山本
2025-09-10 20:46:08
9675文字
Public Imprinting lover
 

Imprinting lover〈1〉

記憶喪失🐯×🕒♀の現パロ🐯🕒♀連載。
不意の事故から21歳に記憶が退行し、尚且つ🕒ちゃんと付き合ってると思い込んでいる🐯との🐯🕒♀。

※🐯の婚約者女性がちょろっと登場。でもすぐ婚約解消になります。







ラミが何とか土日と併せて合計五日間の休みを取得して帰省した四日目午後、ローは様々な検査を経てやっと一般病棟の個室へと移された。
頭部CTに頭部MRI、脳波に血液検査など、考えられる最大限検査を行うも異常はなし。心因性の解離性健忘の可能性ありとして、週明け以降に精神科の検査等を行うとして一旦の一般病棟への転棟だ。
「兄様、私がわかる?」
「ラミ、だと思ってるんだが……老けたか?」
「合ってるけど失礼ね!私も二十七歳よ!兄様に至っては三十一歳のオジサンよ!!」
……三十……本当か?」
「私がわざわざ大学病院を借りてこんなタチの悪いドッキリをするとでも?」
疑わしい目つきでラミを見るローにラミが腕組みをして睨む。サンジはラミの隣に座り複雑な気持ちながら、一先ず意識が戻って良かったと息をついた。
とはいえ、ローは何故か十歳分記憶の退行を起こしており手放しには喜べない。十年前と言えばローは二十一歳でラミが十七歳、サンジは十六歳だ。
十月生まれのローが大学三年の頃、二月生まれのラミは高校三年。サンジは高校二年生である。どうやらその頃に記憶が退行しているらしい。検査では何も異常がなかったため、心因性の疑いとして精神科の検査が必要らしい。
「兄様、もうひとつ確認するけどこっちの子は誰かわかる?」
「サンジだろう」
「どういう関係?」
何度目かのラミの確認にローが渋い顔をして無言でラミを見る。ローはラミには老けたようなことを言う割にサンジにはそんな評価をしない。サンジとて高校時代からすれば大人っぽくはなったのだが、サンジとしては実妹と違い言いにくいんだろうなと推測している程度である。
しかし、ラミは何か違和感を持っていた。
「兄様言えない?」
……幼馴染」
「で、それだけ?」
幼い頃からずっと一緒に育った兄妹として、ラミが覚えた違和感。逃げを許さず追及すると、ローが深く溜息を吐き出しちらりとサンジを見た。その視線にサンジが目をぱちくりとするとローがサンジともラミとも視線を逸らし渋々口を開く。
「付き合ってる」
何か隠していると察したラミの追及にローは小さくぼそりと呟いた。気まずそうな、言いたくなかったとでも言いたげなその様子。ラミはなるほどと納得してサンジが目を丸くして驚く。
「えっ!?」
「なるほどね」
「はァ……だから言いたくなかったんだ。父様と母様には言うなよ」
「あら、ダメよ。兄様は二十一歳で十六歳のサンジちゃんと付き合ってるんでしょ?なら言わなきゃだわ」
「年齢のことがあるからサンジが高校を卒業するまでは何もしない約束だったんだ!ややこしくなるから言ってなかったんだろうが。ったく……
不貞腐れたようなローと大人な余裕ある態度のラミ。サンジはただ目を丸くして狼狽え、何故と声も出せず混乱した。
ラミがローの見えないところでサンジの背に手を回し小さな声で大丈夫と呟く。
「兎に角、私は父様と母様に言うから。って言っても兄様は三十一歳のオジサンだしサンジちゃんも二十六歳の大人だから怒られないと思うけど。怒られる時は兄様一人で怒られてね。私は明日の便で帰るから」
ラミの言葉にムスッと不機嫌そうな顔を向けるロー。サンジは伺うようにちらりと見られて戸惑いにぱちぱちと瞬きを繰り返し言葉に詰まる。
「じゃ、私とサンジちゃんは帰るから。兄様はしっかり休んで治療に専念するのよ。低血糖で倒れて階段から落ちるとか兄様もオジサンね。もう若くないんだから無茶してみんなを心配させないでよね。私なんて三日も休んだんだから。元気になったら何かひとつ奢ってね?」
「おい!」
「バイバーイ!行きましょ、サンジちゃん」
言いたい放題言ってヒラヒラと手を振りサンジの手を引くラミ。サンジはオロオロとしながら慌ててトートバッグを取り、ラミに手を引かれるままローにまた来ると言って病室を出た。
ナースステーションの前を通り、中の看護師に会釈をしてエレベーターホールに着きボタンを押して待つ。さらりと長い栗色の髪をハーフアップにしたラミが開いたドアにサンジの背を押し乗り込むと、一階のボタンを押して微笑んだ。
「兄様の理想ね」
「え?」
「さっき兄様が言ってたアレ。きっと兄様の理想よ」
どこか悲しげにも聞こえるラミの呟きにサンジは何も言えなかった。二十一歳と十六歳で、サンジが卒業するまで純愛として付き合うなど、それがローの理想だと言われてもサンジには簡単には飲み込めない。だって実際には兄妹のようで兄妹じゃない関係で何もなく大人になりローには婚約者ができた。告白の一度もされたことはない。
戸惑うサンジにラミが大きく息を吸いギュッと手を握る。
「ねェ!サンジちゃんこの後時間ある?兄様の意識が戻ったお祝いにどこかでちょっと飲みましょう!」
にっこりと屈託なく笑って誘われると昔に戻ったような気分になってサンジは笑顔で頷いた。
そして翌日、昼前の飛行機で北海道へ帰っていったラミを見送りローの見舞いへと足を運んだサンジは病室に来ていたローの両親と婚約者と顔を合わせた。遅れてきたローの両親とエレベーターで一緒になったというローの婚約者は、柔らかいブラウンに染めた髪を緩く巻いた背の低い女性で、どこか猫っぽい目元が印象的な大きな二重の顔立ちだった。
「あらサンジちゃん。来てくれてたのね、ありがとう」
ローの母の言葉に返事をするより先に一緒に来た小柄な女性が気になり返事のタイミングを逃す。そこへローの両親がサンジに紹介するにも記憶が退行しているローに伝えるべきかと顔を見合せ躊躇う。
女性はまっすぐベッドのローのもとへ向かうとサンジに勧められるまま椅子に座って笑顔を向けた。その顔を見てローが怪訝そうな顔をする。記憶が退行しているらしいと聞いていた女性は、ローの表情を気にもとめずに手を握った。が、ローが拒むようにサッと手を引く。
無言の短いやり取りに一瞬、沈黙が重くなる。
「ローさん、目が覚めたって聞いて安心したわ。私のことわかる?ユイよ」
……どこのユイさんだと?申し訳ないがおれの記憶にはない」
冷ややかな視線と言葉。警戒心を隠しもしない様子に婚約者の動きが一瞬だけ止まる。
サンジはその光景を見ていられなくてスッと下がり、ローの両親の後ろに隠れるようにした。
「あなたの婚約者よ。すぐにはわからなくても無理ないわよね、まだ目が覚めて二日目?三日目?だったかしら?大丈夫、ゆっく」
「すまないが馴れ馴れしく触れないで欲しい。婚約者と言われても記憶にないし何も感じない。おれを知ってるような顔をされても不快だ」
ローがスッと下げた手を再度握るように手を伸ばした婚約者にローが刺々しい顔と声で拒絶する。若い頃のズバズバとした物言いをしていたローそのままの姿だ。それがサンジには婚約者の女性への罪悪感となって視線を向けられなくなる。
婚約者のユイと名乗る女性の無言がサンジには痛くて、ローの両親の背後に隠れギュッと目を閉じていると名を呼ばれる。
「サンジ」
呼ぶ声に肩が小さく跳ねる。出ていきたくないし、何ならこの場から逃げてしまいたいのにタイミングもなくし、じっと身を潜めていると再び呼ばれた。
「サンジ」
ローの声に渋々顔を出す。ちらりと見るとローが手を伸ばしユイがサンジを突き刺すように睨んでいて居た堪れない。が、のたのたと近付くとローの左手がサンジの腕を掴んで引いた。
「おれが好きなのも付き合ってるのもサンジだけだ。誰だか知らないがお前と付き合う気もなけりゃ魅力も感じない。はっきり言って迷惑だ」
「ロー!!」
バッサリ斬り捨てるローを咎めるように呼ぶが、ローは発言を撤回する気はないらしい。ユイと名乗った婚約者の女性はキッとサンジを睨んで立ち上がると、ズカズカとローとサンジに背を向け個室を出ていった。それをローの両親が追って個室から出ていく。
二人だけになった病室内でローが大きく溜息をついてサンジの腕を離す。サンジは自分が追っても逆効果だと知りながら、婚約者の彼女へ何もできないことに罪悪感を抱えていた。
「はあー……三十一歳のおれは正気か?何であんなのと婚約なんてした。気持ち悪ィ。馴れ馴れしくベタベタ触りやがって」
「ロー、そんなこと言うな」
「本当のことだ」
面倒臭そうに吐き捨てるローを咎めても悪気すら見せずにサンジに手を伸ばし手を重ねる。サンジはどうにも居心地が悪くて、けれど怪我人のローの手を振り払えもせずにただただ俯いた。
その日、婚約者の女性から正式に婚約破棄が告げられた。慰謝料も何もいらない、その代わりこんな関係なかったことにして知り合いだったことすらなかったことにしたいと言い放たれた台詞にローの両親は平身低頭謝罪し、後日お詫びに行くと申し出たがそれすら断られ関係は終わった。
ローは両親から聞いた話に何の関心もなく「なら良かった」とだけ零したらしい。
サンジはただ何もかもが申し訳なくて、その後二日ほど見舞いにすら行かなかったがローのスマートフォンから会いたいとのメッセージが届くと溜息を落として見舞いの日々を再開した。