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保科
2025-09-23 14:53:27
4045文字
Public
スタレ
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名前を呼んでよ
アグサフェ 現パロって200色あんねん
ト市(k_toichi)さんのツイートに感銘を受けて勝手に書きました
オタクはユニクロしか行かないから服の知識がない
『
――
アグライアさんは新進気鋭のデザイナーとして、今大会に出場し
――
』
「
―――
」
その、目を焼くような輝きを。
ビルの屋上、街頭モニターに映った黄金色の女を、視界に収めた瞬間を、漸く、漸く彼女を見つけた瞬間を
――
あたしは生涯、忘れないだろう。
アグライア。デザイナー。大学在学中から才覚を現し、数々の服飾コンペで優勝。卒業後は自身のブランド、『金織』を立ち上げ、多くの有名人に重用される。著名なファッションショーにも出展を重ね、今や世界的な有名ブランドになりつつある
――
「
――
はあ」
彼女を知ってからの数年間、幾度となく読み返したボロボロの雑誌をひっくり返して、自室の床に寝そべりながらため息をついた。
アグライアというその名前は、あたしにとって、普通とは少し違った意味を持つ。
――
オンパロスという世界で、千年を生きた記憶が、あたしにはある。それは夢と呼ぶにはすごくリアルで、けれど実際あったにしてはひどく荒唐無稽な記憶だ。
この世界の常識に照らせば信じられるようなものでもなく、けれど、だからといって無視できるようなものではなかった。
――
あたしという存在の根幹に、深く紐づいている。
『サフェル』という少女は、義賊であり半神である、英雄の記憶と、平凡な学生である現世の記憶が混ざり合った存在だ。
そして
――
英雄の記憶は、絶えず一人の女性を求めている。
「
……
ライア」
口馴染みのある名前をこぼして、あたしは黙り込む。
アグライア。ライア
――
サフェルの恩人であり、かの火を追う旅のリーダーであり、そして。
『サフェル』が、ついぞ謝れなかった人だ。
雑誌の小さな枠の中、悠然と微笑む女性に、会いたいという渇望はある。
でも、会ってどうする?謝りたいのも、和解したいのも、全部『サフェル』のエゴだ。前世でも散々振り回して、今も彼女の意思を無視して願望を押し付ける?
――
そんなの、できるわけがない。
「
―――
」
ない、けど。
「
……………
」
もし、もう一度、あの声で名前を呼ばれたなら。あたしは死んだって良い、なんて、くだらないことばかりいつも考えている。
「
――
個展?」
「ああ、確かサフェルさんは
……
金織のフォロワーだったよね」
大学の食堂、向かいの席に座るファイノンの視線が、仕舞いかけのあたしの財布に向けられる。高価な金織の作品の中で、あたしが持っている数少ないアイテムだ。
「まあ、そんな感じ
……
だけど
……
」
言葉を濁すのは、けしてブランドそのもののファンとは言い難いからだった
――
動機が不純すぎるし。
「だよね、良かった」
同じ学部のよしみでちょくちょく一緒にお昼を食べているファイノンは、何かとあたしを気にかけてくるやつだ。
友達がいないのかといえばそんなことはなく、「僕がそうしたいだけだよ」と笑われた時は思わずすねを蹴ったもんだ。あざといヤツ。
「
――
実は、バイト先の知り合いから金織の個展のチケットをもらったんだよ。1枚だけで
……
それで良かったらどうかなって」
彼がクリアファイルから取り出したのは、ご招待と書かれたチケットだった。
個展のことは知っていた。海外を拠点とする彼女にとって、ブランドを立ち上げてからは国内では初となる展示会だ。行こうか随分迷っていた
――
机に置かれたチケットに手を伸ばそうとして、その手を既で止める。
「
……
あんたは行かないの、坊や」
「僕?いや、会場が遠方だし、僕は別に、こういったデザインやブランドに興味はないからね
……
。それに、僕みたいな門外漢がついて行っても、サフェルさんも困るだろう」
はは、と困ったように笑うファイノンに、つい、そんなことはない、と、口を出そうとして
――
止める。
「
――
あっそ。見る目ないね〜」
「面目ない。年相応のいいものを身に着けろ、とはモーディスにも言われてるんだけど、なかなか難しいね」
オンパロスと名前、姿、性格が瓜二つの人は何人も見かけたが、その誰もが過去の記憶を持っていなかった。こうして言葉をかわすファイノンも、名前の出たモーディスもそう。思う所はあるが、できることもない。それだけだ。
チケットを手に取る。会期、会場、改めて確認する。どれも無理のない範囲だ。
ずっと、決めかねていた。行くか、行かないか
――
「
………
」
――
これも、救世主様の導きか。
「
……
じゃ、有り難くもらっとく。返せって言われても返さないよ?」
「勿論、そんな事は言わないさ。
代わりに、この前の社会学のプリントの写しをもらえたら嬉しいな。サボっちゃったから」
「ちゃっかりしててまあ
……
」
カバンに入れっぱなしのプリントを取り出しながら、ぼんやり考える。
アグライアは、どうなんだろう。記憶、あるのかな。
……
きっと、何も覚えちゃいないのだろうけど、それならやっぱり、会わない方が良いに決まってる。
「
――
すっご」
高層ビルの中に作られたギャラリーを貸し切りにしているらしい。スマホの案内に従い辿り着いたビルの大きさに、あたしは圧倒された。そもそも、こんな都会にはおいそれ足を運ばない身の上だ。ここに来る道中だって、洗練された街並みにお上りさんと化していたというのに。
「
……
え、これ追い出されたりしないかな
……
」
自分の格好を思わず見直す。スキニーパンツと、シャツの上にフード付きのパーカーを羽織っただけ。見苦しくはないけれど、ドレスコード的にどうかと言われるとかなり厳しい。
「ま、その時はその時か
……
」
腹を括って、ビルに入る。各所に配置された案内の看板にに従ってエレベーターに乗り、受付を済ませる
――
幸いにして服装を咎められることもなく、あたしはスムーズに入場できた。
「
……
」
平日の昼に来たこともあって、会場の人影はまばらだった。おかげで気兼ねなく鑑賞できる。
展示は、これまでにアグライアが手がけたデザイン画や、実際にランウェイで使われた服の展示もある。どれも知識としてはすでに知っているものだけれど、実物となればまた話は違う。広いギャラリーをふんだんに使った展示一つ一つに、つい魅入ってしまう。
――
あ、これ、ライアのだ。
紙の中、オンパロスとは全く異なる言語で綴られた文字は、けれどその筆致は確かに彼女のものだった。店の隅に積まれていた彼女の没アイデアで折り紙をしていたから、よく覚えている。懐かしさに浸ってしまう。
いくつかの展示を巡った後、一つの衣装の前で立ち止まる。
「
………
わ
……
」
美しい、深海を思わせる色合いのドレス。これは新作らしい。ああ、こういうの、セイレンス姉さんに似合いそうだなと
――
ふと、視線を下げた先の作品名。
『海洋』。
「
―――
」
ちり、と首筋に違和感が走る。
まさか。でも、いや
――
次の展示の衣装に足早で向う。
これも、新作。白と黒のツートンカラーに、差し色の金色が特徴的なスーツ衣装だ。作品名『救世主』。
――
確信に至った。
「
………
ね、救世の坊や、あんたやっぱ来るべきだったって
……
」
乾いた笑いを浮かべながら、急ぎ辺りを見渡した。テーマについて記載されている案内を見つける。文字を追う。『本展示に向けて、架空の英雄をテーマとした衣装を作成し、新作展示としました
――
』
――
心臓の鼓動が早い。手の内側が汗でしめる。ライア、あんた、覚えてたんだ。
――
あたしだけじゃ、なかったんだ。
「
……
そっかあ
……
」
安堵に座り込みそうになる足腰を、気張って堪えて。感極まった心地で顔を上げ
――
隣にも、もう一着、新作が置かれていることに気づいた。
視線を向けて、凍りつく。
「
――――
」
黒と紺を基調とした、カジュアルさのあるドレス。シンプルにまとまっているが彼女の作品らしく華やかで、裾についたフリルが遊び心を感じさせる。
作品名
――
『詭術』。
「
―――
あ」
あたしだ。彼女の中の、あたしが、ここにいる。
――
綺麗。
そう思った瞬間、ぶわ、と、涙がこぼれ出した。人目も憚らずしゃくりあげそうになって、慌ててハンカチで押さえる。だめだ、服見て泣いてるなんてヤバすぎる。フードもひっかぶって、なんとかバレないように試行錯誤を重ねても、それでも涙は止まらない。
――
嬉しい。どうしようもなく嬉しい。アグライアの中に、まだ、あたしはいたのだと。それが、どれほどの喜びかなんて、きっと当人にだってわかりはしない。
「
……
お嬢さん、お嬢さん。大丈夫ですか」
――
どれくらい泣いていただろうか。過去を想い、今を想い
――
時間感覚もめちゃくちゃだ。いつの間にか隣に立っていた女性が、あたしに声をかけてくれる。そりゃ、棒立ちの客が泣き続けていたら、周りから心配もされるだろう。客観的に考えて、思わず笑ってしまう。
「
……
あ゛ー、
……
その、スミマセン
……
ちょっと感極まっちゃって」
フードで遮られて顔はわからないけれど、口ぶりからして年上のようだった。ハンカチで強くぬぐって、顔を整える。多少は呼吸も楽になってきた。
「ふふ
――
そうまで感じ入っていただけて嬉しいです。
私も、この作品には思い入れがあるのです。以前から構想はあったのですが、なかなか細部について決定せず、苦労しましたので」
――
変な話をする女性だな、と思った。まるで自分が作ったみたいな。涙でふやけた頭でそんなことを考えながら、ず、と鼻をすする。なにはともあれ、この場を離れよう。いつまでもいたら迷惑だ。
「
……
そーなんですか。あたしもこの作品、好きですよ」
「
――
、待って」
「
……
はい?」
返事を一つ。そのまま歩き出そうとして、不意に腕をつかまれた。
なんだろうか。泣き腫らした顔で、隣を見上げて
――
透き通る緑の瞳があたしを捉える。
思考が、停止する。
空白の中。写真越しに散々見た愛しい顔が、震える口元が、
「
……
セファリア?」
「
―――
」
あたしの名を紡いだのなら。
――
どうしよう。今日死ぬのかな。
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