ジルク
2025-09-13 21:38:35
2014文字
Public 白鳥自カプ
 

ギルバート・セシルの前日譚

CoC「白鳥の歌を謡うとき」NPC名前記述あり。シナリオ本編の情報なし。CSに書いたエピソード。


【前日譚その2】

ぱちり、と目を開く。
知らない天井がそこにあった。
驚いて飛び起きようとしたが、身体が上手く動かない。視線だけで辺りを見回して、視界に違和感を覚えつつも、初めて見る広い部屋に寝かされていることがわかった。
……ギル?」
知った声が聞こえ、視界に少年が現れる。目が合うと、彼はぱっと表情を明るくした。
「目が覚めたんだ! 起きられる?」
ちょっと難しいかも、と言おうとしたが声は掠れてしまった。それでも彼は察してくれたようで、手を貸して起こしてくれる。
「ぼく、ど、うして、ここに?」
途切れ途切れになりながら尋ねると、彼はじっとこちらを見つめた。
「覚えてないの?」
その様子を不思議に思いながら頷く。彼は暫く考えた後、まあとりあえず水でも飲みなよ、とベッド脇のテーブルに置かれていた水差しからコップに水を注ぎ、こちらへよこした。
「ありがとう」
一口飲めば、喉の調子は多少ましになった。同時に右腕と顔の右半分が包帯で覆われており、動きにくさと視界の違和感はそれのせいであることに気が付いた。無理に動かそうとするとびりびり痛む。
「大丈夫?」
「うん……多分」
コップを返す。彼はそれをテーブルに戻すと、よくわからない表情でこちらを見る。
「ここに運ばれたときのこと、思い出せない?」
「うん……そもそも、ここはどこ?」
「ここは僕の家だよ」
「ローレンスの? どうして」
彼は少し間を置いて、椅子から立ち上がった。背後のカーテンを開け、手招きをする。幸い脚の怪我は軽いようで、ベッドから立ち上がることはそれほど難しくなかった。
……わ、高いし広い!」
「3階だからね」
初めて見る景色に思わず胸が踊る。美しい庭園と、その先に道や森が見える。しかし、その中に不釣り合いなものが一つあった。
「あれ、なんだろう」
ボロボロの黒く細い枠組みを左手で指差す。少年は答えず、ただこちらを心配そうに見た。
もう一度その枠組みを見る。その周りの様子もよく見て、――気が付いてしまった。
……そんな、どういうこと? あれ、ぼくの……
声が震える。彼が静かに口を開いた。
「火事だったんだ。ギルはすぐにうちの使用人が助け出したけど、ギルのお母さんはなかなか見つからなくて」
「それで、お母さんは!?」
彼の腕を掴む。彼は言いにくそうに目を伏せた。
……僕も、見たわけじゃないけど。助からなかったって」
膝から崩れ落ちる。涙が後から後から溢れて止まらない。
「そんな、お母さん……お母さんがいなかったら、ぼく……
「大丈夫だよ」
少年に左手を優しく取られる。彼は、控えめに、しかし確かに微笑んでいた。
「あのね、ギルは僕の弟なんだって!」
「弟……?」
「そう、お母さんは違うけど、僕のお父さんがギルのお父さんでもあるんだって」
だから、弟、と彼は微笑う。
「ギルは一人じゃないよ。僕がいるから」
「ローレンス……っ」
握られた左手をぎゅっと握り返し、声を上げて泣いた。