消えずの炎に誓う

MHRウ教×ハ♀。
両片想い。
※ハ♀の母親故人設定あり。回想シーンでハ♀の母親が話しているシーンがあるのでご注意下さい。

ウが自分を見守ってくれているのはいつからなのか、ふと気になってしまったハ♀。



『こんにちは、ウツシくん』

今日と似た、澄空に春光が満ちる清々しい晴れた日。

若かりしウツシの背に声をかけたのは、命を宿した大きなお腹の、未来の『猛き炎』とよく似た顔立ちの女性。

狩猟に向かおうとしていた彼は、律儀に足を止めて振り返り、笑顔で一礼した。

『こんにちは! お変わりありませんか?』
『おかげさまで、私もこの子も、とっても元気! ウツシくんが毎日狩猟や依頼を頑張って、この里を守ってくれているからね』
『わ、そんな……俺はまだまだです! 勿体無いお言葉です!』
『今日も狩猟でしょう? 怪我をしないように……は、難しいと思うけど、どうかできる限り気を付けてね』
『はい! ありがとうございます、頑張ります!』

流れるように、ウツシがまた清々しい笑顔で『行ってきます!』と頭を下げ、踵を返しかけた刹那。

『──あ……! 待って、ウツシくん』

自分のお腹に視線を落としながら、女性が驚声にも似た声で、けれど、ゆったりウツシを呼び止める。

『? どうしたんですか?』

狩猟に出立する前ではあったが、急ぎではないウツシもまた、踵を返すことをやめ、その場に留まった。 

女性は自分のお腹に視線を落としたまま、ウツシに「来て来て」と手招きし、とても愛おしそうに目を細めて。

『あ……! ふふふ、また、蹴った』
『えっ?』
『この子ね。ウツシくんの声を聞くと、よく蹴るの』
『そう、なんですか……?』
『そうなの。ふふふ……きっとウツシくんのことが気になるんだね。これから狩りに出るって聞いたから……心配してるのかな? ウツシくんのこと……
……俺、を? お腹の、赤ちゃんが……?』

ぱち、ぱち、と目を瞬かせ、ウツシが女性の大きなお腹に目を向ける。

知識で、頭では『この中に新しい命が存在している』と分かっている彼だが、当然ながらどこか遠い出来事のように思えて、実感は掴みづらくて。

不思議そうな顔をするウツシに、女性は柔らかに笑いかける。

『良かったら、触ってみない? 声、かけてみて』
『お、俺が? さ、触ってもいいんですか?』
『ふふふ、ウツシくんが嫌じゃなければ』
『嫌なわけないです! ありがとうございます、じゃあ失礼して……!』

律儀に身を屈め、大きなお腹を正面から見つめながら、不思議な好奇心に心を疼かせたウツシが、ゆっくりと手を伸ばした。

女性のお腹に片手の平を当てて『こほん!』と軽く咳払いをするウツシに、彼女は愛しそうに『ふふ……』と息を溢す。

一呼吸置いてから、ウツシはやや緊張気味に、お腹の中の子と向き合った。

『や……やあ! こんにちは、はじめまして! 俺、ウツシだよ! 里で、ハンターをしているんだ! えっと、今から、タマミツネってモンスターの狩猟に行くんだけどね! とっても綺麗な姿をしていて──あっ……!?』

ぎこちなかった言葉を止め、ウツシが思わず撃たれたように顔を上げる。お腹の子の母である女性は『ふふふっ』と嬉しそうに笑顔を浮かべていて。

『蹴ったの、分かった?』
『わ、わか……分かりました! 今、確かに、俺の手の平にも……あっ、また!?』
『ね? ウツシくんの声がすると、こうなるの。今はやっぱり、この子も心配してるんじゃないかな……

お腹の上部を擦りながら、女性が『ね?』とまだ生まれていない我が子に語りかける。
彼女のお腹に手を当て、そこを見つめたまま、ウツシが小さく目を見開く。

手の平にゆったりと伝わってくる、確かな生命の躍動。

ここには、新しい命が宿っている。

ウツシはそれが何となく、ほんの少しだけ、やっと実感できたような気がした。

温泉に浸かるかのように、少しずつ、優しく──けれど、心が熱くなるような感覚があったのを、彼は今でも覚えている。

励まされたような心地で、ウツシが女性のお腹から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
姿勢を正しながら笑顔を浮かべる彼の瞳は、朝陽に負けないほど清々しく、希望と決意に満ちた金色の煌めきに満ちていた。

『──ありがとうございました! 俺、頑張ります! この子を……この子の育つ里を守るためにも!!』
『こちらこそ、ありがとう、ウツシくん。頑張ってね! 本当に、くれぐれも気を付けて! 必ず帰って来るのよ!』
『はいっ! 行ってきます!!』

意気揚々と、手を振りながら踵を返してウツシが駆け出して行った。

その時、名残惜しそうに、新たな命が内から再び母の腹を蹴ったことを、彼は知る由もない。

その日を境に、ウツシは頓に彼女を、彼女が宿す新たな命を気に掛けるようになった。

そして、無謀なことをやめた。

早く、里の数多の強者たちのように、自分も──そのためには修行はもちろん、多少無茶でもあらゆる状況での狩猟を、場数を重ねて──と、焦り過ぎることをやめた。

自分の現在の力量をかんがみた狩猟を重ねること、どんなに無様であっても、必ず無事に里に戻ること、生きることを優先するようになった。

そして、生きて帰って『会えた』時は──女性と、そのお腹の子にも、挨拶を交わすようになった。

『あ! こんにちは! お二人とも、お元気ですか!?』
『あらウツシくん、こんにちは! 今日もお疲れさま』
『その買い物籠、野菜たっぷりで重そうですね!? 俺が持ちますよ!』
『ありがとう。でもウツシくん、狩猟で疲れてるでしょう? 大丈夫よ、家はもうすぐそこだから』
『それじゃあ、なおさら! 少しだけなので!』
『ふふふっ……そう? ありがとう、ウツシくん。……あっ、この子も、ありがとうって』
『いえいえ、どういたしまして! お2人のお役に立てるなら、俺……すごく、幸せなので!』

狩猟疲れも、修行の苦悩も吹き飛ぶ、幸せに満ちたぽかぽかとした温もりに心身を包まれながら、ウツシはこれから里に生まれてくる子を想い続けてきた。

自分は親ではないので過干渉に気を付けつつも、けれど深く心を寄せ──見守ってきた。

やがて時を経て、その産声を聞いた時、生まれたばかりの『その子』を見て、理屈や言葉で説明し難い、愛おしさを知った。

『──やっと、会えたね……! 生まれてきてくれて、ありがとう……!』

@acadine