すだ
2025-09-06 22:08:54
8437文字
Public 婿スバカグ
 

夏の里のスバル 連作

婿スバル関係の小話をこちらにポイポイ入れる予定です。
スバカグ以外の親愛小話も増えるかもしれません。
増えたときはピン留めしようと思いますので、良かったらどうぞ。
#スバカグ



3. 鬼ごっこは進行中(里の人たちとスバル)

 交際前の婿スバカグ前提で、前回「鬼ごっこは始まったばかり」の続きです。夏の里の包囲網は徐々に形成されつつある。


「スバル、今日もお弁当作ってきたんですけど、受け取ってもらえますか?」
「うん、いつもありがとう」
 花咲くように笑う可憐な幼馴染から、今日も差し出される包みをありがたく受け取る。ほぼ毎日続く差入れに戸惑いはするものの、食べ物を粗末にするわけにはいかない。
 夏の里に来てすぐの頃は自分で弁当を作ったりもしていたが、カグヤが毎日のように差入れてくれるので諦めた。
 たまに彼女が用事で来られないときは、マツリかカナタを経由して知らせが届く。
 神二柱は特に気にした風でもなく伝言してくるが、こちらとしては全て筒抜けで居心地が悪い。
 弁当の無い日は家に戻って済ませるか、店で外食をする。行きつけの居酒屋潮騒に顔を出すと、決まって大将が「ああ……」と気の毒そうな顔をする。断じて可哀想ではないのでやめて欲しい。いい店なのだが、大将がとにかく顔に出やすい人なので複雑な気持ちになることがある。今日はカグヤからもらった弁当があるので、あの顔を見なくて済んで良かった、と嘆息した。


 昼になり、ひとりになれる場所へやって来ると包みを開ける。カグヤが作ってくれたものを他の人に見られるのは何だか嫌だった。
 弁当の中身は押し寿司、スバルの好物だ。皮目に焼き色をつけた鯖が酢飯の上に乗せられている。飽きがこないよう生姜の甘酢漬けが添えてあるところにカグヤの優しさを感じる。
 彼女がくれるのはスバルの好物が多い。嫌いな食べ物は無いし、美味い不味いもあまり頓着しない。でも、美味しいものの方が元気が出てくると話したことはあった。だから少しでも美味しいものを、とスバルの好物を差し入れてくれるのかもしれない。じわりと胸に広がる温かい気持ちを噛み締めながら手を合わせる。
「いただきます」
 塩気と香ばしさが口の中に広がった。塩焼きの鯖と酢飯の間には大葉が挟まれており、爽やかな風味が食欲をそそる。いつもながら美味しい。不器用だったカグヤがここまで作れるようになるのに、どれだけ苦労したのだろうか。
 これ程の真心を受け取っているのに、自分がやっていることといえば彼女と必要以上に関わらないことだった。痛む胸をなかったことにして頭を振る。これも世間の悪意から大切なカグヤを守るため、仕方のないことなのだ。
「ごちそうさまでした」
 食べ終わった弁当箱を丁寧に包み直す。空の弁当箱はいつも洗って返すようにしているので一旦持ち物袋へしまった。自分の家の台所は小ぶりだし里の外れにあるから、休憩の合間に潮騒で洗わせてもらうことが多い。大将が快く使わせてくれるから、ついつい甘えてしまう。今日も後でお願いしてみよう。すごく嬉しそうな顔をされるのは恥ずかしいが、そのくらいなら我慢できる。
 さて、午後は里の手伝いがある。スバルは畑へと向かった。他の里や都に卸す農作物の出荷作業をお願いされている。夏の里に住む者として助け合いは当然だ。特に男手の必要な作業は積極的に手伝うようにしている。女性たちが箱詰めしてくれた作物たちを台車で運び、船や飛空艇に積み込む。何往復かするうち、日が傾き始めた。
「スバルくん、今日も作業を手伝ってくれてありがとう! はい、今日の分。持って帰って」
「ミサエさん、ありがとうございます」
 帰りがけにどっさり野菜と果物のお裾分けをいただいた。食材を買わなくていいのはとても助かるのだが、何しろ量が多すぎる。
 食材の行き先は紆余曲折あったものの、今ではほぼ決まっている。
 始めのうちは随分と苦労した。
 マウロに渡そうとすると、「オレは料理しないからやめておくよ!」と断られる。
 ツバメは「もうちょっと金になるならね……」と渋い顔をする。ひどい。
 ヒスイは少しもらってくれるものの、「過ぎたるは及ばざるが如し。健康のために食べ過ぎは禁物だからね、気持ちだけもらっとくよ」と辞退される。長生きして欲しいので、引き下がるしかない。
 クサツには渡せない。旅館の食材管理は徹底されており、その中にクサツの食事も入っているからだ。あと、ものすごく恐縮される。
 マツリとカナタに奉納することも考えたが、
「あんみつならもらってやってもいい」
「酒はないのか?」
 お分かりだろうか。里の人、ヒスイ以外(少量)お裾分けできない問題の勃発である。
 そうなると、候補は自然と限られてくる訳で。
「カグヤ」
 日が沈み民家に灯りがともる頃、仕事を終えたカグヤが夏の里へ顔を出した。声をかけ、お礼と共に弁当箱を返す。美味しかったよ、と付け加えると嬉しそうに笑いかけられ心臓が跳ねた。
「あ、あと、はい。また沢山もらっちゃったから食べてくれないかな」
「いただいていいんですか?」
 お裾分けでもらった作物を差し出すとキラキラと輝く紅藤色の瞳。嬉しそうな顔で色とりどりの野菜たちを眺める幼馴染くらいしかもらってくれるあてがないのだから仕方ない。
「うん、オレだけだと食べきれないし。いつもお弁当を作ってくれるから、そのお礼」
「ありがとうございます。相変わらず大人気ですね……。この間、里の子に囲まれてるのを見ましたよ」
「みんな優しいから。それにカグヤには負けるよ」
「そんなことありませんよ。スバルはやっぱりすごいです」
 宝物のように作物の入った籠を抱きしめるカグヤ。きっと明日は渡した食材を使って弁当を作ってくれるのだろう。
「結局、ごちゃごちゃ言ったところで、お前はカグヤを頼っちゃうんだよなあ」
 モコロンがニヤニヤしながらからかってくる。結果的にそうなってしまっているので、スバルは沈黙を貫いた。
「えっ? 私のことを頼ってくれてるんですか?」
 直視できないほどとろけた笑顔でカグヤがスバルを見上げる。
 視線を逸らすと回りこまれ、更に視線を逸らす。ぐるぐるぐるぐる回っていると、「いい加減にしろ!」とモコロンに怒られた。
 こうしてカグヤから弁当をもらう、お礼として食材をお裾分けする、弁当をもらうを延々と繰り返しているのだ。


「スバルくんに作物を沢山あげると里長にお裾分けするでしょ。そうすると里長が一日中ニコニコしてるから、その笑顔が見たくて、つい」(里人代表 ミサエ)
「あたしたちよりカグヤちゃんがもらった方が幸福の還元率が高いから、つい」(舶来雑貨 風切羽の店主 ツバメ)
「ツバメさんから脅され……っイテッ! ……え? ハイ、ハイ……。うちの旅館は在庫管理を徹底してるので、カグヤちゃんにあげた方が皆さん幸せになれると思って、つい……っス」(クサツ旅館の店主 クサツ)
「だってさ」
 モコロンが隣にいるマツリへ話しかける。たまたまそこら辺に浮かんでいた白竜をお供に、スバルとカグヤの様子を聞き込みした夏の神はふむ、と頷いた。
「この間、依頼の絵馬に狩りの知識がある人を同行させてください、ってやつがあったな」
「そうそう。カグヤのやつピリカを連れて行こうとするから、ここにもいるだろ! って気づかせるのが大変だったぜ……。変なところでぼんやりしてるんだよな」
「そうなんだ、おつかれー。あとさ、いつも気になってるんだけど、潮騒のオヤジってスバルが弁当箱洗ってるときめっちゃニコニコしてるじゃん? あれスバルどう思ってんのかな?」
「さあなあ……。もう見ないことにしてるんじゃないか?」
「アイツ結構図太いところあるよね。そういやヒスイが何か企んでるみたいでさ」
「ヒスイかー、厄介だな……。カグヤに浮いた話が出ないことに痺れを切らしてるらしい、ってツバメが愚痴ってたぞ。そろそろ何か仕掛けてくるんじゃないか、って」
「アタシの勘だけど、これは一悶着あるぞ」
「マジかよー! マツリの勘ってよく当たるじゃねえか。変なことにならなきゃいいけどな……
 顔を見合わせた後、マツリが結論づけた。
「やっぱスバルが逃げるのムリじゃない? 追い詰められて白状するしかなくない?」
「全方向から包囲されてるもんな。どこまで悪あがきが続くか見ものだぜ」
 どうやらスバルの鬼ごっこは逃げ切るのが大変難しいようである。