すだ
2025-08-17 22:19:27
6430文字
Public 主スバカグ
 

カグヤはスバルのことが分からない

舞手スバルと嫁カグヤ
絆レベル5くらい。
スバルに構われる、自分の魅力に無頓着なカグヤが戸惑う話。
いろはがカグヤへの世話焼き強火勢。
いろはがカグヤより年上だと思っている投稿者による妄想があります。
メインストーリーのネタバレあり。(スバルとカグヤの関係)
#スバカグ



「何かあった?」
 道すがら唐突に幼馴染に問われ、何のことか思い当たらないカグヤは瞬きした。
「何だか嬉しそうだからさ」
 スバルに指摘され、カグヤはああと頷いた。
「確かに嬉しい……のかもしれません」
 今日のいろはとのやり取りを皮切りに、カグヤは今までのことを思い返す。
 スバルに命を救われた後、寄る辺の無い自分にとって身寄りと言える者はスバルだけだった。
 けれど彼は己とは対照的に、四季の里のまとめ役として奔走し、人々を助け続けるアズマの守り人、大地の舞手になっていた。
 救われた命を粗末に扱うことは絶対にしないと決めていた。だが、心がついていかなかった。
 里の人は色々と気遣ってくれる。スバルも忙しい中、時折り様子を見にきてくれた。
 気を遣われれば遣われるほど、惨めになった。私は人に仇なすことをしたのに、こんな平穏を手に入れてはいけない。
 里を出ようと決め、密かに家を出た。
 それなのに、何故かスバルが気づいてしまった。
 スバルに諭され、モコロンに考えすぎるなと言われ、反撥心が生まれなかったかと言われれば嘘になる。
 それでも、唯一と言っていい理解者である彼の言葉を信じてみようと思えたのは、彼女の変化だったのかもしれない。
 始めは隣人のムラサメへの挨拶。次は里の皆が絶賛するいろは茶屋のお団子を食べに。
 毎日少しずつ、カグヤの世界は広がっていった。
 空いた時間にいろは茶屋へ行っては、甘味片手にいろはとの話に花を咲かせた。
 すずとかくれんぼをして遊ぶようになった。
 うららかのたっての願いで、彼女の弾く琴に合わせ舞の練習をすることが多くなった。
 タクミの手伝いで木材を運んだとき、『カグヤちゃんは力持ちなんだなあ』と感心された。
 サカキの家に寄っては貴重な書物を借りるようになった。
 ムラサメとは早朝の素振りから始まる鍛錬仲間になった。
 いつの間にか、他の里に足を伸ばすことも増えてきた。
 最近の一番の仲良しはコタロウだ。秋の里で見事に道に迷ったカグヤを助けてくれたのがコタロウだった。迷子になってしょんぼりしていた彼女を、秋の里は入り組んでいるから迷っても仕方ないと励ましてくれたのだ。
 そのコタロウがケガレのせいで故郷を追われたと知ったときは、目の前が真っ暗になった。許されなくても仕方ないと事情を話し謝罪をしたら、逃げられてしまった。
 仕方のないことだと分かっていたが、これが己の犯した罪なのだと、その日は足取り重く帰路についた。
 だが、話はそれだけで終わらなかった。
 ある日秋の里を訪れると、腕組みしたコタロウに遭遇した。驚くカグヤに、彼はこう答えたのだ。
「確かに家族とはなればなれになって悲しかったけど、ここにはクラマ様やヤチヨさん、みんながいるし、おれさびしくないんだ。お前が悪いヤツじゃないってのは分かったし、これからたくさん遊んでくれるなら許してやってもいいぞ!」
 それ以来、カグヤはたびたびコタロウに会いに行くようになった。彼の大好物の三色だんごを手土産に。彼女が遊びに行く度、コタロウは金色の瞳をキラキラと輝かせ、今日は何して遊ぶんだ? とまとわりつく。
 あまりに仲が良いせいで、クラマがカグヤに嫉妬したくらいだ。一時期、あからさまに避けられていた。さすがに大人気ないとヤチヨに怒られたらしく、ぶすっとしながら挨拶を返してくれるようになったが。
「全て失ったと思っていました。そんな私に、こんな日がくるなんて」
 温かい里の人たちを思い、カグヤの顔が綻ぶ。
「大切な人が増えて嬉しいと思える自分が不思議ですけど、嫌ではないんです」
「オレは?」
「何ですか先程から」
「オレのことはどうなの?」
 長年の付き合いだ、聞きたいことは何となく分かる。お兄さんぶるのに、ときどき子供のように拗ねてしまう。本当にどうしようもない人。
「長年の付き合いなのですから、分かっているのではないですか?」
 カグヤがそっぽを向くと、スバルが項垂れた。
「ええー。カグヤの口から聞きたいのに」
 オレは、キミのこと大切だと思ってるよ、と臆面もなく言ってのける。
 スバルからの圧に負けたカグヤは、軽く息を吐く。急におかしくなってきて笑ってしまった。
 どうした? とスバルが首を傾げる。何でもないと片手を上げてもなお、笑いは止まらなかった。
 全く、この人には敵わない。今まで思い悩んでいたのがどうでもよくなった。
 彼女がどう思おうとスバルが会いに来るのは変わらないのだから、これ以上考えるのはやめよう。
 笑顔のまま、カグヤはスバルに顔を向ける。彼の少し緊張した面持ちが、初めて舞を披露したときの幼いスバルを彷彿とさせた。
 あの頃から、カグヤの気持ちは変わらない。
「スバルは、ずっと昔から大切な人ですよ」
「そっか」
 えへへ、とにやける幼馴染にカグヤは呆れてみせた。
「そんなに嬉しいですか?」
「うん、嬉しいよ。カグヤから大切だって言ってもらえるのが一等嬉しい」
 スバルの真っ直ぐな言葉に心がざわざわする。くすぐったいような、締め付けられるようなこの気持ちは何だろう?
 ふわふわした心持ちのカグヤだったが、ふと思い至り黙り込む。
「カグヤ?」
「待って下さい。スバルあなた、以前はこんな頻繁に春の里には来ていませんでしたよね?」
 なのに何故、最近は毎日のように春の里に来てはカグヤの顔を見に来るのだろう。新たな疑問が生まれてしまったではないか。
「え? そうだっけ?」
 この反応は、明らかに何かを誤魔化している。
「私に誤魔化しが通用するとでも? 何年一緒にいると思っているのですか」
「いやぁ、ここ何年かは離れ離れだったしカグヤの気のせいじゃない?」
「スバル!」