すだ
2025-09-06 22:08:54
8437文字
Public 婿スバカグ
 

夏の里のスバル 連作

婿スバル関係の小話をこちらにポイポイ入れる予定です。
スバカグ以外の親愛小話も増えるかもしれません。
増えたときはピン留めしようと思いますので、良かったらどうぞ。
#スバカグ



2. 鬼ごっこは始まったばかり(マツリとスバル)

 交際前の婿スバカグ前提で、スバルがマツリと朝稽古する小話。カグヤさんは可愛くてかっこいいバッファモーのような乙女。


「おー、おはよう。調子はどうだ?」
「おはようございます。いつも通りですよ」
 早朝。鍛錬のため砂浜の外れに向かったスバルは、マツリと鉢合わせた。
「マツリさん、どうしてここに?」
「アンタが毎朝ここで稽古してるって聞いたからさ」
 そう言うなり彼女は帯刀していた大剣を構えた。
「相手してやるよ。かかってきな」


 先程から防戦一方のスバルは内心舌を巻いていた。こちらは刀、相手は大剣。立ち回りではこちらに利があるはずだが、打ち込もうにも全く隙がない。うかつに手を出せば返り討ちにされるのが関の山だ。
「ほらほら、どーした!? 避けてるだけじゃアタシには傷ひとつつけられないぞ!」
 マツリの太刀筋は確かに強烈だ。打ちどころが悪ければ骨が砕かれる程の力がある。ただ、大剣であるがゆえに振りも大きく、避けることはかろうじて出来る。
 まともに受けるとそれだけで体力を削られるので、ひたすらかわすしかない。
 強烈な斬撃が空を裂く。大地を割る。避け切れず少し切られた髪が地面に落ちる。一撃一撃が重いはずなのに、時折早く鋭い一太刀が飛んでくる。流石は戦いに愛された剣神、何でもありだ。一瞬の合間を縫って、スバルは乱れた呼吸を調えた。
「あ、カグヤ」
 マツリの口から予想もしなかった名が飛び出し、少し体の軸がずれる。問題ない、このくらいなら立て直せる。
「あ、転んだ」
「ええっ!?」
 慌てて意識をそちらにやるが、振り返った先に幼馴染の姿はなかった。刹那、首筋にヒヤリとしたものが当てられる。
 冷や汗をかきながら顔を戻すと、マツリの射抜くような視線とぶつかった。首元には彼女の愛刀、神剣祭花火。ニシシと剣神の口角が上がる。
「アタシの勝ちー!」
「参りました……
 不覚だった、完敗だ。スバルは頭を下げるしかなかった。
「アンタさ、いくらカグヤが大事だからって、戦闘中に意識をそらすなんてダメだろ」
 そんなことしてたら死ぬぞ、と最もなことを言われ反論の余地もない。
「仰る通りです、以後肝に命じます」
 まさかマツリさんが嘘を吐くとは思わなかったので、と告げると剣神はますます嬉しそうな顔をした。
「おお、じゃあアタシの作戦だいせーこーってことだな!」
「作戦だったんですか? あれ」
「うん、クラマに相談して作戦練った」
 してやられた。マツリの背後に控える仁王立ちした秋の神が思い浮かび、スバルは身震いした。
 大方、「カグヤの名前でも出せば動揺するんじゃないか?」とか適当に言ったのだろう。当たっているのが非常に悔しい。
 大体こう言っては失礼かもしれないが、作戦というにはあまりにもお粗末すぎないか。いや、それに引っかかったのは自分なのだが。
「まあアタシの力だけでもラクショーだけど、今日はアンタがどれだけアイツのことを考えてるのかを知りたくてさ」
「え?」
「この間、冷たくしてただろ」
……見てたんですか」
「まあね。今の反応見てちゃんと気にしてるって分かったからいいけどさー」
 あんまりいじめてやるなよなー、とたしなめられた。
 カグヤと再会してからぎこちなかった期間を経て、今では幼馴染として普通に接することができるようにはなった。
 ただ、彼女は遠慮というものを知らない。スバルを見つけては満面の笑みでこちらに近寄って来る。
 罪を犯した人間と一緒にいない方がいい、キミの評判に傷がつくと何度諭しても全く意味がない。
 幼馴染は、あんなにも雛鳥のように着いてくる子だっだろうか。昔はもっぱらスバルがカグヤを引っ張り回していた記憶がある。たまに狩りなどで遠出をし、しばらく会えなかった後にカグヤがべったりくっついてくることはあったが。あまりに離れないものだから、そのまま自宅へ帰ろうと思っていたところをオババに容赦なく引き剥がされ、カグヤはべそをかいていた。
 それでも、あんなにいつでもくっついてくることはなかった気がする。
「距離が近すぎて、ちょっと」
「いいじゃん、アンタも本当は嬉しいんだろ?」
「そ、んなことないです」
 うっかり言葉に詰まってしまった。そうかあ? とマツリが信用していない様子で聞き返す。もう一度はっきり「そんなことないです」と答えると、まあいいやと無理やり話題を終了させられた。
「大体さあ、アンタに何を言われようが全く聞かないし」
「まあ……そうですね」
「昔からあんなもんじゃないの?」
「昔はもっと大人しい子でしたよ」
「そっかなー。周りの目があるから我慢してただけなんじゃない?」
 だってアイツ、バッファモーみたいなもんじゃん、と評した夏の神に思わずムッとする。
 誰が猛牛だ。あの可愛いカグヤに対して何て言い草だろう。せめてそこは小動物ではないか。
「そんなことないでしょう」
「そんなことあるだろー」
「どこらへんが?」
「んー……戦闘中、一番につっこんでくだろ」
「ああ……
「思い込むと周りが見えなくなったりするし」
「そうですね……
「あと何だろうな、群れに対する思い入れが強いかな!」
「群れ……?」
 これは良くわからない。説明を求めるスバルの視線に、マツリは首をひねり考え込む。
「んーと……? んー、んー……。あ! 大事なやつを必死で守ろうとするってこと! 里の平和を守る、みたいな」
……なるほど……
 要するに、四季の里で暮らす人たちの平穏のために、日々頑張っているということだろうか。マツリの指摘に唸るしかなかった。この人はものごとの本質を捉えるのが本当にうまい。言われてみれば納得できる理由ばかりだ。何てことだろう、チロリやモコモコの類だと思っていたカグヤが、あろうことかバッファモーだったとは。
 例えそうだとしてもカグヤは可愛いが。すずも春里の牧場でふわふわモコモコのバッファモーを撫でながら、瞳が優しくて可愛いんだよ、と言っていたので問題ない。多分。コタロウは体が大きくてかっこいいと言っていた。体が大きいはともかく、カグヤは思い切りが良くかっこいいところもあるので得心がいく。
 無言で視線を交わし、互いに頷き合う。カグヤはバッファモーのような人間、という認識が生まれつつあったふたりに声がかけられた。
「スバルー! マツリさーん!」
 振り返ると可愛くかっこいいバッファモー——もとい、カグヤが大きく手を振っている。我に返ったスバルは、慌てて稽古で乱れた着衣を整えた。そろそろ店に行かなければ。
「とにかく! マツリさんに何を言われようとオレにはオレの考えがありますから! でもご助言はありがたく受け取っておきます」
 距離を置いて欲しいのは確かだが、カグヤに悲しんでほしい訳じゃない。今度からもっと言い方に気をつけよう。
 そう心に誓い、「稽古、ありがとうございました」と礼を言った後スバルは中心街へ向かった。
 カグヤと軽く挨拶を交わし駆け去っていく。


「おはようございます、マツリさん」
「おはよー。追いかけなくていいのか?」
「はい。後で会いに行くつもりなので」
「今日は何作った?」
「押し寿司です」
「あんな面倒なヤツに、アンタも良くやるよね。毎日のように好きなもん作ってさ」
 思わず呆れたマツリに、カグヤは幸せそうに笑った。
「受け取ってくれるので、つい作っちゃうんですよね」
 ああこれは重症だ。マツリには恋愛のことはよく分からないが、カグヤがスバルに入れ込んでいることは分かる。
 そっけなくされてもまめに夏の里へ通っては甲斐甲斐しく世話を焼こうとするのだから相当だろう。
 マツリに今後の里運営についての相談と世間話をした後、カグヤは去って行った。
 ひとり残され、ポツリと呟く。
「逃げるだけムダだと思うけどなー」
 礼儀正しさと控えめな口調で隠されているが、カグヤのスバルへの執心はかなりのものだ。
 大体、彼女は一度言い出したら聞かない。とことん諦めが悪い。
 付き合いが長いのだからスバルにも分かりそうなものだが、あわよくば逃げ切りを狙っているのだろうか。
 そんなことをしても、誰も幸せにならないことはマツリでも分かる。
「まあ、妨害くらいはしてやるかー」
 スバルの勝ち目のない鬼ごっこは始まったばかりだ。