保科
2025-09-18 00:17:56
2500文字
Public スタレ
 

コール・ユー

現パロアグサフェ 一緒に暮らしてる2人

「では、お伝えしました通り、私は暫く出張で留守にしますので――
「それもう耳にタコができるくらい聞いた。戸締まりをしっかり、でしょ。はいはい分かりました、行ってらっしゃい精々頑張んな〜」
パジャマ姿のまま、眠そうに顔を顰めながら、しっし、と手を振るサフェルの姿を眺めて。そんなつれない態度にも関わらず、嬉しそうに微笑んだアグライアは、では、とスーツケースを引きながら玄関戸を開ける。そうして、扉が閉じようとした時――そうそう、と手をかけて。
――寂しければ、いつでも連絡してくれて構いませんよ、セファリア」
「だーれがするかっての!」
べ、と出された舌に、素直じゃない子猫さんですね、と笑いながら、アグライアは今度こそ出かけていった。
主不在となり静まり返った玄関で、サフェルは欠伸を一つ、踵を返す。
……やれやれ。寝なおそーっと」
――朝早く、態々サフェルが起きていたことに、アグライアはきっと気づいていただろうけれど――まあそういう格好つかないことは気にしないことにする。



さて。それからは、サフェル的には特に変わらない日々だった。
学校に行き、バイトをして、一人前の夕食を作り眠る。時折、誰もいない向かいの席に目をやることもあったけれど――だからまあ、それくらいだ。
前世を含めれば、孤独でいた時間のほうがはるかに長くなる。サフェルにとって、一人でいることのほうが自然で、誰かと共に暮らすことのほうが異質な状態だ。
けれど、ディスプレイで配信の映画をぼんやりと眺めながらも、多少の空虚さを感じるのは、――その欠けたような心は、アグライアのもとを離れた頃の記憶を思い出す。
………
果てのない1000年と、こんな1週間程度は比べようもないけれど。……でもまあ、『顔を合わせない最初の日数』という点では同じかもしれない。要するに、多少は人恋しくもなる。
……ライア、頑張ってんのかねぇ……
映画の退屈なシーンの代わりに、裁縫女の、見るものすべてを魅了する完璧な微笑みが脳裏を過ぎる――重くなったまぶたをしばたたかせながら、ついそんな疑問を口にした直後。
――ぴりり。ぴりり。
「んぉあ?」
ぼんやり、眠りかけていた意識が着信音に跳ね起きた。机の端の端末を慌てて手に取れば、それはアグライアからの着信だった。
――何か、トラブルでも起きたのだろうか。
ためらわず通話ボタンを押して、耳に当てる。
「もしもし?」
『ああ、セファリア。
こんばんは……で、挨拶は合っていますか』
「ん、合ってる。そろそろ寝ようかと思ってたところ。
何、どうかした?」
………
……裁縫女?」
通話越しにも響く凛とした声は、彼女のものだった。伝えられていた出張先との時差を考えれば、確か……向こうは夕方くらいだろうか。
わざわざ電話をしてくるなど、何かに巻き込まれたのか、と憂いつつの確認に。なぜかだんまりを決め込んだアグライアは、おずおずと、小さく呟く。
『セファリア。特に、生活に支障はありませんか』
「は?いや、そんなのないけど。もともと身の回りの世話は全部自分でできるって知ってるでしょあんたも」
『金銭等に不自由も?』
「たかだか一週間であの札束使い切れるような生活してないって……てかバイトもしてるし。そんな気にしなくてもいーよ」
――そうですか……ええ、そうでしょう。貴女の自助努力が実を結んでいるということですね』
……?うん……
意図を測りかねるサフェルがためらい気味に相槌を返して、沈黙が下りる。無駄に通話料金ばかり加算される時間に、疑問を抱かずにはいられない……この電話は、なんの電話だ?
「あのさ。特に用事がないなら切るよ?」
『え』
「え?」
『ああ、ええと、その。もう就寝する……の、ですか』
らしくなく歯切れの悪い言葉に、いよいよサフェルは苛立ちを覚え始めた。なんでこう、もだもだとしたことしか言わないのか。
普段は言いたいことがればすぐに言うくせに。なんならうっすらデリカシーもないくせに。
「そりゃ人間なんだから眠るっての。
……ねえ、あたしに用があるんじゃないの?変だよ、今日のあんた」
……変、でしょうか』
「変。だって、こんなふうに世間話ばっかで引き伸ばして――」まるで、会話自体が目的のようだ、と。
サフェルがそこまで考えたとき、数日前のアグライアの言葉が、ふとよぎる。
――寂しければ、いつでも連絡してくれて構いませんよ
――え」
……?どうかしましたか?』
……………んーと。ちょっと思いついたことあるけど、でもなーみたいな?確かめないことにはなんとも、的な、……ねぇ?」
『はぁ……何か、アイディアでも浮かんだのですか』
「あー、うんうん。そんなところかにゃー。
――ところでライア、今暇なの?」
もはや映画になぞ興味もない。アプリごと画面を消しながら伺えば、アグライアは控えめに返してくる。
『そう……ですね。このあと会食があるため、それまでの時間ではありますが……
「そっか。じゃあさ、それまでおしゃべりしようよ。あたし退屈でさ〜」
――そうですか。ふふ、構いませんよ』
仕方ありませんね、といいたげな言葉が、待ってましたとばかりの弾んだ響きをしていたことを、サフェルは聴き逃さなかったけれど――あえて言及はしない。



『そのようなことがあったのですね――
……はい、はい。了解です。少しだけ待っていただければ。はい。
……すみませんセファリア。
そろそろ時間のようです、会食に向かわなくては……
「ん、了解。ふぁ……あたしもそろそろ寝よっかな」
……そうでしたね。就寝の邪魔をしてしまい申し訳ありません』
「別にいーよ、どうせ起きてたしさ。
あ、でも、ライア、一つだけ」
『はい?』
「寂しいなら、ちゃんとそう言わないのはフェアじゃないと思うよ、あたし」
―――貴女、気付いて』
「んじゃあね、おやすみ!あたしのことが恋しくてたまらない金織様♪」
『待って、待ちなさいセファ――
ツー。ツー。ツー。