保科
2025-09-03 21:21:43
1752文字
Public スタレ
 

災厄おともだち

クラスメートなサフェルとキャストリスの話 モーディスは後輩かな

「サフェルさん。あの、少しお尋ねしたいのですが……
放課後の教室。制服の胸元を緩めつつスマホをいじるサフェルの正面で、太ももに握った手を置いたキャストリスが、固い声で呼びかける。
「んー?どしたの改まって。明日の試験範囲は32ページからだよ〜」
「それは知っていま……え?あれ?35ページからでは?」
「うん。――にゃはは、よく覚えてたね!姫ってばえらーい」
……!っ!もうっ!」
「ふくく」
眉間をきゅっと寄せて睨みつけてくる顔の愛らしさに、その頭をワシャワシャと撫でながら、サフェルはしばらく肩を揺らした。してやられたキャストリスは、しばらく怒りを表明していたものの、サフェルに反省の色がなさそうなことを察知して、ため息混じりに肩を落とした。
……なんというか、サフェルさんと話していると、全部煙に巻かれているような気がして、疲れます……
「ごめんごめーん。からかい甲斐があるもんだから、ついね。
それで?あたしに用事があったんじゃないの?」
「はい。……でも、もういいです……
「もー、拗ねないでって。ね?ほらほらお嬢ちゃんアメあげるって〜」
適当を言って、と睨もうとしたキャストリスの目の前で。す、と、取り出す素振りもなく、突然手のひらにアメが現れるものだから、キャストリスは思わず瞬いた。
「え、えっ?いつの間に……
「はい、これで機嫌直して頂戴ね」
呆けた様子でアメを受け乗ったキャストリスが、はっと顔を上げる。
……サフェルさん、あの、もう一回みたいです、これ」
……姫なんか味占めた?いや、別にやったっていいけどさ、とりあえずアンタの用事話したらにしない?」
「あ」
軌道修正に虚を突かれた顔をしたキャストリスは、慌てて咳払いを1回。
――その。こちらの催しに行ってみたくて」
「何々?……へえ、夏祭りか〜」
手渡されたチラシに目を通す。近くの神社で例年開催されている中規模な催しだ。このあたりだと一番大きいだろう。
「私、その、越してきたばかりで土地勘もないですし、一人は心細く……
視線を落として呟くキャストリスの声に、さてどうしようか、とサフェルは思案する。何せ、人付き合いの悪さには定評があるもので――どうしても、人の集まりというものには。乗り気になれない。
――それというのも、前世の記憶に縛られがちなサフェルの人間不信が故だ。これはもう、何度生まれ変わろうが関係ない、生涯の付き合いだろう。
今回もキャストリスたっての願いとは言え、良いように使われるのはまっぴら御免だ。
案内係として働かされるだけなら、断ってしまおうか、とサフェルは正面に目を向けて――
「お、お友達のサフェルさんと、一緒に行きたくてっ」
―――
予想外の言葉だったので。スマホから顔を上げる。
……へえ」
上ずったような声を取り繕うのに、瞬きの時間を要した。
「随分ストレートじゃん、珍しい」
「その……うう……す、すみません。私からこのような発言は、差し出がましかった、でしょうか」
………
おどおどとこちらを見上げるキャストリスは、今からサフェルがつれなく断るとでも思っているのだろう。
事実、数秒前までそうしようと思っていた所で――けれど、普段、人付き合いに奥手なせいで、色々と苦労している彼女のなけなしの勇気に。報いてやらないほど、薄情ではないのだ。サフェルだって。
……いーよ」
「そう、ですよね…………え?えっ?い、いいのですか?」
諦めたように俯いたキャストリスが、ぎょっとした様子で顔を上げる。サフェルは失礼な、と軽く顔をしかめつつ、視線をそらしながら口にする。
「友達なんでしょ、姫にとって。あたしは」
「は――はい!」
「ん。なら、まあ、……ウン……
溌剌としたキャストリスの返事に対して、なぜか小声になってしまう自分の声に、うんってなんだよ、とサフェルは自嘲するものの。キャストリスは気にした様子もなく、ふふ、と夢見心地に微笑んだ。
「お友達……♪」
………
ここまで浮かれられるとは。
安易な自分の回答にちょっと後悔しつつも、さりとて、今さら撤回できるわけもなく。サフェルは、キャストリスにバレないくらいの小さな小さなため息をついた。