はよせ」
肩口を踏みつけられ床に縫い止められた。なんの抵抗手段も持たぬ己の眼前に斬鉄剣が翳されて息が上がる。
「いくら脅されようが、俺は器になんかならない……!」
「だろうな。だがお前の意思など些末事よ」
不吉に輝く青い切っ先が、クライヴの胸に沈む。
「──ぁ、あ、ああ゛あああア゛!!」
痛い、痛い、痛い痛い痛いいたいいたいいたい!気が触れそうな痛みの中、遠くでジョシュアの声を聞いた気がした。幻聴だ。今のあいつが俺を助けに来るはずがない。最期まで都合の良い夢を見ている自分に吐き気がする。
(すまないジョシュア……すまない、)
今度こそ守れると思ったのに。後悔はすぐに痛みに呑まれ、クライヴの意識はぶつりと途切れた。
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