保科
2025-09-11 21:27:23
1988文字
Public スタレ
 

となりのマスコット

バトルズとサフェルはズッ友 withアグライア

『それで?次のお宝はどうするよ〜サフェルの姉御』
とある永劫回帰、オクヘイマのピュエロスの片隅にて。
火を追う旅の招集に応じ、会議の始まりを待つサフェルの隣には、ザグレウスの眷属であるバトルズの姿があった。なあなあ、と馴れ馴れしい問いかけに、サフェルは億劫げに嘆息する。
道中はやれ張り巡らされた浪漫の金糸が邪魔だの、やれ造りが豪奢で嫌味な街だのぶつくさ言っていてうるさかったものだが――愚痴を言うのもとうとう飽きたらしい。
そもそも、そんなに嫌なら留守番をしていればいいとサフェルは思うが、フレイムスティーラーの話を聞いて以降、なぜかついていくと聞かなかったのは不思議な話だ――というのは、どうでもいいとしても。……今、このように、サフェルのことを大地獣の代わりにするのは頂けない。
「ちょ、バトルズ……重いってば。なんで頭の上に乗るかなあんたは」
『ケケケ――そりゃあもう、姉御の頭がジャストフィットだからに決まってる!』
デカい紫頭をずしりと乗せられ、猫耳が潰されたのに顔を顰めるが、バトルズは聞く耳を持たない――そもそもコイツに耳は無いけども。
サフェルは雑に振り払おうか思案して、……まあ、コイツがごきげんな分にはいいか、とため息をついた。いちいち口論するのも面倒だ。
「あーはいはい、じゃあ次は……
雑談がてら、どのオタカラを狙おうか、と、薄暗い談義に花を咲かせようとして。
不意に、首筋にちりりとひりつく視線を感じた――視線はそのまま、声のトーンを一つ落とす。
――バトルズ」
『おう。2階のバルコニーだな』
察しがいい。肩に乗せられたバトルズの手が位置を知らせる暗号を打つ。サフェルは自然な態度を装いながら、不届き者を確かめようと視線を滑らせ、
……………は?」
――こちらを一心に見つめる浪漫の半神の眼差しに、素っ頓狂な声を上げた。
……なあ姉御、あの浪漫の女はなんでこっち見てんだ……?』
「い……いやあ……なんだろ……?」
困惑するバトルズの声に、応えるすべを持たない。言葉に詰まる。
最近はオクヘイマまで顔を出せておらず、アグライアと顔を合わせる機会も少なかったが――しかし。既に挨拶は済ませたし、そこでのやり取りに問題は無かった、筈。
今、こんなにも視線を向けられる理由があっただろうか。会話の内容がマズかった?だけど――
思考を回すあまり、取り繕うのを忘れたサフェルが見上げていることに気づいたのか。アグライアが不意に踵を返す。姿が消えたことに、てっきり会議の部屋に戻ったのかと思えば、
『なあ姉御、……なんかこっち向かってくるぞ?』
バトルズの言葉が頭上から聞こえて直ぐのこと。
目の前の通路から、アグライアが堂々とした足取りでやってくる――カツカツカツカツ、ピュエロスの床をヒールがすごい速度で打ち鳴らす音はいっそシュールだ。
「へ、……ちょ、裁縫女……?」
カツリ。
その圧に、思わず一歩後ずさったサフェルの前。一際強く踵を鳴らし立ち止まったアグライアは、さながら重大な案件を告げる前が如く、大きく息を吸い、口を開く――
――近くは、ないでしょうか」
『あ?』
「は?」
「あの。
近くは、ありませんでしょうか」
アグライアは。ただ、平坦な声で繰り返した――底知れぬ威厳のある声で、繰り返した。
頭上から身を乗り出したバトルズと、腕を組んだサフェルは、思わず顔を見合わせる。
――何が言いたいんだ、この人は。
考えた所で分かるはずもなく、お手上げ、というようにそろって小首を傾げると、同時にアグライアに向き直る。
……近い、って。いやまあ、コイツが乗ってくるのとかいつもの事だし」
『やいやい、いきなりなんだよ浪漫女。オイラたちは一蓮托生のライバル同士だぜ!』
「はーん。ライバルったって、最近はもっぱら協力プレイじゃない?」
『ケケ、そいつは言ってくれるなよ姉御!』
…………………………………成程」
何から何までよくよく息の揃ったやり取りを聞いて。
アグライアは失われた人間性を思えば、恐ろしいほどに深く微笑んだ。
微笑みながら、す、と指先を軽く振る――何だろ?と眺めるサフェルの頭上。
『うぇ?あ、あだだだ!?糸!糸がぁ!
姉御助けぐぇーっ!?』
「は!?え!?」
突如金糸に絡め取られたバトルズが、抵抗する間もなくさらわれるとピュエロスの湯にドボンと沈む。――まさに、一瞬の出来事であった。
「ば、バトルズ……!?え、何で!?ちょ、ライア!?」
上がる水しぶきを呆然と眺めるサフェル。慌てて振り返れば、アグライアは己の掌を眺めながら、困惑した様子で呟いた。
……不思議です。私は、何故このような無駄なことを……?」
「イヤあんたはなんで自問自答してんの!?」
叫ぶサフェルの回答は、ついぞ得られることはなく。