いを
2025-09-10 17:56:11
2584文字
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刀神
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。


「雪月」
 という名を、何度呼んだだろうか。阿弖家は彼女たちにとってしもじもの存在であっただろうけれど、今は「雪月」と呼んでも、巌那の家でも阿弖の家でもなにも起こらない。ただしんと、静かだった。水面に一滴の水が延々落ちぬように。それが、いまの当たり前であった。
 雪月様、、、と、呼んだ頃もある。しもじもの存在であったからだ。けれど彼女はその水面にざあっと雨を降らせた。いうなれば、雪月様、と呼べばざわざわとしていたのだと今になって思う。
「なに?」
 彼女は振り返って、問う。黒く、つやのある髪の毛が揺れた。自分の髪も、長い。同じように。それがすこし、誇らしい。
「いや。昔のことを思い出した」
「昔って、いつごろ?」
 そうだった。彼女とはかなりの時間をともにしてきた。
「はじめて会ったばかりのころ。雪月様と呼んだときのことだ」
「ああ」
 雨が降る音がする。納得のいったように頷く彼女は雨音を気にしていない。もしかするとあのころのように、静かではないのかもしれない。
「だから、雪月」
「なにが、だから?」
 ふたたび問いかける彼女にほんの僅かばかり、笑ってみせた。雪の降る音が聞こえたような気がしたからだ。