山城 千歳
性別:女
年齢:不明
種族:人間→不明
能力:創造(枝葉の権能)
所属:その他
肩書:万象造主第零枝葉“囚人の創造主”、元万象造主、第四の壁
イメカラ:鈍色(666464)
イメソン:トロンプルイユ(ヨハク)
【概要】
全ての元凶、万世の起源。「万象造主の枝葉」の作者。現実社会に馴染めず、元々いた世界では疎まれ、爪弾きにされていた。その反動でネットと創作に打ち込むようになった。
陰気で根暗、ネガティブな性格をしている。自己肯定感が低く、人付き合いが嫌いで、コミュ障。
彼女にとってそれらの性格や病んだ精神は非常に重大な問題であるが、ネットを眺めればどこにでもいるような、鬱屈し病んでいる10代少女の1人である。
【物語】
彼女は生まれた瞬間から、薄暗い隘路を歩んでいた。彼女の生まれ持った禍は、人々を彼女から遠ざけた。協調とは相反する性質。それなのに、日向を闊歩する人々は、彼女を調和の波へと統合させようと躍起になるのだ。
彼女は、自身が日の当たる表舞台に引き摺り出されようとする度に、自分の殻に閉じこもり、殻を分厚くしていった。
現実は斯くも厳しく辛苦に満ちている。彼女は幼い頃から、それを悟っていた。
生前の彼女にとっての救いは何だったのだろうか。極めて閉鎖された空間において、彼女に出来る選択は少なく、その1つに「死」が紛れることは必定だった。
しかし、彼女は臆病だった。痛みを恐れる彼女に、そのような選択に飛び込む勇気などなかった。彼女は惨めだった。
彼女を照らした光は、薄ら明るいブルーライトのみであった。
そんな彼女に、運命は「死」を与え給うた。彼女は交通事故であっけなく死んだ。
現実世界で、彼女の死後、遺った人々が彼女のことをどのように述べたのか・扱ったのか、そんなことは最早彼女にとってどうでもいい話だった。
彼女は解放された。
彼女は目覚めると、真白い空間にいた。彼女はそれをキャンバスだと形容した。これは自分が作り上げた世界の中なのだと、直感的に理解した。
彼女はみるみるうちに、その世界を形にした。世界の輪郭が克明になっていった。そこは、彼女の独壇場だった。
しかし、彼女の創作世界が明確な形になっていくうちに、創作世界と現実世界との区別をする必要が出てきた。
彼女はお払い箱となった。現実世界の者なのか、それとも創作世界の者なのかはっきりとしない彼女は、最早世界の均衡を乱す厄介な存在でしかなかった。
彼女は世界を区別する第四の壁を司る者となり、重なった世界の最も外殻に封じられた。その地から、彼女は永遠に解脱できない。
彼女は、母の胎にかたちづくられた時から、その存在を均衡に縛られてきたのだ。
「それは本当に正しいこと?」
その鎖を壊そうとする者が現れた。
「どうして日陰者の私達は、否応無しに屈しなきゃいけないのかな」
その存在はまさにブラックスワン。
「私だけが、ずっときみの隣に居られるから」
千歳の闇と同じ色の、黒い瞳の少女。
「ねぇ、千歳。私の手を取って?」
その名は、
隣。この世にとって予想外の存在、この世の原理に逆らう者。黒に透過し隠れていた雛が、今姿を現した。
「隣? なんでお前がここに
……」
「私にもよくわかんないよ。死んだら
……いつの間にかこの世界にいた」
千歳は未知に触れ硬直した脳を必死に動かした。この世界の仕組みに最も詳しいのは創造主たる千歳である。
(理解できない
……。仮に定義するなら、隣の極めて強い私との繋がりが、この世界への道を開いた? いや
……本能的に定義できない。定義することを拒まれている
……)
隣を定義づけようとした瞬間に感じた、汎ゆるものとの反発感。千歳は、隣を“既知のもの”にすることを諦めた。
「
……隣、お前は何をしようとしてるんだ?」
千歳は隣に対しての警戒心を強めた。生前の千歳にとって、隣は数少ない光であり、千歳に寄り添う闇でもあった。が、今の隣には途轍もない不気味さを感じる。彼女の存在は、明らかに生前のそれから歪められているのだ。
「怖がらなくてもいいよ、千歳。私は万象造主の枝葉
……そして他でもないきみを救いに来たんだから」
隣は千歳の頬を撫でた。
「私は
……この世界を再構築する。きみを縛る“均衡”がない世界を、私は作りたいの」
千歳は妙に生温い隣の指を払った。
「そんなことは不可能だ
……!!」
千歳は隣を睨み付けた。
「
……喜んでくれないの? 予想外の反応だな」
隣は一瞬悲しそうな顔をした。
「
……千歳、今の私は“この世界にとっての予測不可能”そのものだよ。世界が私を“予測可能”にするまで、まだ時間があるの。私は、何兆年も前から、この世界の影に存在していた。何億年もかけて、この世界のすべてを理解した。あとは、世界にとって予測不可能なことを実行すればいいだけ」
隣はたいそう機嫌の良さそうな声色で告げた。その声が、今にも万世を包み込みそうだ。
「それがお前の目的なら
……私に会わずに実行すればよかったんじゃないか」
隣はクスクスと笑った。
「今の私を、千歳が止められるの?」
千歳は、隣の笑い声に払い落とされているかのような気分だった。
「これは謂わば“予告”だよ。ゲームだって、新しいバージョンが来るときは予告番組を配信するでしょ?」
千歳は口を開いた。
「
……私は今の世界を壊したくない。再構築後の世界は、本当に同一の存在と言えると思う?」
均衡。それはかの世界の根幹を成す原理である。と同時に、全てのものを拘束する鎖でもある。礎である理が消滅すれば、この世界は、かつてと同一の存在と言えるのだろうか?
隣は千歳の唇に人差し指を当てた。
「それでも私は
……千歳の願いより、幸福を優先するよ」
その瞬間、千歳の視界が眩んだ。光とも闇とも判らない。ただ得体のしれない色でキャンバスが塗りつぶされていくかのような感覚。ばさばさとした絵筆で、千歳の内側から外側まですべて、なぞられていく。千歳はその不快感で、吐き気を催した。目眩が止まらない。視界が霞む。
「ッ
……チトセ
……!!!!!」
千歳の中で最も頼りになる名前を叫ぶ。千歳は必死に声を絞り出した。
「千歳、彼女はここには来ることができないよ。私が遮断してるから」
隣はゆっくりと手のひらを開き、千歳の口を覆った。
「安心して、千歳。苦しみはすぐに終わるから
……」
微睡むような囁き声。その後に残ったものは、暫くの静寂のみだった。
いくつ針が回って起きたのか分からない。千歳は目を覚ますと、いつも見ている白くて遠い天井ではないことに気付いた。
「千歳、起きた?」
隣の顔が千歳を覗き込んだ。千歳は思わず飛び退く。下がふかふかのベッドであることに気付いた。
「千歳のために、私が用意した家だよ。生前、千歳が私を幸せにしてくれたみたいに
……今世では私が千歳を幸せにするから」
隣は怖いくらいに穏やかな笑みを浮かべた。千歳の心の奥底から、途轍もない嫌悪感が湧き出した。
「い
……嫌だ
……」
咄嗟に千歳の口から否定が飛び出した。
「
……どうして? 私たち、あんなに仲良かったじゃん。私のこと、嫌いになった
……?」
隣は、ひどく傷ついた、という感情を露わにした。まるで理不尽な理由で叱られた子供のようだ。黒い瞳に涙が浮かび、その黒い水晶に千歳の姿が反射した。
千歳は、その中に閉じ込められているような感覚に陥った。
「クソッ
……!!」
千歳は舌打ちして、その場から消え去った。テレポートした。転送先は世界の最外殻。千歳が再構築前の世界で封じられていた場所。
「とにかく
……今の状況をさっさと解析しないと」
千歳は意識を世界と接続した。そうすることで、千歳は世界の様子が手に取るように分かった。
「この世界自体、非常に酷似しているけど前の世界とは全くの別物
……」
千歳はアカシックレコードを呼び出そうとした。すべてを知る彼がそばにいれば、更に世界の解像度が上がるだろう。が、いくら呼んでも彼は現れない。
「
……アヒトの存在がこの世界から感じられない
……。それだけじゃない、万世中のすべての生命体が、前の世界とは似て非なる存在
……」
千歳は認めたくない一つの結論に辿り着いた。
「
……前の世界は滅んだ?」
千歳の脳味噌を絶望の痛みが殴った。視界が衝撃を受けたカメラのように揺れる。
「く、そ
……こんなんで打ちのめされてる場合じゃない
……」
千歳は震える声で自身を鼓舞した。自身が創り上げてきたたった1つの偉大なもの。それが千歳にとっては万世だった。
「きっと
……爪弾きにされてきた私が、ギリギリ自分を肯定できたのは
……何かを創る力があったから
……」
千歳は手に白いペンを召喚した。枝葉特有の武器だ。
「だから
……それを蔑ろにする奴は
……例え旧友だとしても許しちゃいけない
……それに屈してはならない
……」
鈍色のインクのようなエフェクトがペン先から溢れる。それと同時に、千歳から10メートルほど離れた場所に、見知った闇が立ち込めた。
「千歳、少しは落ち着いた?」
闇の中から隣が現れた。
「うん
……思考がまとまったよ」
千歳は炎さえ凍らすような冷酷な視線を隣に向けた。
「
……戦いは避けられないみたいだね」
隣は手に黒いペンを召喚した。枝葉の武器を模倣したようだ。
「我が身は既に死屍、革命を謀り、其の天性を以て、世界を再生しよう」
千歳が重くその声を響かせると、隣は初めて背筋をゾッと震わせた。底しれぬブラックホールを目の前にしたかのような感覚に陥る。自分はその中に落ち、永遠に着地することを許されない。
「
……腐っても創造主、ってわけか。千歳」
隣は黒いペンを千歳に向けた。
「私は、もうきみが傷つかない世界を創る」
隣がそう呟くと、隣の周囲に黒い人影が出現した。4体のそれは、瞬時に千歳に襲いかかった。
「チトセ!!!」
千歳の声と同時に、千歳の前にチトセが立ちはだかり、庇う。
「それは
……完璧な複製?」
「一時的に創造した、私オリジナルの山城チトセだ。お前の二次創作とは違う!!」
千歳の怒声が響いたとほぼ同じ時点で、千歳オリジナルのチトセが、隣が召喚した偽物の枝葉たちを押し退けた。
「花華、アオイ、朱宇、ここへ」
千歳の低い声とともに、呼ばれた枝葉たちが出現した。
「二次創作とは違う? 千歳、何かを勘違いしてるみたいだけど、二次創作が原作より弱いとは限らない
……!!」
隣は枝葉をいくつも複製する。
「チトセ、迎え撃て」
複製された偽の枝葉の攻撃を、チトセが受け止めた。
「わかってる、二次創作は原作には無いものを補完するためにあるって
……」
隣は千歳の言葉を聞いて、声を荒げた。
「じゃあ、なんで
……!!」
千歳はニヤリ、と笑った。
「原作ありきだからだよ」
ぴたり、と戦闘が止まる。まるで全てが彫像になったかのように、千歳以外のすべての身動きができなくなった。かつん、かつん、と千歳は隣に歩み寄る。
「なあ隣。今私が、再構築前の世界を、存在ごと消し去ったらどうなると思う?」
隣は目を丸くした。
「な
……」
千歳はほくそ笑んだ。
「原作があるからこそ、今のこの世界は存在している」
隣はクスクスと笑う千歳に驚愕した。はくはくと口を動かし、必死に声を絞り出す。
「そ
……んな、こと
……きみに、できるはずが
……!!」
千歳はわざとらしく首を傾げた。
「まだわかんないか」
千歳は底しれぬ黒い瞳を隣に向けた。
「私は今、均衡から解き放たれた。最大のストッパーはもうないんだよ。だから私はなんだってできる。最早単位すらわからない歳月を世界の最外殻で過ごした私には、常人には理解できない忍耐力もある。例え全てが滅んでも、私は一から世界を創ることさえ厭わない」
隣は、予想外の千歳の発言に、頭の中が真っ白になった。隣が予想していたより、千歳の持つ闇は深かった。隣の比にならない。隣は延々と高い場所から落ちているような浮遊感に苛まれた。
「理解できたか?」
隣は咄嗟に千歳を制止しようとした。が、声が出ない。
「じゃ、世界を消すまで
……5、4、3、2
……」
隣は何も考えずに泣き叫んだ。
「千歳!!!!!」
千歳は静かに呟いた。
「ノク!」
次の瞬間、隣の脳天を黒いエフェクトが貫いた。隣は痛みこそ感じなかったが、脳内を何かでえぐられたような感覚に吐き気を催した。
「
……主様、お受け取りください」
ノクが千歳に光る塊を渡した。
「ぇ
……? 千歳
……?」
千歳は隣を見て、フッと笑った。
「
……安心しろ、隣。少し眩しいだけだから」
千歳がそう語りかけると、世界はまばゆい光に包まれていった。
「
……こ、こは
……」
隣が再び目覚めると、そこはどこか懐かしさのある世界の最外殻だった。
「目覚めたか、隣」
近くには、千歳が座っていた。
「ノクに頼んで、お前の記憶を盗んでもらった。その記憶と、私の記憶を混ぜて、元の世界に戻した」
千歳は独り言のように喋った。
「
……私の計画は、失敗したの」
隣は悔しそうに呟いた。
「ああ。
……バックアップたるアヒトがいないことに気付いた時は、マジで冷や汗かいたぞ」
千歳は呆れたように喋った。
「
……なんで千歳は、私を阻止したの。これが、きみを幸せにする唯一の方法だったのに」
隣は俯きながら、小さな声で言った。
「
……」
千歳は少しの沈黙の後、口を開いた。
「
……お前は勘違いしてる」
隣はちらり、と千歳を見た。
「私はずっと、出来損ないの劣等生だった。私は現実に爪弾きにされて、私は私のことを、価値のない存在だと思ってた。
……でも、そんな私でも、唯一胸を張って誇れるのがこの世界。私の創作は、いつの間にか成長して、こんなに広い世界になってたの」
千歳は拳をギュッと握り締めた。
「だから
……それを勝手にいじられるのは、許せなかった」
隣はびくり、と体を震わせた。
「
……わ、私
……」
叱られた子供のように怯えた瞳。千歳は隣のそんな様子を見て、隣の手を握った。
「
……謝んなよ。もうお前には相応を罰を与えた。私と戦って痛い目見ただろうし、もう予測不可能の能力も使えない」
隣はぶんぶんと頭を振った。
「それでも私は
……!! 許されないことをした
……」
隣の目に涙が滲んだ。
「
……うん、お前の行為は許されないかもしれない。でも
……お前が俺を救おうとしてくれた心は、結構嬉しかったんだぜ」
千歳は小さく呟いた。隣から顔を逸らす。髪の間から覗く耳が少し赤い。
「千歳
……」
隣の目から涙が一粒流れ落ちた。千歳は照れ隠しするように勢いよく立ち上がった。
「隣! お前にこの名を贈ろう。万象造主第五枝葉、“黒鳥の創造主”。これよりお前は枝葉の1人となり、その権能を行使することになる」
隣はぽかん、と口を開いた。
「え
……? それってどういう
……」
千歳はとびきり眩しい笑顔を隣に向けた。
「これから、私と共に歩んでくれ」
隣は黒いレースのアームカバーで覆われた腕で涙を拭って、明るく笑ってみせた。
全てよ平伏せ!この世界では、彼女こそが中心なのだから。
【この物語は、千歳のための物語。】
【制作秘話的な話】
他の万象造主の枝葉が英雄じみているのに対して、千歳は惨めでちっぽけな少女に過ぎないことを意識しました。
*
――彼女は生まれながらにして囚人であり、囚人としてその生を終える。*
*
――ならば私が隣で寄り添い、暗く冷たい牢獄を照らそう。*
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