消えずの炎に誓う

MHRウ教×ハ♀。
両片想い。
※ハ♀の母親故人設定あり。回想シーンでハ♀の母親が話しているシーンがあるのでご注意下さい。

ウが自分を見守ってくれているのはいつからなのか、ふと気になってしまったハ♀。

食事と睡眠は狩りの基本であり、人間の土台。

修行の最初に里の教官ウツシに教わったそれを、彼の愛弟子たる里の強者、『猛き炎』と呼ばれし娘は、きちんと守り続けていた。

もちろん、今日も同じ。

狩猟前は『いつも』のように、澄空すみぞらの太陽の下、茶屋の片隅でうさ団子を口いっぱいに頬張って、その頬を膨らませたまま、流れるようにお茶を流し込み、ごくん、と平らげる。

屋外茶屋を営むヨモギに「今日も最高の食べっぷりだねぇ!」などと拍手をされながら、娘は元気いっぱいのガッツポーズと共に立ち上がって──とびきりの笑顔を咲かせるのだ。

そんな光景を、桜に飾られた集会所の屋根上から、ウツシが今日もかかさず見守っていた。

(ふふふ……愛弟子。今日も元気そうで、良かった……)

桜雲おううんの中に潜みながら、彼は空に近い屋根上で、密かに目尻を下げる。
うさ団子の食べっぷりからも、茶屋に来る前の歩き方からも、娘の元気は虚勢ではないことを確信できた。

今日も頑張るぞ、と言わんばかりの活力に溢れる娘はまばゆく、ウツシの目にはあまりにも魅力的に、希望に満ちて映った。

毎日彼女を見守り続けている彼の心はとても新鮮に高鳴り、たたら場の炎のように、愛おしさの熱が吹き上がる。

ふと、ウツシと娘の目線が、物理的な距離を感じさせないほどの臨場感で交わった。

娘は春光しゅんこうに煌めく桜も霞むほど可憐に笑いながら、ウツシに元気に手を振り始める。それ・・に、彼が口角を上げないことなど不可能で。

「──かぁわいいっ……!」

思わず心の声さえ溢れさせながら、ウツシは蜜のように蕩けた笑顔を浮かべ、花に誘われる蜜蜂のように、翔蟲を用いて娘の前へと飛んで行く。

「おはよう、愛弟子っ! 元気そうで何よりだ! 今日も狩猟日和だね!」

いつものように挨拶を交わせば、彼を見る娘の表情も、春のように朗らかにほころんで。

「えへへ……おはようございます、ウツシ教官! 今日も元気に行ってきます!」
「うん! 俺はいつでもキミを見守っているよ、愛弟子!」

これも、いつものやり取り。

けれど、今日の娘の反応はいつもの少しだけ違った。笑顔の花の中に咲かせる中に、ふと、興味の色が舞い降りる。

「ねえ、ウツシ教官は」
「うん? 何だい?」
「私のこと、ずっと見守ってくれてますけど、それって、その──……

娘の、昔と変わらない無垢な瞳が、ぱちりと大きくまたたく。

「やっぱり、私があなたに弟子入りしたから……ですか? それとも、そうじゃなくて……?」

少々不安そうな中、照れたようにほんのり頬を染めながら、彼女の瞳の中には答えを求める光が宿り、『なぜですか、いつからですか』と言わんばかりの、純粋な表情のまま。

不意を突かれた形の質問に、ウツシの瞳は、一瞬だけ小さく見開かれた。

そしてすぐに春光の下、桜の景色の中で、その双眸は柔らかに細められる。
彼の心は娘への想いで満たされる中でも、切なく、きつく締めつけられていた。

ここで『キミを誰よりも愛しているからだよ』と答えることができたならと考えたウツシだが、それを実行に移すことは、まだ、心がおののき言の葉が声に乗らず、できなくて。

「──俺がキミを見守っているのは……キミが俺に弟子入りをしてくれたからじゃないよ」
「そ、そう、なんですか? あ、あの、いつから、ですか?」
「ずっと……ずっと、ずーっと……ずぅっと、前からさ」
「そ、そんなに? 私が、生まれた時から、とか?」
「んー……ふふふふっ」

意味深に微笑みながら、ウツシが愛しげに娘の頭に、ぽんと片手を乗せる。

「俺は、ずっと……キミを見守っているんだよ。今までも、これからも、ずっとね。ふふふ……それは絶対に変わらない。何があっても俺はキミの味方だし、キミの力になるよ」
「それは、すごく嬉しくて、ありがたいんですけど……んー、何か、はぐらかされちゃった感じ」
「ふふ、ごめんね。話せば長くなってしまうんだ。今度ゆっくり話そう! 今は、狩猟を頑張っておいで! 今日はどこだい?」
「大社跡で、タマミツネです! 今日でニ度目です、頑張りますっ!」

瞳に花と太陽を宿し、確かな希望を輝かせ、娘がウツシに果敢な笑顔を見せる。
彼はゆっくりと手を離しながら「応援しているよ!」と清々しい笑顔で、胸の前で拳を握った。

「気を付けてね、我が愛弟子よ! 俺は、いつでもキミを見守っているからね! 安心して、全力で頑張っておいで!」
「はい! 行ってきまーす!」

笑顔の娘は軽やかな風となり、桜の花びらをふわりと巻き上げながら、駆け出して行く。

その背中を見守りながら、ウツシが「ふふっ……」と笑顔を溢して笑った。
小さくなっていく、すっかり逞しくなった愛しい背中を見守る彼の中に巡るのは、先ほどの、娘からの問いの答え。


──私を見守ってくれているのは、いつから……


「ん、ふ、ふふふっ……! 全く、そんなこと聞くなんて……


──キミは、本当に、昔からずっと、ずぅっとかわいい……


翔蟲を空へ解き放ち、ウツシは先ほどまで立っていた集会所の屋根上へと戻って行く。

清々しい蒼穹の下、里を一望できるほどの高い位置。そこに立った彼の鷹の目があれば、里の門を出て、光風に背を押されながら大社跡へと向かって行く、豆粒大の娘の姿を捉えることは容易い。

「──俺が……キミを、見守っているのは……

思わず小さく呟いた時、ウツシの声は、記憶を呼び覚ますような花風の中に溶けていく。


──遠い、遠い昔……

──キミのお母さんが、まだ、元気で……

@acadine