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保科
2025-08-25 19:25:48
3988文字
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スタレ
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がおー!(どろぼう失敗!)
迷境食堂時空のアグサフェこばなし をなぜかキメラにした
え!?軽率にキメラにしてもいいかもってことですか!?諸説あるんですか!?
「
………
」
ぽてぽて。食糧庫を歩く一体のキメラの細かな足取りを、アグライアは金糸越しに眺めていた。彼女の金糸は、そのキメラが一般的なキメラと相違ない大きさであること、柔らかな毛並みが大まかに黒と白であること、耳元や襟元が青色であることを鮮明に伝えてくる。
――
が、アグライアはそれらを総括し、異なる形で受け止める。
迷境食堂で黄金裔達が働き始めてから、ほどほどの日程が経過した。今とて、食堂の後片付けを終えた帰路の最中だ。カイザーの指示で割り当てられた職務に取り組む中で、"彼女"が、どうも方々を飛び回って商人の真似事をしているということは知っていた、そのせいで時間を作って話す機会をと思えど一向に都合がつかず、アグライアは気を揉んでいたわけだが
――
さて。まさかこんな形でその尻尾をつかむことになるとは、と、堪らず嘆息した。
「
……
ライアちゃん?どうちたの?」
呼びかけに、散逸していた意識が戻る。隣、売り上げの記載された紙束を抱えたトリビーが、不思議そうにアグライアを見上げている。食堂の入り口で突然立ち止まった上、深々としたため息をつく姿は、少々唐突に映ったのだろう。
「疲れているのはわかるけれど、そろそろあたちたちも休まないと。明日も大忙ちよ?」
「ええ、それは、勿論承知ですが
――
」
アグライアは何と表現するべきか、少しだけ吟味して。
「
――
食糧庫に、手癖の悪いキメラが紛れ込んだようですので。少し見てから戻ります」
「あら」
目を丸くしたトリビーは、アグライアの僅かに緩んだ口元を見やって、ふふふ、と楽しそうに微笑んだ。
「ほどほどにね?」
「
……
確約はしかねます、師匠」
さて。さてさてさて
――
と、そうとは知らないキメラは、うずだかく積み上げられた野菜やら肉やらに舌なめずりをする。何せ、ここにある食材ときたら樹庭の坊っちゃんお墨付きで、かつ、あの賑やか極まりない食堂での実績もアリときた。
適当に拝借して好きにやらせてもらえれば、こちらとしては丁度いいわけで。豪勢な一人前ディナーと行こう。
ぽてぽて、用心しつつ一通り食糧庫を巡り終えて、おおよその位置と量は把握した。どの程度ならくすねてもバレないかの目星もバッチリだ。
「どれを頂いちゃおうかねぇ、っと
……
」
くっくっく、愛らしい顔には似合わない小狡い笑みとともに、キメラはその偉大なる一歩を
――
「いけませんよ」
――
踏み出せない。
くん、と後ろ足が不自然に引かれた瞬間、悲鳴を上げる間もなく全身が見えない糸でぐるぐる巻きになる。そのままあれよあれよと宙吊りになって
――
この流れには覚えがあるものだから、キメラは冷静に状況を悟った
――
まだ挽回は可能か。一先ず、咳払いで喉を整えて。
「こほんこほん。
……
がおー。あたしはタダの通りすがりのキメラだよ?」
「この状況下で尚も役に徹する精神力だけは驚嘆に値しますが、生憎とそれ以外は0点です、セファリア」
「
…………
」
くるり。糸が半回転して、正面に立つのはあきれ顔のアグライアだ。すました顔でしらを切ろうとするものの、ひくりと鼻先が正直に揺れる。アグライアの目元が、困惑に下がった。
「
……
何をしているのですか、貴女という子は
……
」
……
顔を顰めたキメラは
――
キメラになりすましていたサフェルは、気まずさにじっと地面を眺める。
「
……
義賊としての正当なお仕事でーす」
「そのような、あからさまな嘘で煙に巻けるほど耄碌した覚えはありません」
「チッ
……
」
「態度の悪い
……
」
ヒアンシー曰くキメラも千差万別とのことだが、こうもあからさまなキメラもそういないだろう。
――
恐らくは。
「いーじゃん、裁縫女のケチ。美味しそうだし沢山あるし。ちょっとくらい分けてくれたってさあ」
ぶーらぶーら、と金糸を振り子のように揺らして、サフェルは悪びれることなく自棄っぱちに口にする。そして、そうやって、彼女がうだうだ言い訳するときのアグライアの返答は決まっている。汝実直たれ
――
だ。
「ならば、そう素直に、我々へ言えばいいでしょうに」
「だって言ったら働かされるじゃん」
「当然でしょう。報酬に対価はつきものです」
「いーやーだーね。そんなのやだー!あたしはここの隅っこでのんべんだらりと過ごしつつ、グレっち達のお零れをもらって、トータルいいとこ取りして暮らすんだー!」
「
……
セファリア
……
」
がおがお!とかろうじて縛られてない短い手足をじたばたさせるサフェル。彼女が吐露した内容のしょうもなさに、目眩を抑えるようにアグライアは額に手を当てた。
呆れて、呆れ返って
――
堪らず、僅かに口元を緩める。こんな彼女を見るのは随分久しぶりなように、アグライアは感じた。使命にも憂いにも縛られないサフェルは、本来、奔放で小狡い少女だ
――
そしてアグライアにとって、彼女がそうある、というのは、非常に好ましいことでもある。
彼女の様子に目ざとく気付いたサフェルが、不満そうに口を尖らせる。
「
……
ちょっと、何笑ってんのライア」
「
――
いえ、何でも。その身体では色々と不便だろうな、と。
ところで、なぜキメラなのです?」
キメラはぱちくりと丸い目を瞬かせると、疑問に対してぽてっと体を揺らす。
「何でって
……
だって、妖精で同じじゃ芸が無いし、でも愛嬌で何とかしようと思って。
ほら、『キメラなら野菜ドロボウでも仕方ないよねー』、的な感じでいけるでしょ?」
ぱちこん、茶目っ気たっぷりのウインクに、アグライアは眉一つ動かさず。
「発想が安直な上、目論見として甘過ぎますね。そのような始末で詭術の半神が本当に務まるのですか?」
「うわうっさいな!単純なのが案外一番効果あんの!
てかアンタが動じなさすぎなんだって!」
がお!と威嚇したとて所詮キメラだ、恐ろしさとは無縁である。そのためだろうか、アグライアがどうにも楽しげなのに、サフェルは形容し難い心地で耳を垂らした。
「
……
てかさ、何でこんな直ぐにあたしだって分かったの。
これでも、バレないよう結構丁寧にやってたつもりなんだけど」
「それは
……
、運が悪かったと思う他ないかと」
どういうことだ、と胡乱に見上げる眼差しに、アグライアは腕を組み直して、こともなげに言う。
「何せ、金糸が『紛うことなきキメラである』と伝えていようとも。
誰もが口を揃えて肯定しようと、貴女の詭術が世界を偽れるほど完璧であろうとも
――
ただ一つ、『貴女自身』のことを、私が見間違えることはありませんよ」
さながら空の輝きはケファレのものですから、と世の常識を告げるように口にされた言葉に、サフェルは言葉を詰まらせる。
「
……
、
…………
いや、あんたそれ
……
、」
「どうかしましたか」
「
……
別に
……
」
……
どう考えたって理屈になってないし、何一つ納得ができない。詭術の名の下に、断固として反論しなければならない、のに。なぜか言葉が浮かばず、尻すぼみに口を閉じてしまう。
おまけとばかりに全身を襲うむず痒さ。
――
耐えかねたサフェルは、いい加減詭術を解くことにした。
お遊びはここまでだ。盗みが失敗した以上長居は無用、ここを離れようと、解除を試みて、
―――
試、みて
――
……
「って
……
。
……
あのさー、裁縫女?
なんか、金糸が引っかかってるみたいで、キメラ状態、解けないんだけど」
「その確認は幾分今更に思えますが
――
ええ、そうでしょうね。
一時的とはいえ、権能込みで縛りましたから」
おずおずと入れた確認に、シレっと何でもないように返される
――
いやなにそれ。
「
……
はい?」
「金糸に掛ける力を増幅させて、状態を固定化しただけです。本来地形に対して施すものですが
――
貴女とは相性がいいでしょう。
――
おや、セファリア、随分呆けた顔ですね。
もしや、今、私に捕まっておいて、簡単に逃げられる、とでも思っていましたか?」
「いやぁ〜
……
?」
まあまあ思ってました、と余裕を吐露するのはよろしくない気がして、サフェルはそろり、と視線をそらして
――
突然、体を両手で掴まれたことに思い切り動揺する。するり、吊るしていた金糸だけがほどけると、他のキメラたちがそうされるようにあえなく彼女の手の内だ。ふわふわの毛並みを慣れた手つきで撫で回されて、たまらず身震いする。
「うわ!?にゃ、ちょ、くすぐった
……
何すんの!ひ、ふふ、あはは!」
「成程
……
、質量すらも今の見掛けに合わせているとは、本当に素晴らしい業です。
おかげで運搬もしやすい。ふふ、ヒアンシーも喜ぶことでしょう」
「ちょ、さらっとかわいいものに飢えてる婦女子にあたしを与えようとすんなっ、
……
ぐあーっ、ねえライア!これ解いてよ!」
「お断りです。たとえそれが貴女の性分であろうと、今ここにある食材は一つ残らずエリュシオン市民食堂の物です。食堂の
――
ひいては私の物に手を出したことを、少しは後悔するように」
「う
……
」
ぐるる、と唸りを上げながらも、サフェルの抵抗が弱くなる。その姿に、
――
彼女がまだ幼い頃、布を抱えながら涙混じりに睨みつけてくる姿を思い出して、アグライアは自然、愉快な心持ちになった。
だから。そのまま、抱えた手を離すことはないけれど、兎角気分がいいので。
「そう、セファリア、一つだけ訂正を」
「は?何。この誤謬だらけの状況で一つだけとかマジ?」
「
――
動じていない、ということはありませんよ。
私の理性がもし、後ほんの一欠片でも失われていたのなら
――
このような愛くるしい身体で振る舞う貴女のことを、籠に閉じ込めて仕舞っていたかもしれないですから」
「
……………………
、
……………
、
……………………
」
――
サフェルが無言で暴れ出したので、アグライアは強めに抱き寄せることにした。
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